ムゼオ チンクエチェント レーシング チームがローマ ラリーに参戦

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参加者のレベルが高いことで知られるローマ ラリー。そこに日の丸チームのムゼオ チンクエチェント レーシング チーム(mCrt)が挑んだ。アバルトの参戦車は、mCrtの「500ラリー R3T」のみ。彼らの挑戦を取材しました。

9月23日〜25日にローマ市内とその近郊で開催されたイタリア ナショナル選手権「ローマ ラリー」に、日本チームがアバルトで参戦しました。全日本ラリー選手権で強さを見せてきた、mCrt(ムゼオ チンクエチェント レーシング チーム)です。ドライバーは、全日本ラリー選手権のチャンピオン経験者である眞貝知志選手、コドライバーは全日本戦で眞貝選手のパートナーを漆戸あゆみ選手です。

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金曜日夕方のセレモニアルスタートを前にした眞貝選手(右)と漆戸選手(左)。

イタリア ナショナル選手権は、世界各国のナショナルシリーズの中で最もレベルが高いレースのひとつ。もともと参加者の層の厚いイタリアのラリー界にあって、世界選手権の経験者やメーカーが育成中の若手ドライバーなどが参戦し、しのぎを削る激戦区です。

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ローマ ラリーは、ローマ市内と郊外の山岳地帯を舞台に繰り広げられるイタリア ナショナル選手権で最も観客動員の多いラリー。歴史的な建造物のすぐそばをマシンが疾走する。

ただし、イタリアのナショナル選手権でありながら、アバルトでのエントリーは、mCrtの1台のみ。FIA-R3規定は1.6リッターまでのターボ車によるクラスであるため、排気量が少ない1.4リッターターボのアバルト 500は戦闘力の面で圧倒的に不利なのです。今回は現地のプロチームとジョイントしての参戦ですが、「最新のR3マシンと較べると1kmあたり1秒の差がある」といわれるほど。けれど、mCrtはアバルトで戦いたいがために活動しているチーム。他ブランドのチョイスはありえないのです。

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mCrtの参戦に合わせてローマ ラリー観戦ツアーが組まれ、日本から来た眞貝/漆戸組の応援団がサービスパークを訪問した。

歴史的に見ても、アバルトは“ジャイアント キラー”の異名を持つブランド。車格の上では不利でもチャンスがあれば大パワーを誇る上位のマシンを刺してきましたし、結果も残してきました。そうした意気を秘めてのチャレンジでもあるのです。

金曜日の午後にローマ市内で行われたセレモニアルスタートの会場では、アバルト 500ラリー R3Tの人気ぶりに仰天しました。ローマ ラリーはイタリア選手権で最も観客動員が多いことで知られますが、mCrtのマシンの周りには常に大勢のファンがいて、和風デザインに彩られたその姿を笑顔で眺めていました。

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アバルト 500ラリーR3Tは、どこにいても大人気。「アバルト!」「チンクエチェント!」「ジャポネ!」と声がかかる。眞貝選手も漆戸選手もサイン攻め、記念写真攻めだった。

それは競技がスタートしてからも同様でした。熱心なラリーファンはもちろん、お祭りのノリで沿道に出てきた地元のおじいさんやおばあさん、それに子供達の声援が最も多かったのは、断トツでアバルト。競技中にメンテナンスを受けるためのサービスパークで待ち受けていたファンが最も多かったのもアバルト。主催者側までアバルトを大歓迎といったムードで、セレモニーでのマシン紹介やインタビューに多くの時間を割いていました。進行役のアナウンサーが「遠い日本から参戦してくれたのもものすごく嬉しいけど、あなた達が私達の国のクルマ、それもアバルトで走ってくれるというのがすごく嬉しいよ」と大きな笑みを浮かべていました。

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mCrtのメンバーは、現地メディアにもたくさん取材を受けていた。現地の新聞に「日本人選手がアバルトで参戦」と掲載されたほどの注目度だった。

アバルト、やっぱり本国でも強烈に愛されているのですね。

しっかりした感触を掴み 来年に夢を繋ぐ

競技の結果をご報告すると、mCrtの500ラリー R3Tは、R3クラスを3番手でフィニッシュしました。が、ドライバーもコドライバーも、満足できた様子ではありませんでした。そもそもレッキと呼ばれる下見走行の後から、表情は苦渋に満ちていたのです。

「コースは日本では経験したことがない路面環境。リスキーすぎて誰も全開ではいけないようなところで、こっちの道を走るのが初めての自分達は、どのくらいまでペースを上げたり下げたりすればいいのか、加減が掴めない」と眞貝選手。

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スペシャルステージを駆け抜ける、mCrtのアバルト。ペースが上手く掴めず、全日本戦のようなキレのいい走りがなかなかできない。

漆戸選手は「リエゾン(=移動区間)でコマ図に従って走るのが、普段と違って難しい。予習はしてきたつもりだけど、すべてがイタリア語で戸惑ってしまうこともあるし、道のあり方が日本とは全然違う。いつもなら意識しないで当たり前にできていることができないんです」と話してくれました。

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スペシャルステージは、ローマ市内から西南西に70~120kmほど離れた山岳地帯をメインに行われた。速度の乗る高速ステージが多く、路面は荒れている。

そうした諸々が上手く解決できないまま競技に突入したせいか、“1kmあたり1.5秒”遅れとなることもあり、土曜日にはジャンプしてはいけないところで飛んでサスペンションや駆動系を傷めてしまい、最終的には駆動系のダメージで初日をリタイア。修復作業をすませて挑んだ日曜日も、午前中は上手く噛み合いませんでした。

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小さなミスから大きくジャンプをすることになり、マシンはサスペンション周りと駆動系を損傷。メカニック達は素早く作業にかかり、ダメージ前とほとんど同じ状態までリペアした。

けれど、午後に行われた最後の3本のステージでは、500ラリーR3Tの眞貝/漆戸組は、地元勢が驚くほどの速さを見せました。午前中に走ったコースをリピートするステージで、眞貝選手は「どう走ればいいのか少しわかりはじめた」とのこと。その結果、クラス首位のマシンに“1kmあたり0.8秒”まで肉迫するアバルトらしい快走を見せました。これはイタリア人のメカニック達にとっても想定外の速さだったようで、「こっちの道にもう少し慣れて同じ条件で戦えば、眞貝は間違いなく優勝できる」と、興奮気味の笑顔を浮かべていたほどでした。

161021_abarth_10_1200眞貝/漆戸組の心強いアドバイザーとして、世界ラリー選手権でもコドライバーをつとめていたミケーレ・フェッラーラさんが協力。「眞貝は本当に速いドライバーだし、アバルトの走らせ方も心得ている。一緒に組んでみたいね」と賛辞を送っていた。

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ローマ ラリーの途中に開発中の「アバルト 124 ラリー」がアトラクション的に登場。スーパーSSでは、ものすごい注目度だった。

ラリーの分野では、ヨーロッパの壁は昔から相当に高いのです。けれど、その壁の超え方さえ理解すればちゃんと戦えるし、勝つことも夢ではありません。傍観者として取材に行った身でもそう確信できた、彼らの初挑戦でした。

mCrtは3年計画でのチャレンジを考えているということなので、来年以降の活躍に大きな期待が持てそうです。

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Text:嶋田智之(Tomoyuki Shimada)
Photo:山本佳吾(Keigo Yamamoto)