りんご先生の運転お悩み相談室 第6回「荷重移動を意識して走ろう 編」

今よりも運転が上手になりたい人、そして自分の運転を基本から見直したい人に向けた『りんご先生の運転お悩み相談室』。前回は“ハンドルの正しい操作の仕方”をご紹介しましたが、今回のテーマはハンドル操作だけに頼らず上手に曲がる方法、「荷重移動」についてです。SCORPIONNA DRIVEのインストラクターであり、ドリフトクイーンでもあるプロドライバー、“りんごちゃん”こと石川紗織さんにわかりやすくレクチャーしてもらい、楽しく学んでいきましょう。

タイヤにより多くの重量を載せるイメージで

──前回はハンドルの正しい操作方法を教えてもらいました。クルマをスムーズに曲げるための重要なポイントでしたね。

そうですね。でも、クルマをキレイに曲げるためには、ハンドル操作以外にも重要なことがあるんです。それは“荷重(かじゅう)”をコントロールすること。クルマは、4つのタイヤのどこに荷重をかけるかで、曲がり方や動き方がガラッと変わるんです……と、いきなり言ってしてしまうと、頭の中にクエスチョンマークが出てしまうかもしれませんね。順番にお話ししましょう。


ドライビング講師のりんご先生(石川紗織さん)。

荷重というのは、そこに掛かる重さのこと。この場合は、タイヤにかかるクルマの重量だと思ってください。4つのタイヤには静止状態でも重量がかかっていますが、タイヤというのは、上から強い力で押し付けられるほど持っている力を発揮しやすい、という性格を持っています。つまりクルマの重さがグッと掛かっている時の方がグリップするということです。


タイヤはある一定のところまでは、重量がかかった方が曲がる力が強くなる。荷重をかけるというのは、静止状態より多くの重量をタイヤに載せることで、曲がる力を増やすということ。

例えば、皆さんも消しゴムを使ったことがありますよね? 消しゴムって力を入れないで紙をこすると紙の上を滑ってしまうけど、手に力を入れてこすればギュッと手応えが重くなりますよね。消しゴムが紙に対して強力にグリップしているわけです。

──テーブルの上にてのひらをあてて擦ってみるときも同じですよね。軽く置いたときにはスルスル動くけど、上から押さえるように力を込めて動かすと、てのひらじゃなくてテーブルが動いちゃったり。

それは力を入れ過ぎです(笑)。でも、そういうことです。タイヤのグリップも基本は一緒。路面にタイヤを押し付ける力が強く働けば、その分だけグリップ力が強くなります。

クルマを操る時は、ハンドルを切るだけでもクルマは曲がりますけど、スポーツ走行で勢いがついたクルマをより強力に曲げるには、荷重を利用してあげる。ここに気を配りましょう、っていうことなんですね。


コーナーの手前では、アクセルを離したりブレーキを踏むことで、前輪により多くの荷重がかかる=曲がりやすくなる。

言葉にすると、難しく聞こえるかもしれませんが、普段皆さんが運転してるときに、荷重が右にかかったり左にかかったり、前にかかったり後ろにかかったり、ということは当たり前に体感しているはずなんですよ。

例えば右コーナーを曲がるとき、ハンドルを右に切っていくとクルマが曲がり始めます。そうすると自分の身体がやや左側に寄るような、あるいは重力が左側にかかっているような感覚がするでしょ? それと同じことがクルマにも起こっていて、クルマの重力も左右均等じゃなく、左側により多くかかっているんです。つまり左側のタイヤに、より多くの荷重がかかっている状態です。


モータースポーツではより大きな遠心力やGが働く。その力をタイヤに伝わるように操作することで、さらなるグリップ力を引き出すことができる。

もっとわかりやすいのは、ブレーキペダルを踏んだとき。ブレーキが効きはじめると自分の身体がシートの上で前の方にいく感じがしますよね? 同じことがクルマにも起こっていて、クルマの重量も前の方に寄っていって、前のタイヤに荷重がかかります。

逆に加速しているときには自分の身体がシートに押し付けられるようになったり、アゴが上がらないように首に無意識に力が入ったりしますよね。そのときには前のタイヤにかかる荷重が減って、後ろのタイヤにかかる荷重が増えている状態なんです。


発進時は前輪から荷重が抜け、後輪により多くの荷重がかかる(写真左)。逆にブレーキ時は前輪により多くの荷重がかかる(右)。

ものすごく簡単にまとめちゃうと、右コーナーを走っているときには左側に、左コーナーを走っているときには右側に、減速するときには前側に、加速するときには後ろ側に、それぞれ荷重がたくさんかかる、っていうことですね。

それをハンドル、アクセル、ブレーキの3つの組み合わせでコントロールして、タイヤがもともと持っている能力をできるだけしっかり引き出して走ろう、というわけです。

言葉だけで理解しようとするのは、なかなか難しいですが、ドライバーがする操作は、とってもシンプルです。クルマをキレイにスムーズに曲げていくためのアクセルペダルとブレーキペダルの操作は踏むか戻すか。簡単に言っちゃうと、それだけです。

──大切なのはいつペダルを踏んでいつ戻すか、ということですね?

例えばコーナーでアクセルペダルを一定の状態で曲がっているときのことを想像してください。そこからペダルを踏み込んでいくとクルマは加速体勢に入って、荷重が後ろに移るから曲がりにくくなります。舵の役目を果たしている前のタイヤの荷重が抜けてグリップが減って、さらに速度も上がっていくから遠心力も次第に強くなって、その影響もあってノーズの方から外に膨らんでいこうするわけです。


コーナーの手前では、まずはフロントタイヤに荷重を乗せるイメージで走らせたい。イメージした通りに荷重を操れる実感が出てきたら、次のステップにレベルアップだ。

逆にアクセルペダルを戻すと荷重が前に移ります。舵を切っている前のタイヤのグリップが増えて、クルマはノーズの方からスッと内側に入っていこうとします。ブレーキペダルを踏むとノーズはさらに内側に入ります。

ザックリですけど、それが基本的なクルマの動き。前に荷重をかけたり後へ荷重をかけたりというのをアクセルペダルとブレーキペダルでコントロールしながら走れるようになると、クルマをさらにスムーズに曲げられるようになるんです。できるようになったら、クルマを走らせることがもっともっと楽しく感じられますよ。

──どうすればコントロールできるようになるんでしょう?

練習もとってもシンプルで、普通に街乗りとか山道を走っているときに勉強できます。コーナーを曲がっているときにアクセルペダルを一定で走ったり、軽く……軽くですよ! 踏み込んでみたり戻してみたりしてみてください。もちろんちゃんと安全を確認しながら、というのは絶対ですよ。でも、ほんの軽い操作であっても、クルマの動きは間違いなく変わっているんです。それを感じ取れるようになることが、最初のステップですね。

こういうのを“荷重移動”といいますけど、サーキットを走ったりするときにもここはとても重要な要素。突き詰めようとしていくと、とっても奥が深いです。でも、サーキットは走らないという人でも、安全にクルマを走らせることにも繋がりますから、少しずつでいいのでできるようになるといいですね。

りんご先生の近況

この冬は風邪もひかずインフルエンザにもかからず、マスクのおかげだと思います。ソーシャルディスタンスが保てるところにいるときと、人が多いところではマスクを使い分けています。でも、ドライビングレッスンをするときには、当然ですけどより効果的な不織布マスクをしていて、座学のときも同乗走行のときもずっとマスクの中でしゃべってるんですよ。そうするとときどき息が上がってきて、心拍数も上がってきちゃうことがあるんです。はぁはぁはぁ……っていいながら説明したりして(笑)。それに声が通らないから一生懸命声を出そうとしちゃって、ノドが枯れて声が出にくくなったりもするんです。これはまずい! と思っていて、マスクに負けない体力をつけなきゃ、マスクに負けない発声方法を身につけなきゃ、と感じている今日この頃です。どなたかいい解決方法をご存じだったら、ぜひ教えてください! って、これじゃお悩み相談室じゃなくて、私のお悩み聞いてください、っていう感じですけど(笑)。

★オンラインイベント開催のお知らせ
2021年4月3日(土)20:00-21:30に、クルマを愛する女性ドライバーのためのコミュニティ「SCORPIONNA DRIVE」のオンラインイベントが開催!
石川紗織さん、バイク女子部通信 編集長 松崎祐子さんをゲストにお迎えし、モータージャーナリスト飯田裕子さんのMCでお届けします。走りを愛する女子同士、車やバイクを操る歓びやロングツーリングの楽しさなどについて語らい合います。以下URLよりご応募のうえ、ぜひご視聴ください!
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文 嶋田智之