運転は必ずうまくなる! 山野哲也選手直伝「これまでのドライビングを超えられるか」
山野哲也選手によるプライベートレッスンを特別公開
フォトグラファーのケイ・オガタ氏が、アバルトの魅力を刺激的に表現するプロジェクト「The SCORPION SPIRIT」。好評を博した2019シーズンのテーマは、「今日までの自分を、超えられるか。」 さらなる高みを求め、攻め続ける、様々な分野のオーソリティをフィーチャーした。その第2弾WEBムービーで、プロドリフトドライバーの石川紗織選手とともに、正確無比なドライビングで魅了してくれたのが、レーシングドライバー山野哲也選手。「The SCORPION SPIRIT」ではプレゼント企画も実施し、第2弾WEBムービーをご覧いただいた方には「山野哲也選手によるプライベート ドライビングレッスン」が用意された。このたび、多数の応募の中から見事当選された竹下力さんと、ご友人の宮内秀郷さんをお招きし、千葉・浅間台スポーツランドにて贅沢なプライベートレッスンが実施された。JAF公認モータースポーツで国内最多優勝記録を持つレーシングドライバーは、果たしてどんな技術を伝授してくれたのか。レッスンの模様を2回に分けてお届けしていく。
見事プライベート ドライビングレッスンを射止めたのは、竹下力さん。ご友人の宮内秀郷さんと一緒に受講された。竹下さんは、サーキット走行等の経験があり、「マニュアル車が好きで、走ることが大好き」と話すエンスージアスト。宮内さんもサーキット走行や氷上走行の経験があり、レクチャーの舞台となった浅間台スポーツランドの走行経験もあるとのこと。この2名のドライバーが、「595 Competizione(コンペティツィオーネ)」のステアリングを握った。
レッスンは、全日本ジムカーナ選手権でV19を達成している山野選手が自ら設計したコースおよびプログラムにて繰り広げられた。レッスンの狙いは、上達につながる運転の基本を学んでもらうこと。メニューはSTEP1の「フル加速・フルブレーキ」に始まり、STEP2「ブレーキを残したターン」、STEP3「8の字走行」、STEP4「テクニカル走行」、STEP5「複合コース」で構成され、項目ごとに習得してもらいたいテーマが設定されていた。さっそくレッスンの内容を紹介していこう。
STEP1 クルマの最大制動力を知る
最初のレッスンは、フル加速とフルブレーキ。スタートラインから全開で加速し、フルブレーキをしてパイロンの前で止まることを目指す。簡単そうに聞こえるが、これが実際にやってみると、とても難しそうだった。決められた位置に止まるだけならブレーキの踏力を調整すればいいが、山野選手から課されたミッションは、フルブレーキを維持すること。つまりブレーキングの手前から、クルマの制動距離を計算に入れてブレーキポイントを見定め、そこから強い踏力を持続し、決められたポイントに停止しなければならないのだ。
1本目、竹下さんが挑戦する。さすが運転に慣れているだけあり、フル加速はお手のもの。ところがブレーキングでは、パイロンの随分手前で停止してしまった。「まだまだ余裕がありますね。それにブレーキの踏み始めの踏力をもっと強くしましょう」と山野選手がアドバイス。竹下さんは「ブレーキをロックさせていいのですね?」と確認し、次のトライ。クルマが停止した位置はまだパイロンの手前だった。「初期のブレーキの踏力がまだ弱いですね。思いっきり、ドカーンと踏みましょう。これ以上ないというくらい強く踏みつけ、なおかつ、ブレーキペダルを足の裏で“ネジ込む”みたいな動作を入れてやるとよく止まるのでやってみましょう」。回を重ねるごとに上達したものの、「とても難しかった」というのが参加者ふたりの感想。フルブレーキで計算通りに止めることの難しさを実感した。
山野選手にフルブレーキング練習の狙いを聞いた。
「しっかり加速して、しっかりブレーキを踏む。これができるようになると、そこからの上達が早いのです。ところが実際はサーキット走行を経験した人でも、フル加速をし、フルブレーキングする、この単純な練習を積む人は少ないかもしれません。それが役に立つという実感が湧きづらいからかもしれませんね。でもクルマの制動力をフルに引き出して、しっかり止められるようになると、“止まれる自信”みたいなものが身に付きます。すると、自然とアクセルを踏める自信も付いてくるのです。ドライビングのあらゆる自信につながるという意味において、ブレーキングはとても大事なのです」
STEP2 クルマの旋回軸を意識しながらターンする
次なるレッスンは、ブレーキを残しながらコーナーに入っていく練習。ストレートでフル加速し、コーナー手前のパイロンを目印に、ブレーキングを開始。そのままステアリングを切り込み、コーナー途中のクリッピングポイントで停止するというメニューだ。山野選手によると、クリッピングポイントを通過せず、あえてそこで停車することで、クリッピングポイントが速度の最下点となる感覚を身につけることが重要とのこと。クリッピングポイントの手前で減速し、アクセルオンでクリッピングポイントを抜けていく人が多いがこれは間違いで、速い人ほど、クリッピングポイントが速度の最下点となる走り方をしているという。
まずは竹下さんがコースイン。ストレートで加速し、パイロン付近でブレーキングを開始する。その後、ブレーキを残してコーナーに進入するが、進入して間もないところでクルマは停止してしまった。山野選手がアドバイスする。「コーナーへのツッコミはよかったですね。ただブレーキを踏み過ぎていて、最後に止まったときもABSが効いてしまっていたので、操舵をあてながら、ABSがかからないようにブレーキを弱めていきましょう。また、手前で止まってしまったということは、もっとブレーキを遅らせられるということですので、ブレーキの踏み始めも遅らせましょう」。5本ほど練習して、宮内さんにバトンタッチ。宮内さんは勢い良く加速してくるも、やはりクリッピングポイントまで届かず停止。踏力を緩めていく操作が難しい模様だ。「ステアリングを切り始めるポイントをもっと早くするのと、コーナーのインに来た時にブレーキを踏みすぎています。最初は100%の勢いでバンッと踏み込み、そこから踏力を50%とか40%に抜いていく感覚で走ってみてください」と指導を受けていた。
山野選手にポイントを聞いた。
「ブレーキを残してコーナーに入る理由は、ブレーキを、クルマを曲げるために利用するためです。その感覚をつかんでもらうのがこの練習の目的です。クルマが旋回する時、旋回の軸となる点を旋回軸と言いますが、その旋回軸は、加速時はリア寄り、減速時はフロント寄りに移動します。ターンのとき、理想はその旋回軸をクルマの中心に持っていってやることなのですが、その作業はクルマがやってくれるものではなく、ドライバーが行います。その旋回軸をコントロールするという感覚を持ってもらうことがこの練習の狙いです。難易度はちょっと高いかもしれませんが、この感覚が掴めるようになると、ブレーキングでクルマを曲げることができるようになりますので、ぜひ練習で身につくように心掛けてみてください」
STEP3 横方向のグリップを感じ取ろう
STEP3は、コーナリングの練習。ライン取りを考えながら、大きく8の字に旋回する。どこを通るかの縛りはなく、あるのは、それぞれの円の入り口にある2本のパイロン(図の1と2、および3と4)の間を通るということだけ。ここを通過したら、適切な位置でブレーキングし、クリッピングポイント(図のCPと書かれたところ)が速度の最下点となるようにイメージしながらコーナーを抜けていく。STEP1で学んだハードブレーキングと、STEP2のブレーキを残したターンを駆使して攻略することがカギとなる。
竹下さんと宮内さんが順番にコースイン。このコースは、アクセルを踏むポイントとステアリングを切り始めるポイント、さらにブレーキポイントが、各自の判断となるため、ライン取りに迷いが見られる場面も。また、頭の中では思い描けていても、ブレーキングの見込みと実際のタイヤやクルマのブレーキ性能のズレにより、思い通りのラインを走行できない、といったこともあるように見受けられた。
山野選手にコース攻略のコツを解説してもらおう。
「8の字走行というと、常にコーナリングしているようなイメージを持つかもしれませんが、実際はほぼ直線のところと、コーナーの組み合わせとなります。このようなコースを走る時の鍵は、“コーナーの数を減らす”組み立て方をすること。例えばひとつ目のゲート(2本のパイロン)からふたつ目のゲートを結ぶところはなるべく直線的に全開で行きます。その後はハードブレーキングし、減速しながらクリッピングポイントを迎えるというイメージですね。加速と減速をメリハリよく行い、なおかつひとつひとつのコース攻略を切り分けせず、スムーズに繋げていくのが速く走るコツです」
STEP4 低速コーナーを克服する
続いては、テクニカルコース。小さな8の字が組み込まれた低速コーナーと、高速コーナーが入り交じったコースを走行する。山野選手によると、ポイントは低速コーナーの処理の仕方。Rの小さな(=タイトな)コーナーでは、大きな(=ゆるい)コーナーに比べ、クルマの挙動がどう異なるか。その違いを感じ、どのように対処するかを学んでいく。
コースは難しくなったものの、竹下さんと宮内さんは、これまでに学んだ技術を生かして走れた模様。最初は、竹下さんはブレーキポイントが早すぎる傾向があり、宮内さんはオーバースピード気味にコーナーに進入してしまっていたが、山野選手の指摘を受け、それぞれ問題を克服。最終的に2人とも山野選手からお褒めの言葉をもらっていた。
山野選手に攻略のコツを聞いた。
「Rの小さなコーナーでは、大きなコーナーに比べて、大きく減速する必要があり、また加速するときは加速する、曲げるときは曲げるという具合に、メリハリのある操作が必要になります。そのメリハリを利用し、クルマを曲げていくのがコツとなります。タイトコーナーでは、慣性モーメントがかかりにくく、クルマが安定方向になります。勢い(エネルギー)が発生しないぶん、曲げる難しさがあるのです。そこでメリハリを使い、精度の高いコントロールで、クルマの性能を引き出してあげるのです。そのためには、タイヤと路面の摩擦の変化を感じ取り、調整していくことが重要です。タイトコーナーは速度が低いので一見簡単そうですが、実は難しいのです」
STEP5 学んだことを発揮しタイムアタック!
最後は、STEP1-4までで学んだことを総動員して走行する複合コース。一見難解に見えるが、これまでのコースをつなげたようなレイアウトとなっており、学習したことを復習できる舞台となっていた。また、このコースでは山野選手の運転するクルマに同乗できる機会が設けられ、プロがどのように走るかを、車内で挙動を感じながら観察できる、参加者にとってうれしいメニューとなった。
二人の走りをチェックした後、山野選手が参加者を乗せてコースイン。山野選手の走りは、ブレーキを踏むところでしっかり踏んでいるのが印象的だった。プロの走りというと、超高速で派手に曲がっていくようなイメージを持つかもしれないが、実際は無駄のない、きれいなメリハリのある操作で走らせているのが印象的。外から見るとスムーズに見えるが、同乗者によると、コーナー進入時には強い減速Gを感じたとのことだった。
レッスンをひと通り終えたところで竹下さんと宮内さんに感想をうかがってみた。
竹下さん
「レジェンドの山野さんが講師ということで最初は緊張していましたが、段々と慣れていき、とても思い出に残る良い1日になりました。ブレーキングのレッスンでは、思っていたより595 Competizioneのブレーキがはるかに効くので、手前で止まりすぎてしまったり、またブレーキを残したコーナリングの練習では挙動の乱れが少なく、思ったより曲がれてしまったりと、結果としてクルマのポテンシャルの高さが浮き彫りになる練習でもありました。参加前から揺れていたアバルトを購入したい気持ちが、もう決定的になりましたね(笑)。レッスンでもっとも感心したのは、“レイトブレーキング”です。はっきり言って目から鱗でした。ブレーキの奥深さを実感でき、“レイト”の意味がわかりました。自分でもアバルトを購入し、こういう広いコースをもっと走って、安全運転につなげていきたいと強く思いました」
宮内さん
「走る・曲がる・止まるを教わり、運転の基礎の基礎であるこれらの操作が、実はこんなに難しいということを実感しました。とくにタイヤの性能を100%引き出して止まるのが難しかったです。あとは“ブレーキで曲がる”ということの意味が最初は理解できませんでしたが、旋回軸を意識してブレーキを残したままクリッピングポイントに向かっていくというのが、とても勉強になりました。山野選手の同乗走行後に“もっといけるのでは”と、がんばって走ったところ、ブレーキを踏んでステアリングを切り込んだとき、フワッとリアが回り込んでいくような感覚を味わうことができました。習得できたとまでは言えませんが、ブレーキで曲がるとはこういうことなのかと感覚で学ぶことができました。ワンデーレッスンですけど、勉強できたことは多かったです」
竹下さんも宮内さんも、レッスンにとても満足いただけた模様。実際、レッスンはとても内容が濃く、ここではすべてを紹介することができなかった。そこで次回、続編として「レイトブレーキを身につけよ! by 山野哲也選手」(仮題)をお届けする予定。お楽しみに!
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