1965 FIAT ABARTH 1000 SP |アバルトの歴史を刻んだモデル No.048

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1965 FIAT ABARTH 1000 SP
フィアット・アバルト1000 SP

新世代ミッドシップ レーシングマシン

アバルトは「750GTザガート」(1956-)や「750レコード モンツァ ザガート」(1958-)、「1000ビアルベーロ」(1960-)などでGTクラスを、「850/1000TC」(1961-)でツーリングカー クラスを闘ってきたが、常に新たな挑戦を求めたカルロ・アバルトは、より性能を突き詰めたカテゴリーであるスポーツプロトタイプクラスに着目した。

1960年始め、アルファ ロメオ在籍中にTZなど様々な鋼管パイプフレーム構造のクルマを手掛けてきたマリオ・コルッチ技師が、カルロの招きによりアバルトの主任設計者として迎え入れられた。こうしてコルッチ技師が開発に加わり、アバルトにとって初となる、完全な鋼管スペースフレームを持つ純レーシングマシンの開発がスタートした。

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フィアット・アバルト1000SPのリアビュー。写真で見ると堂々たる姿に見えるが、全長は軽自動車に比べ45mmだけ長い3445mmときわめてコンパクト。

コルッチ技師は、長らくリアエンジン・レイアウトの車両を手がけてきたアバルトの流儀から一転し、重量配分に優れるミッドシップレイアウトに注目した。1960年に「アバルト750スポルト スパイダー トゥボラーレ」を生み出し、ミッドに積むエンジンには、750レコード モンツァ ザガートで実績のあった747ccビアルベーロ(DOHC)ユニットを採用した。

ミッドシップのポテンシャルを確かめる目的も兼ねていたアバルト750スポルト・スパイダー・トゥボラーレは、ル・マン24時間レースやタルガ・フローリオに投入され、そのノウハウは、次なるモデルに生かされることとなる。そうした点で、750スポルト・スパイダー・トゥボラーレはアバルトにとってひとつの分岐点となったモデルといえるだろう。

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スポーツプロトタイプマシンだけに、コクピットには必要最小限の計器類とスイッチだけが備わる。ドライバーの正面には回転計を中心に油温計と油圧計を配置。

本格的スポーツプロトタイプ1000 SP

こうしてアバルト750スポルト・スパイダー・トゥボラーレでスポーツプロトタイプマシンの開発に手応えを得たアバルトは、その後も研究開発を続け、1966年4月に新たないスポーツプロトタイプマシンの「フィアット・アバルト1000 SP(スポーツ プロト ティーポ)」を送り出した。

1000 SPのボディ形状はオープン2シーター。イタリアでは小舟を意味する「バルケッタ」と呼ばれ、そのスタイリングは’60年代を象徴する柔らかな曲線で構成されたもの。ボディはグラスファイバー製で、前後のカウルは整備性を高めるためと、クラッシュの際にすぐ交換できる効率的な構造とされた。写真を見てその巨大なウィンドスクリーンはボディに似つかわしくないと感じるかもしれないが、これは当時のFIA車両規定に則ったもので同時期の他メーカーのスポーツプロトタイプマシンも同様だった。

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スペースフレームの関係からサイドシルは幅広く、コクピットはタイト。シートポジションは極めて低い。

アバルトにとって円熟期に送り出された1000 SPは、それまでレースで培ってきたテクノロジーの集大成といえる。ボディサイズは全長3445mm×全幅1625mm×全高930mmとコンパクトで、ホイールベースは2000mmだった1000ビアルベーロに対し、ミッドシップレイアウトでギヤボックスをエンジンの後ろ側に配置したことから2200mmへと延長された。各部を極限まで突き詰めたことにより車両重量はわずか480kgに抑えられ、パワー・ウェイト・レシオは4.57kg/HPとクラストップレベルだった。

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ホイールはカンパニョーロ製のマグネシウム合金製。デザインは、いわゆる“アバルト・パターン”。

機構的には、750スポルト・スパイダー・トゥボラーレをより進化させたチューブラーフレームを基本に、前後サスペンションは変形型ダブルウィッシュボーン式にスタビライザーを加えたもので、リアにはプッシュロッド・リンクが加えられた。足元にはお約束のカンパニョーロ製“アバルト・パターン”のマグネシウム合金ホイールを備え、フロントに5.00×13、リアには6.00×13サイズのタイヤが組み合わされた。

ミッドに搭載されたエンジンは、DOHC 4気筒982ccビアルベーロユニットの発展形で、圧縮比を10.5:1に高めると共に、各部の見直しとウェーバー40DCOEキャブレターを2基組み合わせ、最高出力は当時のレーシングモデルとしてはハイスペックな105HP/8000rpmを発揮。そこに5速トランスミッションが結合された。

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ミッドに搭載されるティーポ229ユニットは982ccから105HPを発揮した。

プロトタイプクラスでの活躍

こうして誕生した1000 SPは最終的に50台が製作され、グループ4クラスの公認を獲得する。デビュー戦となった1966年5月のコッパ・デラ・コリーナではマイナートラブルで結果を残せずに終わったが、同年7月17日に開かれた国際格式のGPムジェロで1000ccプロトタイプクラスの初優勝を勝ち取った。さらに9月4日に挑んだ大舞台ニュルブルクリンク500kmレースでは、ヘルベルト・ミューラーとクラウス・スタインメッツのドライブにより大排気量のマシンを相手に、総合3位、1000ccプロトタイプクラスで優勝という輝かしい結果を残した。ちなみに総合優勝は僚友のフィアット・アバルトOT1300だった。

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ヘッドライトはボディに内蔵され、使用時は三角形のカバーを取り外す。

以後も様々なレースやヒルクライムで大活躍を遂げ、アバルトの栄光の記録を更新していった。1000 SPは卓越したレーシング・バルケッタとして、現在も愛好家から支持されている。

1965 FIAT ABARTH 1000 SP

全長:3445mm
全幅:1625mm
全高:930mm
ホイールベース:2200mm
トレッド:F/1305mm、R/1320mm
車両重量:480kg
エンジン形式:水冷直列4気筒DOHC
総排気量:982cc
最高出力:105HP/8000rpm
変速機:5段マニュアル
タイヤ:F/5.00×13、R/6.00×13
最高速度:220km/h

年に1度のサソリの祭典、ABARTH DAYS 2019の模様をレポート
https://www.abarth.jp/event/abarthdays2019/report/