山野哲也選手×124 spider タイヤ戦争勃発、苦難を迎えるも全力で挑戦

全日本ジムカーナ選手権2020は、遅まきながら開幕戦を迎えた。今年は新型コロナウイルスの影響により全8戦中、前半の4戦が中止や延期となり、全4戦で競われることとなった。その開幕戦が8月22日(土)〜23日(日)、北海道砂川市のオートスポーツランドスナガワ ジムカーナコースで開催された。山野哲也選手と124 spiderのコンビは今年で4年目。2017〜2019に3年連続でチャンピオンに輝いているものの、今年はタイトル奪取を狙ってくるライバルやタイヤメーカーの追撃を受け、厳しい戦いを強いられることになりそうだ。“ジムカーナキング”は苦境をどう戦っていくのか。その挑戦に迫る。

激しさを増すタイヤ戦争

カラリと晴れ渡った北海道。レース決勝を迎えた日曜日の気温は朝晩には18度位まで下がり、昼頃には27度前後まで上がる気温差の大きい1日となった。こうしたなか、今シーズンはタイヤメーカーの動きに新たな変化が見られた。昨年後半にヨコハマタイヤがニュータイヤを登場させたのに続き、今年はダンロップがニュータイヤを投入してきたのである。今回の北海道はそのダンロップのニュータイヤのデビュー戦となり、3ブランドの中でもっとも古株となったブリヂストン勢にとっては、より設計が新しい2銘柄に太刀打ちする格好となる。山野選手もその一人である。


快晴のなか行われた決勝。完熟歩行で走行ラインを頭にイメージしながら、少しでもクルマの速度に近づけようとランニングでパイロンを回る山野選手。そのスタイルは夏でも変わらない。

午前と午後で1回ずつ走行し、全体のベストタイムで順位が決まるジムカーナ。第1ヒートでは、ダンロップタイヤを装着した124 spiderを駆る小俣洋平選手が1’37.080を叩き出し、トップタイムをマークしていた。PN2クラスの最後に出走する山野選手。スタートフラッグが振られると、山野選手はひとつひとつのコーナーを丁寧にクリアしていく。前半セクション、後半セクションと安定した走りでこなし、チェッカーフラッグを受けた。タイムは1’37.395。小俣選手のコンマ3秒遅れで、暫定順位は2位。この時点で厳しい戦いとなることが予想された。山野選手の走りに隙はなかった。にもかかわらず、ライバルのタイムに追いつかなかったからである。

午前の走行を終了したところで、山野選手とチームスタッフの間でミーティングが行われた。これは毎回のルーティンではあるものの、今回は第1ヒートでトップを逃したためメンバーの表情には緊迫した空気が漂っていた。


急制動後のタイトターン。ハザードランプを点灯させながら激しくアスファルトを蹴る124 spider。

ミーティングが終わり、午後の走行に向けたセッティングの方向性が決まったところで、山野選手に話をうかがう機会を得られた。

どんな戦いになりそうでしょうか?

「今年の最大のライバルは小俣洋平選手ですね。彼は今年他クラスから移ってきた選手ですが、マシンは去年まで松本敏選手(※PN2クラスで上位争いをしていた)が乗っていた124 spiderで、タイヤはダンロップです。レースはタイヤメーカーの戦いでもあり、ブリヂストン、ヨコハマ、ダンロップの3メーカーがしのぎを削っています。今年ダンロップがニュータイヤを出してきたことでパフォーマンスが上がっているようですね」


山野選手が最大のライバルとする小俣洋平選手。マシンは同じ124 spiderながらタイヤは山野選手がブリヂストンを履くのに対し、小俣選手はダンロップを装着する。

第1ヒートを走り終えた印象はどうでしたか?

「第1ヒートを終えた時点では、昨日までのパフォーマンスを出し切れていない印象ですね。それはおそらく路面温度の違いだと思われます。金曜日のプラクティスが今日と同じような状況で、4ヒート走っても小俣洋平選手にまったく追いつけなかった。一方、昨日は気温が上がり、こちらの方が調子良かった。今日はまた涼しくなり、小俣選手に利がある気がしますね」


第1ヒート終了後にタイヤをチェックする山野選手。午前は路面温度が上がらず、低温を得意とするダンロップ勢に押される展開となった。

第2ヒートはどのように戦っていくつもりですか?

「第2ヒートは、逆転できるだけの要素があるかといえば、結構難しいと思います。モータースポーツでは日射は真上よりも斜め方向からの方がいいのです。朝の9時や10時、もしくは15時位の方がタイムが出やすい傾向にあります。第2ヒートは太陽が真上に来る時間帯なので、路面温度が上がりすぎてタイヤにとってベストな環境ではなく、また気温や湿度が上がるとエンジンのパフォーマンスがダウンする可能性も考えられます。チームでミーティングをして今の状況から考えられる選択肢について話し合いましたが、第1ヒートでトップを取られてしまった以上、捨て身でいくしかない。やったことがないセッティングでチャレンジするつもりです」


走行前に頭の中にコースを描き、イメージトレーニングをする山野選手。与えられた時間をすべてタイムアップにつながる行動に使おうとする姿勢が見て取れる。

12時40分頃、山野選手の属するPN2クラスの第2ヒートがスタートした。予想された通り、気温はぐんぐん上昇していた。出走台数は全11台。7番目に小俣選手がスタートを切った。順調にコーナーを抜けていき、前半のセクションは第1ヒートを上回るタイムをマーク。後半セクションも午前のタイムを切ってきた。タイムは1分36秒821。第1ヒートからコンマ2秒近く詰め、大きなタイムアップを果たした。山野選手にとっては厳しい状況だ。


小俣選手がベストタイムを更新したことでコースに出ようとする山野選手に重いプレッシャーがのしかかる。

境地に立たされた山野選手。会場の視線が山野選手の124 spiderに注がれる。かなりのプレッシャーを感じているに違いないが、そこは百戦錬磨の山野選手。コーナーをひとつひとつ丁寧に抜けていく。ミスのない完全な走りに、見ているギャラリーもどちらの選手が速かったのかわからない様子。チェッカーフラッグを通り抜け、MCがタイムを読み上げる。1分37秒375。惜しくも小俣選手のタイムには一歩及ばなかった。2番手である。


プレッシャーのなかミスのない走りでパイロンを抜けていく山野選手。走りは安定しており、ミスすることなくチェッカーフラッグを受けた。

山野選手とチームにとっては残念な結果となった。ひと段落したところで山野選手に話をうかがった。

今回のレースを振り返ってどうでしたか?

「厳しい戦いになると覚悟はしていましたが、その通りになりましたね。シーズンオフから努力して挑んだ今回の開幕戦でしたが、新たなライバルの出現とタイヤ戦争の勃発により、競争が熾烈になったと感じています。自分たちの持っているパッケージでは、今日は精一杯の戦いでした」

満足のいく走りはできましたか?

「ドライバーとしてできることは全部やりました。第2ヒートの走りに失敗したところがあったかといえばなかったし、ベストを尽くせたとは思っています。セッティングを変えてチャレンジしましたが、そこについてはうまくいった部分もあればいかなかった部分もあるという感じですね。ここのコースはコーナリング時間が長いのが特徴で、低重心である124 spiderにはマッチしているコースですが、ライバルも124 spiderなのでそこは同じですね」


午前よりも条件が厳しくなることが予想されるなか、ヒート1からのタイムアップが求められた第2ヒートの戦い。山野選手は賭けに出て新たなセッティングを試すも、残念ながらタイムアップには結びつかず、2位という結果となった。

今シーズンはタイヤ競争の一面が大きそうですね。

「今回は今年新しく出たダンロップタイヤのデビュー戦となりましたが、低温のみならず高温にも強そうですね。小俣選手は第1ヒートも速かったですが、路面温度が上がった第2ヒートにタイム短縮している。それはおそらく第1ヒートで余していたところをドライバーが詰めてきたということだと思いますが、いずれにしてもタイヤのパフォーマンスに余裕があるのは確かだと思います。9月に恋の浦(福岡)、10月に名阪(奈良)、11月にイオックスアローザ(富山)と後半に向け、これから気温が下がっていくことを考えると、タイヤのパフォーマンスの差が開く方向に行く可能性が高く、厳しい戦いが予想されます。でもこういうサイクルは必ずやってくるのです。タイヤ3社の中でブリヂストンのタイヤが一番古株になってしまいましたが、厳しい時も共有して一緒に強いタイヤにしていく、ということが大事なのだと思います。長い年月で見ると一番チャンピオン回数が多いのはブリヂストンのタイヤで、パフォーマンスは安定しています。ヨコハマタイヤもダンロップもブリヂストンに勝とうと思ってがんばって挑んでくるわけですから、やはり常時勝てるものではなく、巡り合わせはあります」

残りのレースではできることをひとつひとつ確実にこなしていくという感じですか?

「そうですね。こういう時期は大事というか、過去を振り返るとチャンピオンをとれなかった年というのは実は影で進化しているのです。負けを承知で諦めているわけではなく、たとえ負けるとしてもパフォーマンスを上げようと努力する。それが強いタイヤを生み出すには必要で、そうすることによって新しいタイヤができた時に、より強いパッケージができ、速く走れるのだと思います。そういう意味では今年は谷間の時期で、苦しい戦いになるかもしれません」

最後に応援してくれている方にひと言お願いします

「今回は2位で残念な結果になりましたけど、次戦以降、またがんばります。優勝するシーンをお見せするのは結構大変そうですが、舞台裏でコツコツ仕上げて、いつかドカーンと花火を打ち上げられるようにがんばっていきたいと思います。厳しくても2番手につけていれば、チャンスが巡っている可能性があるので、そのチャンスが訪れた時にしっかりモノにできるように全力でがんばっていきたいと思います」


表彰台でも全員がマスクを着用。新様式での開催となった。コロナの影響で開幕戦が遅れたことについて山野選手に聞いたところ、「モータースポーツを休止している時間が長いと、生きがいというか生活の中のハリや抑揚というものが減少すると感じました。やはり自分にとってモータースポーツが大きな存在であることを改めて実感しましたね」と話してくれた。

シーズン後半戦に向け、苦戦への覚悟をにじませた山野選手。とはいえ、決して勝負を諦めているわけではない。コメントからは、厳しい現実から目を背けることなく、状況を冷静に受け止めながら前進しようとする決意のようなものを感じ取ることができた。次戦は9月12日-13日に行われる九州ラウンド。山野選手の活躍に期待したい。

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