山野哲也選手が語る“勝負師”としての本音と、アバルト 124 スパイダーの強みトップ3

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アバルト 124 スパイダーで全日本ジムカーナ選手権(PN-2クラス)に参戦し、シリーズ10戦中、第7戦(ハイランドパークみかわ)で早くも2019シリーズチャンピオンを決定した山野哲也選手。その圧倒的な強さには感服するばかりだが、ご本人に聞くと「今年は危険な年と思って挑んだ」と、危機感を匂わせる意外な答えが返ってきた。一体なぜか──。強さの裏に隠された“勝負師”の本音と、レーシングドライバーとして感じる「124 スパイダー」の強みトップ3を聞いた。

最大の敵は自分

──シリーズチャンピオン獲得おめでとうございます。まずはこれまでの戦いを振り返り、今年はいかがでしたか?

「ここが一番危険な時というか、危険な年だと思っていたので、シリーズチャンピオンを獲得し、ようやく安堵できました。124 スパイダーで参戦して初年度にチャンピオンを獲得し、2年目もチャンピオンを獲れた。今年は同じ体制で3年目となり、周りからは手堅くチャンピオンを獲るだろうと思われていたかもしれない。でも勝負の世界はそんなに甘くはなく、安心してしまうと必ず負けてしまうのです。過去にそういう経験もしました。“勝っていたのだからこれでいいだろう”、“これで勝てるはずだ”、と思ってしまうところが、負けへと向かう第一歩なのです。今年はタイヤの銘柄が新しくなった。2017年と2018年はブリヂストン POTENZA RE-05Dというタイヤで戦ってきて、2019年にPOTENZA RE-12D TYPE-Aに切り替わりました。タイヤが替わると得意とするサーキットが変わる。またブレーキやサスペンション、デフなどのセッティングを変更しなければならない可能性もある。僕らにとって新たな年の始まりという気持ちでした。一方、ライバルたちはどんどん追いついてきます。同じ車種で戦うライバルも違う車種のライバルも、“打倒、山野”で挑んでくることが予想されました。そうしたなかで、新しいタイヤでセッティングを模索しながら、124 スパイダーとともにさらに進化し、追手を引き離さなければならない。危機感としては3年目の今年が一番大きかったですね」

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2017-2019年まで全日本ジムカーナ選手権(PN-2クラス)で3年連続シリーズチャンピオンを達成、自身V19の記録を達成した山野哲也選手。

──チャンピオンがかかっていた第7戦ハイランドみかわ戦は山野選手にとってどんな戦いでしたか?

金曜日がドライ、土曜日と日曜日はウェットでした。例年だとハイランドみかわが開催される頃にはもう梅雨明けしていて夏真っ盛りのはずなのですが、今年は梅雨明けが遅かったので、どっぷり雨の中での戦いとなりました。金曜日は比較的調子が良く、タイムも1位でしたが、コースが狭いみかわはウェットになるとFF車のタイムが上がってきて、だんだん追い込まれていくような週末でした。決勝のヒート1はトップタイムを出すことができましたが、午後は午前より雨量が減ったにもかかわらず、タイムが悪化してしまう状況でした。これはPN1~3のどのクラスも同じで、雨量が少ないのにタイムは出ない。こういう会場特有のマジックみたいなものって実際にあるのです。結果的に、決勝のヒート2はFFで車体が小さいマシンが1番手のタイムを出して、僕は5番手でした。でも僕が午前に残したタイムは更新されることはなかったので、優勝を決めることができました。ヒート1でいいタイムを残せて良かったなと。会場の天候に翻弄されましたが、運が良かった部分もありますね」

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第7戦ハイランドみかわにおける山野選手と124 スパイダーの走り(写真:MAKOTO YAMAUCHI)。

──山野さんにとっての一番の敵はなんですか?

「敵は自分です。クルマが整備された状態なら、遅くなる原因があるとすれば自分しかないので。特に決勝レースで性能を出し切れる、あるいは出し切れないかはドライバーにかかっています。生まれて初めてジムカーナに参戦した時、21歳だったかな。ライバルは他人じゃないと気づいたのです。じつは僕のデビュー戦は転倒という結果だったのです。しかも借りたマシンをひっくり返すという苦い思い出で……。でも、そこで自分の技量が足りなかったという現実に直面し、速くゴールできるか否かはすべて自分次第だということに気づきました。その気持ちは今でも変わりませんね。だから週末にレースを控えた月曜日になると、お酒も飲まないし、カフェインも取らない。自分のパフォーマンスが何らかの影響を受けることによって、負けてしまうのが嫌なのです。ドライバーの体力だったり気力だったり。あるいは精神力であったり、集中力であったり。ドライバーが持っている力はすべて完璧にしておくというのが、月曜日から日曜日の決勝ヒート2が終わるまでの自分のルーティンになっています。自分を完璧な状態に持っていき、レースではマシンの性能を引き出すことに徹しています」

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ハイランドみかわで優勝を決めたチームとの記念撮影(写真:MAKOTO YAMAUCHI)。

ドライバーの立場はクルマより上にはない

──マシンの性能を引き出す……。例えばドライバーとして、マシンをポテンシャル以上に導くというのはあると考えますか?

「僕は、マシンの持っているポテンシャル以上のものは引き出せないと思っています。スポーツ選手にも色々なタイプがいて、熱い選手もいればクールな選手もいます。熱い選手は、時に“ウワーッ”と声を張り上げたりして自分を高める。一方、クールな選手は、表情ひとつ変えずに、試合をこなしますよね。僕はそういう意味では後者だと思います。自動車レースの場合、ドライバーの役割は運転操作です。操作して初めてクルマという物体が動く。そして動き始めた後に、クルマがどうリアクションするかを瞬時に聞くことが大事だと思っています。例えば、氷点下20度の氷上で速く走りたいからといって、アクセルを強く踏み込んでもタイヤはスリップして前に進まない。ハンドルを切っても曲がらない。それは自分の操作に対して、クルマが何を訴えているかを聞かないことによって起こる現象です。僕はクルマを操る時、そのクルマの反応を聞くことに全身を集中すると言ったらいいですかね。操作の後、クルマからどういう反応が返ってくるのかを聞き取るようにしています。ドライバーの立場はクルマより上だとは思っていません。自分の操作に対してクルマから伝わってくるものに耳をすませ、次の操作を行う。ひとときの時間も無駄にせず、そのやりとりを細かくやりたいと思っています。それをひと言でいうと、“ひとつひとつのコーナーをしっかり走る”、ということ。マシンとのやりとりの回数を多くするためには、クルマの反応を知りたい。だから常にマシンに耳を傾ける、というイメージですね」

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「マシンを操るとき、クルマからの反応を聞くことに集中する」と話す山野選手。同氏のご自宅にて。

──次に124 スパイダーについてお聞きします。レーシングドライバーの観点から124 スパイダーのいいと感じる部分、そのトップ3を挙げてください。

「トップ3ですか。やっぱり第1は足回りとディメンジョンですね。タイヤの性能を使い切ることができるサスペンションと、クルマの全長やオーバーハング、それにトレッドといった寸法的なものに加えて重量がそのどのあたりに載っているか。僕らはそれをディメンジョンと言っているのですが、そのバランスが124 スパイダーはすこぶるいいのです。それはロードスターと比べても違います。実際、クルマの動きはぜんぜん違うし、タイヤのグリップの感じられ方も違います。それはダンパーとかスプリングとか、スタビライザーといった部品の違い以上に、ディメンジョンの違いが大きいですね。124 スパイダーは、エンジンが比較的ドライバーに近いところにあって、重量物がクルマの中心部近くに位置します。なおかつ適度にフロントオーバーハングがあるので、タイヤの接地が出やすい特性です。一般的にオーバーハングは短い方がいいと言われることが多いですが、短いとフロントの接地がわかりづらくなる。先端にある程度重量がある方が、フロントが垂れ下がる格好となりタイヤに荷重がかかる。荷重がかかるとレスポンスもよくなるし、グリップが出やすいのです。そこが124スパイダーの最高にいいところだと思いますね」

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適度なフロントオーバーハングの長さが、フロントタイヤの接地やレスポンスを高めることにつながっているという。写真:MAKOTO YAMAUCHI

──ふたつ目はどうでしょう?

「エンジンのトルクと、それに組み合わされたギア比のマッチングの良さですね。124 スパイダーはジムカーナで2速を多用できるのです。他のクルマだと1速と2速を迷うところでも、2速を多用できればシフトチェンジの回数を少なくでき、かつトルクがあるから十分な加速力が得られる場面が多い。ジムカーナではターボ車とNA車が混在していて、NAの場合、高回転を使う方が加速はいいので高回転を使って走ることになりますが、ターボだと結構低回転からトルクが出るので、その部分も加速に生かせます。またトルクバンドが広いので、2500回転あたりから6500回転ぐらいまでトルクが発生し続けます。そのおいしいところを加速に生かすことができ、さらにエンジントルクとギア比もピタリとマッチしているので、それがタイムの短縮に役立つのです」

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山野選手が魅力の上位に挙げるのがエンジントルク。低回転域から充実したトルクを発生するため、それをタイムアップに役立てられるという。ちなみにPN-2クラスではエンジンはノーマルなので、その特性は市販モデルでもまったく同じだ。

──もうひとつ、挙げるとすれば?

「うーん。操舵した時のクルマの動きかな。124 スパイダーはステアリングを大きく切り込んだ領域でも旋回力が落ちることなく、あらゆる操舵角において高いコーナリング性能を発揮してくれます。だからステアリングを切れば切るほど小さく回れるのです。一般的にステアリングを大きく切るとアンダーステアの傾向が強まるクルマが多いのですが、124 スパイダーは操舵量が多くなっても、フロントタイヤががっつりレールの上に乗っているような感じですね。結果的にサイドブレーキをひく回数も減っています。これは性能としては大きいです。つけ加えて言うならば、ここに挙げたいい部分を感じ取りやすいのも、124 スパイダーの魅力ですね。それは街中走っていても、僕らのように勝負の世界で124 スパイダーを操っていても一緒です。ギクシャクするところが全然なく、パッケージとして完成している感じがします」

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ステアリングを大きく切ってもグリップが逃げず、しっかりと喰い付いてくれるところは、競技において124 スパイダーの大きな強みになっているという。山野選手はこうしたクルマの美点を見抜き、それを引き出すことで、勝利を手にしているのだ。

ディープな考察をありがとうございます。
2017シーズンから3年連続で124 スパイダーでチャンピオンを獲得した山野選手。経験による強さもあるだろうがお話を聞くとそれ以上に、常に冷静に自分と向き合い、マシンと対話し、ひとつひとつのレース、あるいはひとつひとつのコーナーに真摯に挑んでいる姿が浮き彫りになった。ちなみにインタビューを実施したのは、シリーズチャンピオンを決めた第7戦の後だったが、山野選手はタイトル獲得後の第8戦スポーツランドSUGOのレースでも優勝を決め、たゆまぬ努力の成果を見せてくれた。ジムカーナキング山野哲也選手と124 スパイダーの戦いはこれからも続く。

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アバルト 124 スパイダーの詳細はこちら https://www.abarth.jp/124spider/
The SCORPION SPIRIT VOL.2 山野哲也選手インタビュー「一途な思いで、駆け抜ける。」https://www.abarth.jp/scorpion/fashion-culture/14831