山野哲也選手&124スパイダーが2018全日本ジムカーナ選手権でシリーズチャンピオンを獲得 V18を達成した王者に“強さ”の方程式を聞く

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アバルト124スパイダーを駆り、全日本ジムカーナ選手権PN2クラスに参戦している山野哲也選手が、スポーツランドSUGO西コースで開催された第7戦で優勝し、シーズン半ばでシリーズチャンピオンの獲得を決めた。今季、通算100勝に続き、“V18”の大記録を達成した王者に、その安定した強さの源泉を尋ねた。

──挑戦を続け、達成された“V18”という大記録。ここまでの戦いを振り返っていかがですか。

まず2018年の全日本ジムカーナ選手権シリーズは、苦戦を予想していました。それは強いライバルがたくさん出ているからです。去年半ば頃から速さを増したフェアレディZ、スイフトスポーツも速くなってきた。ほかにもライバルのアバルト124スパイダーはいますし、シビック、MINIなど、1トンを切る軽量なクルマから重量級のハイパフォーマンス車までPN2クラスは多種多様なクルマが参戦しています。そんな異種格闘技のような状況のなかで挑んだ開幕戦は、結果2位でした。優勝できなかったことが結果としてチームの気持ちを引き締めたというのもあります。また、自分のなかで大きかったのは第2戦の広島で優勝できたこと。あの日も第1ヒートではライバルに負けていましたが、ヒート2で逆転して優勝することができました。さらにその次の第3戦の恵比寿もまた逆転で優勝することができた。この前半の2戦目と3戦目の勝利が、今回のシリーズチャンピオンを早く決定する大きな要因になったかと思います。

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山野哲也選手。2017年から全日本ジムカーナ選手権PN2クラスで124スパイダーを駆り、2年連続でシリーズチャンピオンを獲得した。

──その第2戦と第3戦がうまくいった要因はなんでしょう?

ライバルが速くなってきたなかで、自分自身と124スパイダーの組み合わせにより発揮できるパフォーマンスを、より速くて確実なものにする、というのが今年のテーマでした。去年チャンピオンを取りましたが、そこで安心してしまうのが一番良くない。その意味では去年の最終戦で負け(2位)、今年の第1戦でも負けた(2位)のが、むしろチームの中で、“このままではいけない、クルマを進化させないといけない”という士気の向上に繋がったと思います。そこでスプリング、ダンパー、デフ、ブレーキなど、タイムに直結しやすい、もしくはセッティングに幅がある領域を見直しました。メカニックと細かく話し合いをして、感覚的には去年よりも2倍、3倍の精度までセッティングを煮詰めたのがポテンシャルアップへの貢献に大きかったと思います。

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写真は、2018全日本ジムカーナ選手権 第8戦(富山県イオックスアローザスポーツランド)のもの。山野選手はこの大会でも優勝し、今季6勝目をあげた。

──周りから見ていると順調に進んできたように見えますが、決してそうではなかったと?

相当努力はしていますね。セッティングももちろんそうですが、運転の仕方も徐々に変化させています。ドライバーとしては124スパイダーが好む運転をやらなければいけない。ではそれはどこにあるのか。2017年は試し試しでした。扱いが難しいクルマということではなく、むしろ扱いやすいのですが、各コーナーで走らせ方はひとつひとつ違うわけです。もちろんコースによっても異なります。そこで常に124スパイダーが性能を発揮できるセッティングを追求しながら、本領を発揮できる運転をする。その両方のマッチングが、今シーズン10戦中7戦でチャンピオンを決めることができた大きな要因になったと思います。

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──大きな記録を前にしたり、決定的瞬間が待ち受けていていたりする場面で平常心でいるのは難しいことだと思いますが、そういう時でも山野選手は乱れないですね。

自分自身、焦らないで落ち着いて走ることができる性格でよかったと思います。気持ちが焦ったり、攻めすぎて失敗したりすることのないように、常にクルマの動きに対して感受性を高めるように意識しています。運転というのはドライバーが主導しているように見えますけど、じつは操作に対するクルマの反応を受け取ることがとても大事で、その反応を、より多く受け取れるようにいつも心がけています。そしてその反応にピタリと合った操作をするのです。それには操作する側は常に落ち着き、クルマの挙動がどう出たのか。もっとハンドル切っていいのか、もう切らない方がいいのか。ブレーキはどうか。アクセルをどの程度踏むべきかなどを瞬時に判断し、冷静に対応することを意識しています。そうした点において自分は冷静な方だと思います。速く走るためにはクルマの性能を引き出す。では性能を引き立つために自分に何ができるかというのを常に冷静に考えるようにしています。

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出走前のコースウォークを行なっている山野選手(左)。「コースを自分の庭のようにしたい」との思いから、毎回できる限り時間をかけて入念にコースの下見をする。走ってコースを回る理由は「1キロでもいいからマシンの走行速度に近づきたいから」だという。

──そうした点において124スパイダーはパートナーとしてどうですか?

最強ですね。たくさんのインフォメーションを伝えてくれるクルマです。124スパイダーが特に得意なのは、コーナーの進入時の向きの変わりがいいところです。フロントのノーズの入りが良いのはもちろんだけど、さらに前後バランスがすごくいい。その前後バランスを維持するような運転が一番速いんです。そして前後バランスがいいということは、あまり考えなくても思い通りに進んでくれるということなんです。これは運転の精度を高めることに直結します。結果的に124スパイダーで勝ち取った優勝数は、去年が6/8で、今年は7戦目の終了時点で5/7。この勝率の高さはパフォーマンスの高さを物語っていると思います。ベースの持っているハンドリング性能の良さが、モータースポーツにすごく向いたクルマであることを証明していると思います。

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──最後に、あと2戦残っていますが、どのように戦っていきますか?

今年は通算100勝も果たせたし、シリーズチャンピオンも取ることができて、とてもいい結果を残せていると思います。とはいえ、安心することはチームのパフォーマンスを下げることにつながると思って戦っているので、次の大会に向けしっかり準備をして、いつも通りコースウォークを入念に行い、レースではパフォーマンスを確実にかつ最大に発揮できるように心がけます。それに尽きるかなと。その結果として、勝てれば最高だと思います。

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1992年にJAF全日本ジムカーナ選手権でチャンピオンを獲得して以来、同選手権で18回チャンピオンを獲得。ほかにもSUPER GTで3年連続チャンピオンに輝くなど、数々の日本記録を保持するレーシングドライバー。レース参戦のかたわら、自動車関連の開発テストやドライビングスクール、安全運転の啓蒙、ジャーナリスト活動もこなす。

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