1993 ALFA ROMEO 155 V6 TI|アバルトの歴史を刻んだモデル No.073

1993 ALFA ROMEO 155 V6 TI
1993年 アルファ ロメオ 155 V6 TI

闘いの舞台はサーキットへ

アバルトは1971年にフィアット・グループ入りした後、グループ内の競技用車両の開発を担うこととなった。旧アバルトの開発チームが手掛けたマシンはモータースポーツで成功をおさめ、グループ内で“優勝請負人”としての地位を固めていく。なかでも人々に鮮烈な記憶を残したのは、グループAのランチア・デルタで、1987年から6年連続で世界ラリー選手権(WRC)のマニュファクチャラーズ・チャンピオンを獲得する偉業を成し遂げた。

しかしフィアット・グループの首脳陣は1992年にランチアによるWRC参戦を終了し、新たなプロジェクトを開始した。それはアルファ ロメオによるツーリングカーレースへの挑戦である。


アバルトが手がけたマシンであることを示す開発コード「SE052」が与えられたアルファ ロメオ 155 V6 TI プロトタイプ。ここからさらに改良が加えられていく。

それまでイタリアの国営企業だったアルファ ロメオはブランド再建のため、1986年にフィアット・グループ入りする。かつてレースで大活躍し、栄光の歴史を持つブランドだけに、スポーティなイメージを確立するため新体制のもとレースに挑むことになったのである。

マシンの開発はアバルトが担当し、その部署は「アルファ・コルセ」と命名された。スポーティングディレクター(総監督)は、ランチア・チームを指揮していた経験豊富なジョルジォ・ピアンタに委ねられた。ピアンタ氏は元レーシングドライバーでランチアのラリーカーの開発ドライバーも務めた人物である。


1993年シリーズにDTMの舞台に姿を現したアルファ ロメオ 155 V6 TI。往年のアルファレッドとエンブレムをモチーフとしたカラーリングが出自を物語っていた。

アルファ・コルセはまずイタリア・ツーリングカー選手権に向けてランチア デルタ HF インテグラーレの姉妹モデルといえるアルファ ロメオ 155 GTAを送り出す。アバルトの開発コード“SE051”が与えられ、パワートレインはインテグラーレにも採用されていた2Lターボエンジンと4WDシステムが搭載された。同モデルは誕生とともに高い戦闘力を発揮し、1992年のイタリア・ツーリングカー選手権を制することに成功した。

次なる舞台はDTM

こうしてサーキットの舞台に復活を遂げたアルファ ロメオは、イタリア・ツーリングカー選手権の車両規定が変更されたこともあり、当時最高峰のツーリングカーレースとして人気を集めていたドイツ・ツーリングカー選手権(DTM)に闘いの場を移すこととなった。こうした経緯からDTMのクラス1規定に合わせて製作されたのがアルファ ロメオ 155 V6 TIである。プロトタイプにはアバルトの開発コード「SE052」が与えられ、1993年には「SE057」へと進化を遂げた。


空力効率と冷却性能を追求した巨大なフロントエアダムを組み込んだバンパーや、大きく張り出したフェンダーがパフォーマンスの高さを漂わせた。

クラス1規定では、エンジンは自然吸気で排気量2.5 L、6気筒以下であれば量産車からの大幅な改造が認められていた。アルファ ロメオの手持ちの2.5L V6エンジンは、ボア88.0mm×ストローク68.3mmというショートストローク型エンジンだったが、155 V6 TIにはより突き詰めたF1マシン並みのV6ユニットが搭載された。ボアは93.0mmまで拡大され、一方でストロークは61.3mmという極端なショートストローク型とされた2498ccユニットで、超高回転を可能としていた。1993年のデビュー時に発表されたマシンの最高出力は420bhpで、発生回転数は驚きの11500rpm。アバルトのテクノロジーが余すことなく注ぎ込まれていた。このV6ユニットは年を追うごとにチューニングが高められ、最終的に500 bhp/12000rpm を発生したとされる。

その自然吸気V6エンジンは縦置きで搭載され、そこに6速トランスミッションとインテグラーレで磨き上げてきた4WDシステムが組み合わされた。またエンジンの搭載位置も可能な限り低められ、エンジン本体はタイヤの上面より低く設定された。


155 V6 TIは年を追うごとに進化を続け、写真の1995年モデルでは、空力を突き詰めるとともにフェンダーもさらに拡幅された。

さらに大きく変更されたのがスタイリングである。キャビン部分は市販車のそれを用いていたものの、空力性能を突き詰めるためフロント周りは大きく手が加えられた。フロントセクションはプロトタイプマシンのようにボンネットとフェンダーが一体で開くカウル式を採用。キャビンにはロールケージが張り巡らされ、本気のレーシングマシンであることを物語っていた。車両重量は各部の軽量化により1100kgまで低減されていた。

1993年、DTMチャンピオンへ

こうしてアバルトの精鋭部隊により製作されたアルファ ロメオ 155 V6 TIは、1993年のDTMシリーズ開幕戦となるベルギーのゾルダーサーキットに姿を現した。アルファ・コルセは2台の155 V6 TIを持ち込み、エースドライバーのニコラ・ラリーニと、元F1パイロットのアレッサンドロ・ナニーニにステアリングを託した。このほかサポート役としてシューベル・エンジニアリングから2台がエントリーし4台体制で挑んだ。

DTMシリーズは1イベント2レースずつのダブルヘッダーでレースが行われるのが特徴で、全10戦(20レース)で競われた。開幕戦はラリーニがポールポジションを獲得し、レース1とレース2ともにラリーニが制する幸先の良いスタートを切った。1993年シーズンは、それまでのチャンピオンだったAMG-メルセデスを下し、ニコラ・ラリーニが10勝を挙げてドライバーズ・チャンピオンを獲得。アルファ ロメオは20戦中12戦で優勝を果たし、挑戦初年ながらメイクス・チャンピオンをトリノに持ち帰ることに成功したのである。


1993年のDTMシリーズを制した155 V6 TI。現役を退いた後にはグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードなどのイベントでその雄姿が披露されている。

こうしてアバルトは新たなミッションに完璧な結果で応え、アルファ ロメオのブランドイメージを高めることに貢献したのであった。155 V6 TIにはアバルトの名やエンブレムこそ付かなかったものの、そこには闘いを求めるサソリの血が流れていたのである。

1993 ALFA ROMEO 155 V6 TI

全長:4576mm
全幅:1750mm
全高:1410mm
ホイールベース:2450mm
車両重量:1100kg
エンジン形式:水冷60度V型6気筒DOHC
総排気量:2498cc
最高出力:420bhp/11500rpm
変速機:6段マニュアル

 
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