カーシェアリングでは飽き足らなかったクルマ好きな紳士 アバルトライフFile.60 木村さんと595 Competizione

クルマは文化

アバルトの気に入っているところはどんなところですか?

「やっぱりレスポンスじゃないですかね。踏めば踏むだけパワーが湧き上がってきて、レッドゾーンに向かっていく感じとか。アウトビアンキA112アバルトの時代に比べたらクルマの車重はずっと重くなっていると思うんですけど、レスポンスの良さは変わってない気がしますね。あとA112はあまりブレーキが効かなかったですけど、今のアバルトはよく効きますよね。あまりによく止まるので後ろから追突されないかと後ろを確認してしまうぐらいですね。サスペンションが硬くて、ホイールベースは短いので、首都高の段差などではピョンと跳ねるような場面もありますが、うちの娘もそういう走っている感覚が好きなようで。助手席でまた飛んだ!みたいに喜んでますね(笑)」

ドアミラーを赤く、いわゆる赤耳にしたんですね?

「黒いボディカラーは気に入っているんですけど、全体が真っ黒だとなんとなく怖いというか、スゴんでるみたいに見えてしまうじゃないですか(笑)。そんな雰囲気を和らげたくてミラーを赤にしてもらったんです」

木村さんがクルマに求めるものはどういったところですか?

「機械なんだけど機械っぽくないところですかね。機嫌のいいときも悪い時もある。どのクルマにも当てはまるわけではないと思うけど、そういうところが好きですね。僕はね、クルマは文化だと思っているんですよ。ブランドの歴史だとか設計者の考え方とかが反映されて形になっている。アバルトとかポルシェとか、あるいはジョルジェット・ジウジアーロなどのカーデザイナーが手掛けたクルマにしてもそうですけど、作り手のフィロソフィーが製品に注ぎ込まれている。そういう文化を持ったクルマが好きですね。昔、クルマに乗り始めた頃、そういう味のあるクルマに乗って楽しかった思い出が染み付いているんだと思います。そんな感覚がもうこの先味わえなくなってしまうと思った時に、今のうちに乗っておきたい。そんな気持ちが湧き上がってきたんだと思いますね」

ではアバルトには長く乗り続けるつもりですか?

「そうですね。でもね、ディーラーの担当さんから、“いい値段で買い取りますよ、どうですか?”って言われてます(笑)。走行距離も少ないし、彼らからすると売りやすいクルマみたいですね。手放す気はありませんけど(笑)」

仕事で多忙な日々を送られている木村さん。以前はイギリスに 10 年ほど住まれていたそうで、その語学力を発揮してグローバルに活躍されていることが佇まいにも滲み出ているように感じられた。一方で、クルマのことを話している時の木村さんはとても楽しそうで、アバルトが良き友であり、会話の相手になっていることが想像できた。わずか1000kmの走行距離でもそれを刻む時間は濃密で、貴重なもので、木村さんにとって欠かせない空間になっているのだと想像します。紳士に微笑みをもたらす黒いアバルト。たとえ出番は少なくても、大切にされている幸せな 1 台だと思います。

文 曽宮岳大

アバルト公式WEBサイト