今年最後のABARTH DRIVING ACADEMY@鈴鹿サーキット開催!BASEクラスの密着レポートをお届け。
ABARTHの名前が冠されたクルマ達は、皆さんもよく御存知のとおり、その小さな車体からは想像もつかないポテンシャルの高さと大きなドライビング・プレジャーを秘めたスポーツカーです。特別なクルマではあっても特殊なクルマではありませんから、ステアリングを握れば誰もが、その楽しさを堪能することができる痛快さが持ち味です。けれど操るドライバーがクルマの持つキャラクターへの理解度を高め、自らのドライビングでその特性をしっかり引き出せるようになってくると、次、また次と、それまで垣間見ることのできなかった素晴らしい顔を見せ、計り知れないパフォーマンスを持っていたりもするのです。間口は広いけれど、奥も深いのですよね。
そのパフォーマンスの全てを、ABARTHのキーを手にしたオーナーの皆さんが未来に向けて満喫し続けていける環境作りをしていきたいと、インポーターであるFCAジャパンは<ABARTH DRIVING ACADEMY>という参加型のドライビング・イベントを開催し続けています。サーキットという最も安全にクルマを走らせることのできる場所を利用した、参加者それぞれのスキルに合わせてドライビング・テクニックを学ぶことのできるプログラム。
そして、『ABARTH 500(アバルト 500)』ベースのマシンでスーパー耐久レースや全日本ラリー選手権を戦うmCrt(ムゼオ・チンクエチェント・レーシング・チーム)のドライバーを中心としたプロフェッショナル達に、それこそ丸1日ミッチリと正確なドライビングのセオリーを教えてもらうことのできるスクーリングです。全国各地のサーキットを回るかたちで年に数回、開催されているのですが、一般的なサーキット走行会の参加費にほんのわずかプラスαした程度のリーズナブルな費用でエントリーできることもあって、毎回、すぐに満員御礼となってしまいます。
<ABARTH DRIVING ACADEMY>についてはSCORPION MAGAZINEでもこれまで何度かレポートしてきましたが、8月19日(水)の鈴鹿サーキットで、この2015シーズンのラストとなるプログラムが開催されました。これまでと少々趣向を変えて、“BASE(バーゼ)”クラスのカリキュラムに密着する形でレポートをお届けします。
講師の数、今回は21人!という強力な布陣
<ABARTH DRIVING ACADEMY>のカリキュラムは、3つのクラスに分かれています。初めてこのスクーリングに参加する人や基本をしっかり習得したい人、それからビギナーを対象としたBASEクラス、そのBASEクラスへの参加経験があり、もう少しレベルアップした内容を望む人のためのTECNICO(テクニコ)クラス、充分に経験を積んでスポーツ走行にさらに磨きをかけたい人のための個人教授に近いかたちのBOOTCAMP(ブートキャンプ)です。
今回はBASEクラスに参加された皆さんの動きを負うようにして1日を過ごしたわけですが、結論から申し上げるなら、ABARTHオーナーが100人いるなら100人全員が受講するべきプログラム、と感じました。ドライビングにおいては“できること”と“できないこと”には個人差があるものですが、ほぼ全員が1日をスタートしたときには“できないこと”だった何かしらを“できること”へと成長させて帰れる、実に有効なドライビング・スクールだったからです。これほど参加者のドライビングを細かく観察し、丁寧なレクチャーを解りやすく繰り返してくれるレッスン、他にあったかな?と思ったほどでした。
さて、参加者の朝は、それなりに早いです。7時から鈴鹿サーキットのフルコースのパドック内で受付をすませ、自分のクルマにゼッケンを貼り、ナンバープレートの上に参加車両であることを示す別のプレートを貼るなどして準備をします。
8時からの開会式では、<ABARTH DRIVING ACADEMY>の目的をあらためて参加者に皆さんにお伝えするとともに1日の流れ全体の説明があり、その後にこの鈴鹿でのレクチャーを担当するインストラクターひとりひとりの紹介も行われました。きっと参加者の皆さんは驚かれたことでしょう。何と!21人ものプロフェッショナルが肩を並べていたのです。このSCORPION MAGAZINEでもお馴染みとなった全日本ラリー選手権でのチャンピオン経験者の眞貝知志選手やスーパー耐久レースの井尻薫選手の姿もありました。これほど講師を務めるプロ・ドライバーの数が多いドライビング・スクールというのも、他には知りません。
第1段階は最も大切な基礎をガッチリ学ぶBASEクラス。
開会式が終わった後は、それぞれのクラスに分かれての座学がスタートします。参加人数が80名ほどと多いこともあって、インストラクターと参加者がしっかりコミュケーションでき、レクチャーする内容も伝わりやすいよう、それぞれのクラスの参加者をグループ分けして行われます。BASEクラスの座学では、まずドライビング・ポジションの正しい作り方や荷重移動の性質、走らせているときの視線の置き方をはじめとした基礎的なことの説明があり、そうした基礎の基礎といえるものをマスターすることがドライビングを上達させるための必要条件であることが伝えられます。
座学の後に南コースへと移動して行われた“パートレッスン”と呼ばれる実践トレーニングは、午前中いっぱいの時間をかけてそれらを習得するための反復練習といえるものでした。BASEクラスは参加人数が最も多いこともあって、ミニ・サーキットといえる南コースと、そこに隣接する西パドックの2箇所に会場を分け、クラスを2つに分けて別々の内容を交替で学びます。
南コースの方ではコースを4つに区切り、2本のストレート、ふたつのS字のそれぞれを、異なったテーマに添って走ります。
最初のストレートは、全開加速からの直進状態でのフル・ブレーキング。静止状態から全開で加速して、最初のパイロンの立つ場所に達したらフル・ブレーキングに転じて、次のパイロンまでの間に静止できるか、という練習です。日常的なドライブでは、何事もなければブレーキ・ペダルを全力で踏みつけるようなことにはまずならないため、はじめのうちは2つめのパイロンまでに静止できない人の方が圧倒的に多かったのでした。
次のストレートは、コースにパイロンを等間隔に並べ、左・右・左・右・・・と走り抜けていくスラローム。これは主としてスロットル・ペダルのONとOFFでクルマの前輪と後輪のそれぞれにかかる荷重が移動することを体感し、ON/OFFのタイミングを覚えていくためのものです。こうした場面では、ペダルのON/OFFだけでもクルマがクルンと綺麗に曲がってくれたり、逆に曲がりにくくなったりするもの。こちらでは最初のうちはそのタイミングがうまく掴めずにギクシャクしたり、パイロンに接触したりする人が多く、また逆にパイロンの間隔を気にするがあまり速度が上げられず、徐行のようなスピードで走っている人も見受けられました。
ひとつめのS字は、比較的ゆるやかなコースでした。ここでは曲がっていくときのライン取り、つまり基本といえるアウト・イン・アウトで走ること、ステアリングやペダルの操作を丁寧に行ってスムーズに走ること、そしてその時にはどこに視線を置いて走るべきかを練習します。コース幅をいっぱいに使って走ることが求められるわけですが、幅いっぱいまで寄せることのできない人やスムーズにラインを描けない人が、はじめのうちは多かったようです。
そしてふたつめのもう少し曲率の強いS字は、それらの複合技。加速→スロットル・ペダルOFF→軽い左ターン→ブレーキング→少しきつめの右ターン、という流れを、スロットル・ペダルのON/OFFやブレーキングによる荷重移動、スムーズなアウト・イン・アウトのライン取りなどを意識しながら走ります。当然ながら、最初から全てを上手くこなせる人などほぼ皆無。ひとつのテーマに気を取られ、それが上手くできても別のテーマが上手くいかず、綺麗にS字をクリアできているように見える人はほとんどいませんでした。
隣接した西パドックの方は、敷地をふたつに分けて、それぞれ異なるかたちのコースが作られていました。ひとつは楕円形のコース、もうひとつは複雑にパイロンを接地したジムカーナ・コースです。
楕円形のコースは、加速→左ターン→加速→左ターンの繰り返しを続けて数周走ることになるわけですが、こうした場合には次第に自然と速度が上がっていくもの。そして、それに連れてクルマがどんどん曲がりにくくなっていきます。つまりアンダーステアというのはどういうものなのかを体験することができます。同時にスロットルの踏み加減やON/OFFのタイミング次第でアンダーステアを殺せることも学べます。これも最初のうちは、綺麗な楕円を描くことができず、ターンの内側にあるパイロンからどんどん離れていってしまう・・・つまりアンダーステアを殺せない人が多かったようでした。
ジムカーナ・コースは、とてもコンパクトにまとめられていました。つまり、速度がそれほど高くならない設定です。スロットル・ペダルのON/OFFやブレーキングによる荷重移動で前側のタイヤに荷重を載せた状態でステアリングを操作するとクルンと綺麗にターンが決まること、逆に荷重移動が上手くできていないと逆にクルマが曲がってくれないこと、その低い速度域でもそうしたクルマの挙動ははっきり現れることが体験できます。ここでも最初のうちは、当然ながら荷重移動が上手にできてターンをクルリと決められる人はほとんどいませんでした。それらのパートを、時間の許す限り、何度も何度も徹底して反復練習していくわけです。
誰もが上達して帰る、その理由。
それぞれのパートには、その場所を専門的に担当するインストラクターが必ずつき、走行するひとりひとりの参加者の方の走り方を見て、1本走り終わるごとにひとつひとつアドバイスを伝えていました。それぞれのパートをクリアするにはそのための理論というのが必ずあって、その理論にあてはめて走るためにはどういう操作をしたらいいのか、それをとても解りやすく説明していました。
感心したのは、まず、インストラクターの観察がとても細かいこと。それぞれの参加者が前回はそのパートをどう走って、どこで何が上手くいかずに結果としてどうなったか、どこがしっかりできてそれがどういう効果を生んだかということを記憶していて、次に走ったときに前回との比較をしながら「前回と較べてこのポイントが上手くできたから、その動きを次のこういうところに結びつけましょう」みたいなアドバイスを当たり前のようにしているのです。また、「ドライビング・ポジションが少し遠いようだから、シートを1ノッチ前に出して走ってみてください」とアドバイスをした参加者が次に走った後、「ポジションを動かしてないですね。ステアリング操作をしたときの腕の伸び方で判りますよ(笑)。次は動かして走ってみてください。気分的には窮屈に感じられるかも知れないけど、ステアリングがかなり自然に操作できるはずですから」なんて言葉を聞くこともできました。素晴らしい観察眼です。
もうひとつは、インストラクターが参加者にアドバイスするときの言葉の選び方です。こうしたドライビング・レッスンでは専門用語が前提となっているようなところもあって、専門用語が示す意味を理解している人には最手早く効果的に伝わるモノですが、<ABARTH DRIVING ACADEMY>は違っていました。
ドライバーの理解度、習熟度に合わせて、同じことを説明するのにも全く別の言葉を使っていたのには驚かされました。例えばドライビングの理論への理解が深い人には「〜では流れに逆らってインに尽きすぎないようアウト側から右側にアプローチして、クリッピング過ぎたらスロットルONで〜」となるところを、「〜ではもっとワガママに回っちゃっていいですよ。でも、イメージとしては次に右のタイヤがパイロンのギリギリを通り抜けるような感じで。大丈夫です。あそこではそう簡単にパイロンを踏んだりはできないですから」みたいに。
初めて参加してドライビングの理論を知らなくとも、どんなふうに走ればいいのかが一発で理解できるような説明です。人間は一度体感すると、その感覚は不思議と忘れないもの。上手く走れたときの感覚は、次に同じことをするときのための何よりのバロメーターです。それに添って反復練習を繰り返せば、次第に“できないこと”が“できること”に変わっていく、というわけですね。
そしてカリキュラムとしては、昼食の後に西コースへ移動して、今度はインストラクターがステアリングを握るABARTHの後を自分のクルマで走る、ライン取りを覚えるための先導走行、もう少しペースを上げてのカルガモ走行、再びの座学をはさんでグランプリ・コースへ舞台を移し、そちらでの先導走行とカルガモ走行、さらにはインストラクターが参加者のABARTHを入らせて助手席でグランプリ・コースと自分のクルマの真のポテンシャルを体験できる同乗レッスンと続くわけですが、BASEコースの最も意義深いところは、そのていねいなアドバイスを受けながらの徹底した反復練習にあるのだと思います。
事実、それぞれのパートを繰り返しトライしている参加者の方の走りを見ていると、最初はおっかなビックリ走っていたり、ガムシャラに走っていたりしていた人達のドライビングが、次第にどんどん洗練されてくることが判ります。確実に上達しているのが判るのです。“ABARTHオーナーが100人いるなら100人全員が受講するべきプログラム”と感じたのは、だからなのです。
付け加えておくと、BASEコースのトレーニングは本当に基礎的な部分に集中していて、多くのウデに自信を持つドライバーは、“自分はそれができている”と思い込みがちなものばかり。でも、実際にやってみると思いのほか完璧にはできてなくて、自分のドライビングの癖や欠点と向き合うことになったりするものです。プロにチェックしてもらいながら反復練習すれば、そうしたところをひとつずつ潰していくことだってできるわけです。仮にスポーツ走行慣れしている人がBASEクラスに参加しても、充分に勉強させてもらうことができるでしょう。
まずは一歩を踏み出してみる。そしてときには、三歩進んで二歩下がる。それを繰り返していくことこそ、上達を確実なものにしていくための有効な方法論なのかも知れませんね。
ABARTH DRIVING ACADEMY参加者は、どう感じた──?
最後になりましたが、このBASEクラスの参加された方おふたりにコメントをいただくことができたので、素直な感想をお届けしたいと思います。
浪岡英治さん(三重県)/ABARTH 500 ESSEESSE/初参加
鈴鹿サーキットは憧れの場所で、普段はなかなか走れないですよね。それもあって参加してみました。サーキット走行は3回目なんですが、先導車つきでは、グランプリ・コースの走行はやっぱり少し物足りない感じでしたね。もうひとつ上のクラスのように、少しでいいからフリー走行してみたかったです。パイロンを使ったジムカーナの練習の方がおもしろかった。このBASEクラスに一度参加しないと上のクラスには参加できないので、来年は絶対にTECNICOに参加したいですね(笑)。
でも、勉強にはなりました。インストラクターの方にアドバイスしてもらってから次に走ると、いわれたことが解るし、少しずつ教わったとおりにできるようになる感じがしました。教え方も、とっても解りやすかったです。それによく見ていてくれて、自分で失敗したと思った部分は、ちゃんと指摘してくれます。アクセルを踏むのをもう少し早めにとかブレーキングをもう少し遅くしましょうとか、失敗したところを改善するための提案もしてくれます。本当に勉強になりました。参加費を払う価値は充分にありますよ。安いと思うくらいです。
曽根勲さん(神奈川県)/ABARTH 595/初参加
孫がチンクエチェントを好きで、ときどき孫を連れて箱根に行くようになったんけど、ABARTHを買う前は、たぶんいい加減に運転してたんでしょうね。ドライビング・ポジションもちゃんとしてなかったり、ステアリングも内掛けしていたり。でもABARTHを買ってからはクルマが“もっと踏め”っていっているみたいで、ネットで色々調べて勉強して、せっかくだから参加してみようと。
サーキットもこうしたスクールに参加するのも初めてで、今回は初心者クラスですけど、これを3回ぐらいは受講したいと思いました。どこでどんなふうにブレーキを踏めばいいのか、どこからアクセルを踏んでいけばいいのか。そういうのをちゃんと知ることができるのはいいですね。先導してもらってコースを走るのも、ラインの取り方がよく解っておもしろかったです。ジムカーナでは自分の運転の癖だとか考え方が違っていたことも解って、それもアドバイスを受けて自分でやってみて体験することで理解できたから、とても勉強になりました。例えばコーナーの先を見ろということとか、これまであんまり意識しなかったことに意識が向いて、これは普段の運転にも役立つでしょうね。
私は今69歳ですけど、これからもこのアカデミーには参加して、あと10年はこのクルマでガンガン走ってやろうと思ってます(笑)。
2016シーズンには新たなプログラムも・・・?
今回の鈴鹿での開催をもって2015シーズンの<ABARTH DRIVING ACADEMY>は終了。FCAジャパンは続行をアナウンスしていますから、来シーズンを楽しみに待つしかありません。
また関連するイベントとして、この9月27日(日)に神戸市の特設会場で<ABARTH SAFETY DRIVING CAMP>(が開催されます。これは気軽に走れる安全で簡単なミニ・ジムカーナのコースを使って、<ABARTH DRIVING ACADEMY>の要素を採り入れながら安全に楽しくクルマを走らせるための、半日程度のドライビング・レッスン。新しい試みです。
現時点では2016シーズンの計画は発表されていませんが、より気軽に参加できそうな新しいドライビング・レッスンも含めてさらに広がりのあるものになっていくんじゃないか?と、期待感が高まりますね。
INFORMATION
★<695 BIPOSTO CARAVAN>が開催中!
『ABARTH 695 BIPOSTO 』が、9月26日(土)、27日(日)は札幌、神戸で開催。
>> https://www.abarth.jp/bipostocaravan/
★『ABARTH 695 Biposto 』の詳細はこちらから
>> https://www.abarth.jp/695biposto/
嶋田智之さんによる『ABARTH 695 Biposto』レポートはこちらから
>> https://www.abarth.jp/scorpion/driving_fun_school/4862
★Ready for Autumn キャンペーン
専門のスタッフがABARTHの熱いカーライフをサポート。10月31日(土)まで実施中!
>> https://www.abarth.jp/readyforautumn/
★<ABARTH SAFETY DRIVING CAMP>
ADAの要素を取り入れながら、英国発祥のミニ・ジムカーナ『オートテスト』の本格的な導入を目指して、新プログラムがスタート。
>> https://www.abarth.jp/safetydrivingcamp/
Text:嶋田智之
Photos:YosukeKAMIYAMA