りんご先生の運転お悩み相談室 第4回「車幅感覚を鍛える 編」

運転が上手になりたい人に向けた『りんご先生の運転お悩み相談室』。SCORPIONNA DRIVEのインストラクターで、ドリフトクイーンでもあるプロドライバー、“りんごちゃん”こと石川紗織さんに、今回も楽しくレクチャーしてもらいましょう。

前回は、「バックでの車庫入れが苦手」というユーザーさんからのお悩みに答えるかたちで、その克服方法についてアドバイスしてもらいました。今回は愛車の取り回しに深く関わる「車両感覚」についてのお話です。


クルマの車幅間隔を掴むことは、狭い道でのすれ違いや車庫入れといった日常の運転に重要。さらにはモータースポーツでギリギリを攻めるドライビングにおいても、クルマの車幅間隔を理解しておくことはタイム短縮の鍵となるという。

一番大切なのは、やっぱり落ち着いて運転すること

──狭い道で他のクルマと擦れ違うのが少し怖い、という人はいますよね。

そうですね。運転席に座っているときに、クルマの左右の幅や前後の長さ、つまり車両感覚が上手く掴めないという人は、意外に少なくないと思います。誰だって大切なクルマをぶつけたり傷つけたりしたくないけど、車両感覚がちゃんと掴めていないと、どこまで寄せられるかがわからない。“怖いな”と感じても、それは無理のないことでしょうね。

──克服する方法ってありますか?

まずは、やっぱり気持ちの問題ですね。前回の繰り返しになっちゃいますけど、大切なことなのでもう一度お伝えしておきますね。どんな状況になっても、パニックになったり慌てたりしないこと。急いだって慌てたってできないものはできない、ということを意識しましょう。冷静さを欠いてしまったら、それがミスにつながることって多いんですよ。どんなときでも落ち着いて運転すること。それが一番大切なんです。


狭い道でのすれ違いなど怖いと思う場面では、周囲に他のクルマがいることが多い。それがプレッシャーになって焦ってしまいがちだが、まずは落ち着いて自分の“できる力”を引き出してあげることが大切という。

──実際に車両感覚を鍛えるには、どういうことをしたらいいんでしょうか?

車両感覚が鋭い、鈍いって本当に人それぞれなんですけど、慣れが解決してくれるものでもあるんですよ。慣れることで自分の感覚に擦り込んでいく。例えばクルマを停めた状態で運転席に座って、友達とかにクルマの四隅に立ってもらう。そうすると自分と立ってくれてる人との距離から、自分のクルマの四隅の位置を目視できますよね。立ってくれてる人にはクルマのボディに沿って動いてもらうと、死角になる部分がどこにどれくらいできるのか、っていうこともわかるようになってきます。


クルマの端は運転席からは見えないので、どのあたりなのかを把握しておく。友人にクルマの端に立ってもらうと、自分とクルマの端との距離感が掴みやすい。

左側がどこまで寄せられるかが掴みにくい人は、クルマから下りて確認するのがベストなんだけど、自信がない人は誰か上手な人にお願いして、左側の壁にベタベタに寄せてクルマを停めてもらい、運転席からの距離を自分の感覚に擦り込むとか。原始的な方法ですけど、そういうことを繰り返していくと、徐々に車両感覚っていうものが把握しやすくなってくるはずですよ。

今、自分のクルマの4つのタイヤはどこにある?

──慣れる以外のトレーニングはありますか?

車両感覚、特に車幅の感覚をとにかく鍛えたくて私がやった練習は、道路に描いてある線を踏むこと(笑)。意識してクルマの位置を微調整できる感覚が鍛えられます。これは親しいラリードライバーもしていました。線から外れるとタイヤから伝わってくる感じが変わるんで、わかるんですよ。これ、ものすごくいい練習になったんですよ。もちろん私たちも安全な場所を選んで行いました。このお話で重要なのは、普段クルマで走ってるときにも、車線がどこにあるのか、それに対して4つのタイヤはそれぞれどこにあるのか、それをちゃんと意識しましょう、っていうことなんです。

──右ハンドルのクルマの場合は、運転席に座って前を見て、ダッシュボードのちょうど真ん中の延長上に自分のクルマの左フロントの角がある、だから左側の車線のラインが来る位置はダッシュボードの中央を目安にしろ、っていわれますよね。


運転席から見て、ダッシュボード中央の延長線上にクルマの左コーナーがあると言われる。誤差はあるが、だいたいの目安になるかもしれない。

それはドライバーの体格やドライビングポジションによって変わるので、あくまでもざっくりと、ですけどね。自分のクルマの4つのタイヤがそれぞれどこにあるのかを把握できるようになると、車両感覚というものについて必要以上に悩むことはなくなります。線を踏んで走るっていうのは、そのためのトレーニングだったんです。普通に街やワインディングロードを走りながらっていうのはともかくとして、例えば他にクルマの停まってない駐車場でゆっくり──本当にゆっくりでいいので──走りながら、駐車スペースのフロント側の線を踏み続けてみるとか、あるいは区画の途切れたところで曲がるときに右のフロントタイヤで区画の角を踏んでみるとか左のリアタイヤで角を踏んでみるとか、そのくらいは試してみてもいいかもしれません。


安全な場所で、車線を踏んで走ってみる。これができると、タイヤの位置が把握できている証拠。りんご先生も実際にやっていたトレーンングなのだという。

ちょっと目視しにくいので難易度は高くなりますし、広場にパイロンを置いて、これも徐行ぐらいの速度でいいから右のタイヤでパイロンの平らな部分を踏んだり左のタイヤで踏んだり、そういうのを繰り返す練習方法もありますね。私たちは普通に走っていってパイロンの平らな部分を踏んだところで停止するっていう練習を、左右それぞれのタイヤでやったりもしてました。


難易度はぐっと高くなるが、パイロンの土台をタイヤで踏みつける練習。スピードは出さず、ゆっくりアプローチするのでOK。パイロンはクルマに近づいたあたりで目視できなくなるのでかなり難しいが、これができるとタイヤの位置が正確に把握できていることになる。

──バックで車庫入れするときにも出てきましたけど、パイロンっていろいろ役立ってくれるんですね。

そうですね。でも、それはそれとして、見逃しがちだけど大切なことが、実はもうひとつあるんです。それは、バックミラーの位置をちゃんと調整すること。ちゃんと位置を合わせてないと周囲を正確に確認することはできないのに、そこができてない人が意外と多いんです。例えば右のミラーは上を向いてて左のミラーは下を向いてる、とか。ミラーは後ろが映っていれば何でもいいっていうものじゃなくて、車両感覚を正確に掴むためのモノサシにもなるんです。私の場合は左右のミラーのそれぞれがボディの3分の1を写してて、水平線が上下の真ん中かちょっと下向きに向けるぐらいに必ず合わせて走ります。それはあくまでも私のやり方で、それぞれ好みの問題とかもあると思うんですけど、そうやって自分自身の座標をしっかり定めると、空間認識の感覚に活かせるようになるんです。左右のミラーそれぞれにボディがどれくらい移るか、左右それぞれの水平線をどこに置くのか、自分のルールを決めて走るように心掛けるだけで、ずいぶん変わると思いますよ。


バックミラーを自分の体格やドライビングポジションに合わせてしっかり調整することも、空間認識を高めることに役立つという。

りんご先生の近況

この企画を担当させていただくようになってから、日々の暮らしで出会う女性に、隙あらば運転について訊ねるようにしています。そこで運転があまり好きではないという人が意外と多かったことに驚かされました。

私は走りはじめてから今になっても、サーキットをしこたま走った後の長距離移動ですらハンドルを握るのが楽しいです! 今まで運転することが好きな方とばかり触れ合ってきたので、そうではない人の気持ちにこんなにも鈍感になっていたのかと衝撃を受けました。でも、きっとそんな中に“さらに楽しめるヒント”や“楽しさをお伝えするヒント”が詰まっているはず!

ということで、運転が好きじゃない、苦手、上手くなりたい、という女性との出会いや触れ合いを求めています。最近ではもっぱら、行きつけの美容師さんを質問攻めにしてたりします(笑)。

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文 嶋田智之