アバルト歴代モデルその7
アバルト・シムカ1300GT
ABARTH SIMCA 1300GT
1950年代から現在に至るまで、アバルトのパートナーといえばイタリア自動車界の巨人フィアットでした。しかし1960年代のGTレースでは、フィアット・フランスから発展を遂げたフランスの実用車メーカーであるシムカ社とのコラボレーションでも成功を収めました。今回はそのコラボにおける唯一最高の傑作、『ABARTH SIMCA 1300GT(アバルト・シムカ1300GT)』についてお話しします。
1961年の秋、パリ・サロンにてデビューしたシムカ1000は、1960年代初頭としては極めて進歩的な小型車であり、本来おとなしい大衆車であるはずのシムカ1000が、この獰猛にして華麗なアバルト・シムカ・ベルリネッタに昇華し得るなどという発想は、カルロ・アバルトでなければ生まれ得なかったのかもしれません。
この時期のアバルトは、それまでGTカテゴリーにてフィアット・アバルト1000ビアルベロを擁して、最強のコンテンダーの地位を謳歌し、“アンダー1,000cc”からさらなる一歩を踏み出し、1,300~2,000ccクラスへの進出を図ろうとしていました。そんなアバルトにとってシムカ1000は、レーシングカーのベース車両として、かつてカルロ自身が見出したフィアット600にも匹敵するポテンシャルを感じさせる“逸材”に見えたのでしょう。しかも、シムカはフィアットと密接な関わりを持つメーカーゆえに、フィアット・アバルトでの経験の多くが、そのまま生かせると考えていたに違いありません。
自身もイタリア系オーストリア人で、生まれも育ちもウィーンながら、第二次大戦直前にイタリアに帰化して、仕事と生活の拠点もすべてトリノに置いていたカルロ・アバルトは、国籍や出自などに囚われず、良いモノを見極めるだけの目を持っていました。そして、優れた人材を見出す目も持ち合わせていのです。その慧眼をもってシムカ1000のポテンシャルに着目したカルロは、なによりも先に、盟友ルドルフ・フルシュカにコンタクトを取り、フルシュカは、かつてポルシェ設計事務所の命を受けたコンサルタントとして、ともにチシタリアに赴任した仲。そしてこの時期、シムカ社の技術コンサルタントの地位にあったのです。
そして、フルシュカの強いプッシュも功を奏してシムカとの提携契約に成功したカルロは、直前にアルファロメオからヘッドハントしたマリオ・コルッチ技師に命じて、のちに“アバルト・シムカ”の名のもとにレース界を席巻することになるレーシングGTの開発に取り掛からせることになりました。
コルッチの設計では、シムカ1000ベルリーナのフロアパンを110mm切り詰めた、ホイールベース2,090mm(1000ビアルベロ+90mm)のシャシーを採用。サスペンションやステアリングユニットもシムカ1000用を一部改良して流用していました。
その一方で、エンジンについては異なる方針が採られ、アバルトがそれまで“フィアット・アバルト”として製作していたビアルベロ系DOHCユニットは、量産車であるフィアット600用の4気筒OHV3ベアリングエンジンのブロックを流用したものです。
しかし、シムカ1000とアバルト・シムカの場合は、まったく異なっていました。アバルト・シムカ1300GTに搭載される1.3リッターDOHC(ティーポ230)ユニットは、シムカ1000用の4気筒OHV944ccユニットを1,288ccまで拡大し、アバルトお得意のDOHCヘッドを組み合わせただけのものと思われがちですが、実はブロックからしてアバルトのエンジン担当エンジニア、ルチアーノ・フォッキ技師が一から新設計したものだったのです。最初期型で125psという、1,300cc級としてはかなりの高出力を発生するこの新設計ユニットは、635kgという軽量ボディも相まって230km/hの最高速をマークする高性能をもたらすことになりました。
こうしてアバルト・シムカ1300GTは、同時期の1000ビアルベロやモノミッレと良く似たカロッツェリア・ベッカリス製のアルミボディを与えられて1962年2月に発表されだのです。しかし、FIA GTカテゴリーの正式なホモロゲートを取得して選手権に本格エントリーするのは、翌1963年シーズンからとなりました。
それからの活躍は素晴らしいもので、エンジンのパワーアップやボディの改良(途中からシボーナ・エ・バサーノ社製に変更)するなどのブラッシュアップを受けつつ勝利を重ねていきました。そして、GTカテゴリーでメイクスタイトルが争われた1961~1965年シーズンを通して(1961/1962年は1000ビアルベロ)、アバルトがGT-Iカテゴリーの王座を守り通す大戦果に貢献したのです。
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