Abarth 595 conversion kit|アバルトの歴史を刻んだモデル No.076

Abarth 595 conversion kit
アバルト 595 コンバージョンキット装着車

稀代のチューナーの仕事

1963年に発表され、現在の595シリーズの源流となったフィアット・アバルト595。ベースであるフィアット 500Dのエンジンをベースに、ピストン、シリンダー、カムシャフト、バルブまわり、キャブレター、マニフォールド、エキゾーストなどに手を入れ、排気量を499.5ccから593.7ccまで拡大することで、パワーを18hpから27hpへ、トルクは3.6kgmから5.0kgmへと向上。最高速度も95km/hから120km/hへと飛躍的に向上させた。


120km/hまで刻まれたフィアット 500のメーター。アバルト 595コンバージョンキットを装着すると、このメーターの上限まで最高速度が伸びたという。

こうした性能アップとベース車持ち前のハンドリングの良さが相まり、アバルト 595は、“ジャイアントキラー”の異名を取るクルマへと変貌した。当時、2クラスほど上の1リッター級のクルマに乗るドライバーさえも脅かしたと聞けば、そのパフォーマンスがどれほどのものだったか想像できるだろう。アバルト 595コンバージョンキットはたちまち人気商品となった。


軽量ボディにチューンアップされた高性能エンジンの組み合わせにより、クラス上のクルマを脅かす性能を発揮した。

ところで当時のアバルト 595は、アバルトのファクトリーで製作された車両、ディーラーでキットを組み込んだ車両、そのほかで組まれた車両など様々なものが存在するといわれている。トリノにあるコルソ・マルケのアバルトファクトリーでは、コンプリートカーのほか、ノーマルのフィアット 500をアバルト 595に変貌させるコンバージョンキットやチューニングパーツを用意しており、これが500オーナーの関心を大いに集めたのである。


ABARTHのレタリングが施されたオイルパンや、レコードモンツァエキゾーストシステムが高性能ぶりを物語る。

仔細なデータは残っていないが、かつてアバルト&C.カルロ・アバルトと一緒に仕事をしていた人物は、とあるメディアの取材に対して“後付けでキットを組み込んだ車両もコンプリートカーと同様の性能を発揮した”と答えている。そんな高品質なコンバージョンキットを用意していたのも、アバルトの魔術のひとつ、というわけだ。

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