りんご先生の運転お悩み相談室 第3回「バック車庫入れの不安を克服」

運転が上手になりたい人に向けた『りんご先生の運転お悩み相談室』。今回もSCORPIONNA DRIVEのインストラクターであり、ドリフトクイーンでもあるプロドライバー、“りんごちゃん”こと石川紗織さんに、楽しくレクチャーしてもらいましょう!

これまでに「運転に最適なシューズ選び」「ペダル操作」についてそれぞれ紹介しましたが、今回はりんご先生がアバルトユーザーから実際に受けたお悩みに応えるかたちで進めていきます。それは“バックの車庫入れが怖い”という人へのアドバイス。

ここは無理かも……と思ったら、サッと諦めて次の手を考える

──バックの駐車が苦手な人は結構多いと思いますが、何かいいコツはありますか?

ああ、わかります。女性に多いかもしれませんね。私もわりとバックで駐車するのは苦手でしたから。とくに最近は丸いカタチをしたクルマが多く、四隅を掴みにくいのは確かだから、車両感覚を捉えにくいところはあるかもしれませんね。車両感覚がちゃんと掴めていないと、ぶつけたり擦ったりしてクルマを傷つけちゃいますからね。だから怖さを感じたり、苦手意識が生まれたりするんですよね。


緊張するバックでの駐車……。でも焦りは禁物。自分なりにうまく駐車できる“勝ちパターン”を見つけ、それを実践することを心掛ければ不安も軽減するはず。

クルマをぶつけたり擦ったりしちゃう原因を考えてみると、まずひとつは心理的な理由があると思うんです。例えば“このまま進んだらマズイかも……”という状況で、軽くパニックになって慌てて進んでしまったり……。冷静な気持ちで停止して、少し後ろに下がって軌道を変えれば防げるのに、慌てるばかり擦っちゃうというもの。もうひとつは運転のスキルの問題で、車両感覚が把握できてなかったり、ハンドルを切りすぎたりアクセルを踏みすぎたりして、予想してないところにクルマが向かっちゃうパターンがあると思います。

性格的な問題、心理的な問題については、解決策はひとつしかないんですよ。まず、急いでも慌ててもできないものはできないし、冷静さを欠いたらミスもしがちになるから、焦らない。後ろに急いでそうな人がいても、そこで自分がぶつけたり擦ったりしたらもっと時間をロスしちゃうかもしれないと考えて、落ち着いて運転すること。でも周りをイライラさせちゃうのは確かなので、シートに座ったままでもいいから頭を下げるとか、ゴメンナサイの気持ちは素直に表明する方がいいとは思いますけど、ある意味、開き直ることが大切です。


駐車中に他のクルマが待っていたりすると、焦ってしまうもの。でも慌てても解決しないので、ひとつひとつの動作を丁寧にこなしていけば大丈夫!

駐車スペースを探しているときに“ここは無理かも……”と思ったら、無理に入れようとしないで、素直に諦めて他のスペースとか、もっと入れやすい駐車場を探す。がんばらないこと。これ、大切です。狭い道を走るときも同じで、ここ入ってもだいじょうぶかなぁ……って不安になったら、入らないで迂回する。不安に感じたらそれはできないものだと考えて、諦めて次の道を探す。そんなふうに落ち着いて運転することが、何より大切です。

それとバックで駐車スペースに入れるのが苦手だからといって頭から入れちゃう人もいるんですけど、そうすると出るときにはバックになるわけで、そっちの方が周りを確認するのも大変だし技術がもっと必要です。問題を先送りにするだけじゃなくてさらに大きくしちゃうようなものだから、できる限りバックで入れるようにする方がいいですね。

“素早く入れる”より“きっちり入れる”のが上手な運転

──駐車場にバックで入れるときのコツって、何かありますか?

車庫入れをするときって、一度、駐車スペースを通り過ぎて停止することになるわけですよね。その停止の仕方から考えるのがいいでしょうね。バックで駐車スペースに入れるのが苦手な人は、バックすることそのものが苦手であることが多いんです。だから、ハンドルを切るのは前進するときだけで、下がるときにはなるべく真っ直ぐ下がる。最初はそれを心掛けるようにするのがいいかもしれません。それだと、前進しながらハンドルを右に切るとクルマは右を向こうとするけど、後ろに下がるときに右に切ったらクルマはどっちに向くんだっけ? って悩んじゃう人の問題も、ほとんど解決できます。


進路を曲げながらバックするのが苦手という人は、ハンドルを切るのは前進時だけにして、バックの時はまっすぐ下がるようにすれば車庫入れが楽に感じられるはず。下がったら、また前進しながらハンドルを切り、まっすぐバック。これを繰り返して駐車位置にクルマの角度を合わせていく。

教習所では駐車スペースを通り過ぎて停止するときに、駐車スペースに対して垂直になるように停めるって教わったかもしれませんけど、それは車庫入れが得意なドライバーにとっても、実はあんまり実践的な方法じゃないんですよね。だから、もちろん後続車とか周りに注意を払うのは当然ですけど、停めるときには角度をつけてアプローチをするといいんです。どういうことかというと、例えば自分の進行方法に対して左側に駐車スペースがある場合には、なるべく駐車スペース寄りにゆっくり走行して、運転している自分が駐車スペースを通り過ぎるタイミングでグッと右側にハンドルを切って、少しでも自分のクルマの角度が駐車スペースに対して平行に近づくようにして停める。その方がお尻を入れやすいですからね。そこから先は、まっすぐ下がって、前に出ながらハンドルを切ってクルマの角度を調整して、またまっすぐ下がって、前に出ながら角度を調整して……という感じで、ていねいに確実にスペースへクルマを収めていく。ほら、クルマを入れるための長方形のスペースの前に自分のクルマがまっすぐ停められたら、まっすぐ下がるだけで簡単にクルマはスペースに収まりますよね? でも、そこまで広々とした駐車場っていうのはほとんどないから、それになるべく近づけるように停める。そういうイメージを持ってアプローチするといいと思います。

──そうなると、何度か切り返しが必要になりますね。

もちろんです。でも、切り返しは何度やってもいいんですよ。よく自信のある方は切り返しをせずに一発で入れようとするんですけど、大切なのは早くクルマを停めることじゃなくて、確実に駐車スペースに収めること。きっちり綺麗に停められること。パパッとクルマ車庫入れできる人が“上手い人”なんじゃなくて、ていねいに確実にちゃんと停められて初めて“上手い人”なんだと思います。隣のクルマとか障害物などと自分のクルマの距離に自信がないときには、途中でクルマを停めて、降りて確認するぐらい慎重でいいです。そうやって慌てず急がず確実にクルマを駐車スペースに入れるように心掛けていると、いつの間にか苦手意識が薄らいで、自然とスムーズに車庫入れができるようになっていきますから。私がそうだったので(笑)。

──なるほど。りんご先生もそうやって上手くなってきたのですね。

わたし、苦手意識はもうないですけど、でも今も車庫入れのときにはバックをするときにあんまりハンドルを切らないようにしてますよ。だいじょうぶかな? と思ったら、クルマから降りて確認もしています。


124 spiderには、ガイドライン表示機能付きのリアパーキングカメラが装備されており、車両後方の障害物の有無や、白線に対してクルマが曲がっているかを確認しやすい。このような装備も有効に使いたい。

それに、私がバックで車庫入れするときには下がるときにハンドルを切らないという方法をオススメするのには、実はもうひとつ理由があるんです。

クルマの運転が本当に上手な人って、クルマが停止してる状態ではハンドルを切り込まないことが多いんですね。アクセルを少し踏んでタイヤが転がり始めてからハンドルを切り始めるんです。なぜかというと、それが理に適っているから。というのも、ハンドルがいっぱいに切れている状態って、アクセルをちょっと踏んでもクルマは進みにくいんです。タイヤって基本的にはまっすぐ進んだりスムーズにコーナーを曲がるように作られているものだから、据え切りみたいに目一杯に切った状態だと、切れているタイヤそのものが抵抗になって進みにくいっていう性質があるんです。

でも、多くの人はそれを知らないので、完全に停止してる状態からハンドルを切り始めて、ハンドルが切れてる状態でアクセルを踏んじゃう。ところが、あんまりクルマが進まないから、ついアクセルをグッと踏んじゃう。今度は思っていたよりクルマが勢いよく動いちゃう。特にバックするときに、それが原因でぶつけたり擦ったりしちゃうっていうこと、意外と少なくないと思いますね。アクセル操作の加減がちょっと難しいんです。前回までのアクセル操作のお話が、こういうところにもつながってくるんですよ。

そんなこともあるので、バックでの車庫入れが苦手という人には、私は下がるときにはハンドルを切らないという方法をオススメしているんです。

──あんまり日常的とはいえないけど、パイロン(カラーコーン)を使って練習することもできますよね。

そうですね。ホームセンターやネット通販でパイロン(カラーコーンなど)はひとつ数百円で売ってますから、それを幾つか買うと、いろいろ練習に使えますよ。例えば広場に駐車スペースを想定してパイロンを置いて、そこに正確にいられるように練習するというのは絶対にあり、です。実はパイロンってシートに座った状態では位置の確認がしにくいので、自分がちゃんとミラーを正しく合わせているか、ちゃんとミラーを確認してるかというチェックもできるから、かなり有効だと思いますよ。

りんご先生の近況報告

最近ようやくサーキットが再開したりして、ドライビングレッスンも実施できるようになってきてはいるんですけど、やっぱり“密”を避けるなどの対策は、私たちもやっていかないといけないと思っています。これまでは同乗レッスンとか、人対人の対面でやってたんですけど、近頃では動画を駆使したレッスンをはじめています。練習会で走っているところを撮って、それに細かくコメントをつけた動画にしてお返ししたり、とか。これが現場でコメントをいわれるより客観視しながら勉強できるということで、思っていたよりも好評でして(笑)。私、実は人前で話すのって得意な方じゃなくて、それなのに目の前に人がいない無人の状態でカメラに向かって話すとか、戸惑うことばかり。これまでは人の反応が気になって緊張していたんですけど、今は無反応な中で話をするということに対して、ものすごく緊張してるんですよ。なので、緊張しないコツを身につけようと思って、緊張しないノウハウ本だとか、スピーチが上手になるノウハウ本だとか、メンタルを鍛えるために岡本太郎さんの本を読んだりしてます。何かいい本があったら教えてください(笑)。


りんご先生の愛読書。響いたページは折り目をつけて何度も読み直すのだとか。

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文 嶋田智之