アバルト500ラリーR3Tを駆る眞貝知志選手、ローマ・ラリーで勝利!

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日の丸チームの2度目の挑戦

全日本ラリー選手権のチャンピオン経験を持ち、アバルト ドライビング アカデミーではメインインストラクターを務める“サソリ遣い”こと眞貝知志選手が、9月15日から17日にかけてイタリアのローマを拠点に開催された “ラリー・ディ・ローマ・カピターレ”、通称ローマ・ラリーでクラス優勝を果たしました。

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2015年には日本におけるFIA R規定車両初、外国車初、そしてアバルト製車両初のクラス優勝を達成した眞貝知志選手。アバルト ドライビング アカデミーではメインインストラクターを務める。

チームはご存知、mCrtことムゼオ・チンクエチェント・レーシング・チーム。2015年から全日本ラリー選手権のJN-5クラスでアバルト500ラリーR3Tを走らせ、初年度にターマック(舗装路)で行われるラリーのみの参戦ながら最後までチャンピオン争いを繰り広げ、日本のラリー界を驚かせました。昨年からアバルトの故郷であるイタリアでのラリーに挑戦しています。

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ヨーロッパ・ラリー選手権のひとつに格上げされたローマ・ラリー。イタリア国内戦以上にドライバーの層が分厚くなり、コースも大幅に延長されたことでより難易度が増した。

ローマ・ラリーは今年、これまでのイタリア国内選手権からヨーロッパ・ラリー選手権の1戦へと格上げされました。より華々しく、スケールも大きくなっての開催です。それは同時に、難易度が段違いに増したことを意味します。

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日本から挑戦するにあたり、とりわけ大きな壁となるのは、走行環境でしょう。現地と日本の走行環境はまったく道路設計、舗装の質や路面の保全状態、競技の平均速度の高さなど、日本とはまったく異なります。初挑戦だった昨年の眞貝選手も、あまりの違いの大きさに戸惑って苦戦したうえ、ジャンプしてはいけないクレスト(丘)で飛んでマシンを損傷させてしまいました。

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特にローマ・ラリーは、ベテランのコドライバー、ファッパーニ選手にも「イタリアのターマックのコースでは一番難易度が高い」といわせるほど。実際に今年はクラッシュが続出し、SSはその影響で2つがキャンセル、最終的には出走した45台のうちの28台しか完走できないサバイバル戦となりました。

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コドライバーを務めたのは、ダニーロ・ファッパーニ選手(左)。イタリア国内選手権でのチャンピオン経験があるのみならず、世界ラリー選手権をはじめとした350戦を軽く超えるラリーに出場している、イタリアのレジェンドと呼ばれるプロフェッショナル。

mCrtのマシンは基本設計の古さは否めず、チームにとって条件的には不利なことばかり。それにも関わらず、mCrtと眞貝選手が今年もアバルト500をイタリアで走らせることにしたのは、ひとえにアバルトに対するこだわりから。mCrtの伊藤精朗代表は、こんなふうに語ってくれました。

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チンクエチェント博物館を母体に、mCrtの代表を務める伊藤精朗氏。

「僕達は、アバルトやフィアットが好きな人間の集まりなんです。モータースポーツ活動をスタートしたのも、アバルトが競技を走れるクルマを作ってくれたから。だからアバルトやフィアットが好きな人達と夢や楽しみを共有できないと、やる意味がないんです。イタリアのラリーに挑戦するのも、アバルトの母国でクルマの楽しみ方の選択肢を広げられるような経験や知識を学び、それを日本のアバルトファンの人達と分かち合いたいからです」

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セレモニーでスタートを切ったmCrtのアバルト500ラリーR3T。

参戦車両が次々と姿を消す生き残り戦

眞貝/ファッパーニ組のアバルト500は、金曜日に有名な“真実の口”近くで行われたセレモニアルスタートで喝采を浴びながら送り出され、ローマの名所・旧跡を通過するルートに沿って市内で行われる最初のSS(スペシャル・ステージ/全開走行によるタイム計測区間)へと向かいます。そのローマ・ラリー名物のスタジアム形式のSSをトップと0.3秒差のクラス2番手で終え、このラリーがベース地点のサービスパークを設ける、ローマの東60kmのフィウッジという古くからの保養地の街へと移動。幸先のよさそうなスタートでした。

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参戦するのはRC3クラス。ライバル達は、アバルトより60psもパワーが大きなエンジンを搭載していたり、最新設計のシャシーを持っていたりと強敵ばかり。そんな不利な状況のなかの挑戦となった。

が、翌日の土曜日。この日の最初のSSでいきなりクラスのトップに20秒以上の差をつけられて、3位へとポジションを落とします。眞貝選手によれば「スタートした直後からクラッシュした車両が何台も停まっているのを見て、嫌な予感に襲われてリズムに乗れなくなった」とのこと。その後もクラッシュ車両排除のための走行待機でタイヤが冷えたことでスピン、天候の変化を見越してチームがウエットタイヤを選択するも裏目に出てタイムが伸びず……と、いいところなし。何とかクラス3位で生き残ったものの、眞貝選手は悔しさのあまりナーバスな表情のまま夜を迎えました。「自分のドライビングがまったくできてない。これまでの競技の中で、今日が一番ヘタクソかもしれない。攻めたい気持ちと攻め過ぎたら次は自分だという気持ちがごちゃごちゃになって、リズムがうまく作れていない」と口にしていました。

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激しい雨のなか次のセクションに向けてマシンの整備を行うメカニック。

ところが最終日となる日曜日。32.7kmという長距離で争われるこの日の最初のSSで、アバルト500は2位に43.4秒という大差をつけてのトップタイム、次のSSでもトップタイムをマークして、2位と0.7秒差のクラス1位へと躍り出ました。その次のSSで再び逆転され、昼にサービスパークに戻った時点では7.5秒差のクラス2位。まだまだ戦えるポジションですが、眞貝選手は相変わらずの浮かぬ表情。「自分のドライビングができているわけじゃないですから。なぜトップタイムなのかわからない」。そう真顔でつぶやくほどでした。

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残る3本のSSで勝負が決まります。ところが32.7kmをリピートする1本目ではリアタイヤがパンク、それをかばう走りをしたためにフロントブレーキにもトラブル発生。コースに留まるのがやっとの状態で走り切り、1分41秒差でクラス2位をキープ。スペアタイヤに換えて挑んだ次のSSでは原因不明の振動に襲われてスロー走行を強いられ、その差が2分9秒に広がってのクラス2位。もはやいくら攻めてもトップに戻るのは不可能です。完走ペースに切り替えて最後のSSを終え、ドライバーとコドライバーは「残念だったけど、サバイバル戦を無事に完走できただけでも良しとしよう」と自分達を納得させようとしていたました。そこに一報が入ります。「トップにいたマシンが今のSSでリタイアした」。と。この時点で、mCrtと眞貝/ファッパーニ組のアバルト500クラス優勝が決まったのでした。

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眞貝選手は最後まで走行環境に自分のドライビングをアジャストしきれなかったことに悔しさを感じていたようでしたが、それでもイタリア国内戦だった昨年ですら成し遂げられなかったSSでのクラス・トップタイムを2回も叩き出し、現地のチームメンバー達に「古いアバルトでこのタイムが出るとは……」と驚きを抱かせるほどの速さを、しっかり見せてくれたのでした。

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競技後のセレモニー会場に到着したときには、眞貝選手も笑顔を浮かべていました。悔しさは残るものの、アバルトファンの気持ちを裏切ることなく完走できたことに安堵したようです。そして、その眞貝選手以上に大きな笑顔を浮かべていたのは、イタリアのアバルトファン、チンクエチェントファンでした。若者も、お年寄りも、家族連れも、カップルも、次々にマシンを停めた眞貝選手にお祝いの言葉を伝えに来て、記念写真を撮っていきます。本当に引っ切りなしに。

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レース終了後、大勢の観客に写真を求められた眞貝選手とアバルト500ラリーR3T。

その賑わいは、このラリーの総合優勝を果たしたチームをも上回っていたほどでした。会場のMCも、「みんな見てくれ! 日本人がドライブする、かわいいかわいいチンクエチェント・アバルトが帰ってきたぞ。それも見事にクラス1番でフィニッシュだ!」と、えこひいきに思えるくらいの放送を入れていました。アバルトは、チンクエチェントは、やはりイタリアの人達に強く愛されているのですね。

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mCrtと眞貝選手の挑戦は、来年も継続するとのこと。もっとも華やかでもっとも困難なローマ・ラリーへの挑戦は続きます。なお、マシンはアバルト124ラリーへ乗り換え、新しい冒険に挑むとのこと。彼らの戦いをまた来年、レポートするのが楽しみです。

▼ローマ・ラリー mCrtと眞貝知志選手のダイジェスト映像

取材・文 嶋田智之
写真 山本佳吾・嶋田智之

2017年11月11月 アバルトデイ2017 スコーピオンチャレンジ開催!
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