Abarth 595 conversion kit|アバルトの歴史を刻んだモデル No.076

現代に蘇ったコンバージョンキット

さて、当時アバルト&C.がやっていたこととほぼ同じことが、21世紀に入ってからも行われていることをご存知だろうか? 2015年に旧FCAヘリテージの中に立ち上がったオフィチーネ・アバルト・クラシケが、クラシック500用のアバルト595キットの復刻版を製作し、販売しているのである。


フィアット・アバルト595クラシケ・キット。

フィアット・アバルト595クラシケ・キットの美しい木箱に入っているのは、φ73.0×50.0mmのピストン、シリンダー、バルブスプリング、シリンダーガスケット、カムシャフト、ウェーバー28 IMB 5/250キャブレター、インレットマニフォールド、オイルサンプ、レコードモンツァエキゾーストシステム、そしてそれらを取り付けるために必要なパーツなど。フィアット 500のエンジンのアップグレードとしてはもちろん、クラシック595を蘇らせるキットという役割も担う。オフィチーネ・アバルト・クラシケが、実際にそれを組み込んだクラシック500をイタリア本国のクラシックカーイベントで走らせたりもしている。


コンバージョンキットが換装されたエンジン。最高出力27hp、最大トルク5.0kgmを発生する。

今回ご紹介するのは、そのキットを組み込んだ個体。オーナーの大倉克紀さんが、チンクエチェント博物館が所有していたキットを譲り受け、スペシャリストに組み込んでもらった車両である。


オーナーの大倉克紀さんと愛犬のルーク君。

大倉さんの愛車は、1967年式のフィアット 500F。様々なイタリア車を乗り継いできて、4年ほど前に憧れを抱いていたクラシック500を購入したのだという。

「しばらくは、今とはまったく違う別世界へタイムスリップする感覚と、ちゃんと操作してあげないと上手く走ってくれないドライブ感覚を楽しんでいました。ノーマルの500に不満があったわけじゃなくて、ノーマルにはノーマルの面白さがあるんですよね」


大倉さんはコンバージョンキット装着により「普段使いの扱いやすさが向上した」と話してくれた。

そうした500を想う気持ちと並行して、もともとアバルトへの憧れもあったのだという。

「日本でクラッシック・アバルトを手に入れて楽しむのは、すごく難しいことだと思うんです。まず売り物がなかなか出てこないし、経済的なゆとりも必要だし。様々なパーツを駆使してフィアット 500をアバルトに近づけることはできるかもしれないけど、経験が少ない人にはハードルが高い。そうした問題を飛び越して、アバルトのパフォーマンスを楽しむための手段が、僕にとってはこのキットだったんですよ。アバルト・クラシケが作ったキットということで必要なパーツはすべて揃っていますし、595の性能を再現するためのパーツが現代の素材と精度で加工されているわけですから、悪いはずがありません。キットの価格も思っていたよりリーズナブルでした」

大倉さんは2020年末にエンジンのオーバーホールと同時にキットを組み込むことを決断した。もちろん現代のようにパーツをポンと交換すればOKというものではなく、様々な部分に加工が必要なため、仕上がるまでには数ヶ月を要したそうだ。

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