1968 FIAT ABARTH 2000 SPORT SPIDER SE010|アバルトの歴史を刻んだモデル No.058

1968 FIAT ABARTH 2000 SPORT SPIDER SE010
フィアット・アバルト 2000 スポルト・スパイダー(SE010)

闘うアバルトの集大成

1960年代後半のアバルトは、フィアットの量産モデルにアバルト・マジックを施したツーリングカーや、自社開発した純レーシングマシンで、レースおよび当時メジャーだったヒルクライムを戦い、数えきれないほどの勝利を得ていた。なかでも純レーシングマシンはフレームから自由に開発できるため、メーカーの技術力が如実に表れた。

アバルトはフィアット量産モデルのフロアパンと主要コンポーネントで構成した「750GTダブルバブル」を皮切りに、1000ビアルベーロやOT1300/2000を完成させた。一方でより高いポテンシャルを得るため、鋼管フレームを備える純レーシングマシンも並行して手掛けたのである。


フィアット・アバルト 2000 スポルト スパイダーのリアビュー。スタイリングにはまだ’60年代の丸さが残る。カウルの下からエンジンが覗くことから分かるように、リヤエンジンレイアウトを受け継ぐ。

純レーシングマシンの記念すべき最初のモデルとなったのは1960年に送り出されたフィアット・アバルト750スパイダー・トゥボラーレで、マリオ・コルッチ技師による鋼管スペースフレームを備え、750ccのビアルベーロ・ユニットをミッドに搭載した先進的なレイアウトを採用していた。

その後1962年になるとアバルト1450スパイダー・スポルトに進化し、その派生型として2000cc版も作られ、ポテンシャルの高さを立証した。1966年にグループ6のプロトタイプクラスを闘う鋼管スペースフレームを持つスポルト・スパイダーの完成型となる1000SP SE04を送り出し、目論み通り1000ccクラスを席巻した。

最強のスポルト スパイダー

アバルトはフィアット・アバルト750スパイダー・トゥボラーレに始まる鋼管スペースフレームを備えるレーシング プロトタイプ マシンを手掛け、その集大成として1968年に登場したのが社内コードSE010と呼ばれる「フィアット・アバルト 2000 スポルト スパイダー」である。


フィアット・アバルト 2000 スポルト スパイダーのコクピット。ドライバーの正面にレブカンターが置かれ、その両側に水温、油温、油圧計をレイアウトした極めてシンプルなデザインだった。

このモデルから鋼管スペースフレームは、部分的にFRPを組み合わせた二重構造として剛性を高め、フレーム単体重量はわずか47kgに抑えられた。リヤに搭載されるOT2000で実績のある排気量1946ccの水冷直列4気筒DOHCユニットは、よりチューニングを高めて250HP/8000rpmのパワーを発揮した。ここで注目したいのはエンジンの搭載位置で、ミッドシップではなく、カルロ・アバルトが好んで採用していたリヤエンジンレイアウトとされたことである。


OT2000から受け継ぐ排気量1946ccの水冷直列4気筒DOHCユニットは、最高出力250HP/8000rpmを発生した。

フィアット・アバルト 2000 スポルト・スパイダーのスタイリングは、来る’70年代に主流となるウエッジシェイプをいち早く取り入れ、’60年代の丸みを残す流麗なラインと、車両規定で要求される大きなウインドウをきれいにまとめた完成度の高いものだった。
スタイリング最大の特徴は4灯のヘッドランプで、イタリアでは「クワトロ・ファリ」(イタリア語で4つのライトを意味する)のニックネームが与えられた。またノーズのインテーク中央にはナンバープレートのようにABARTH文字ロゴを記したパネルを配し、ミラーに映った際の存在感を高めていた。冷却はノーズにラジエター、ドライバーの横にオイルクーラーを配した当時の定番レイアウトを採用した。

リアデザインは当初、後輪をすべて覆う形状だったが、1969年から製作されたシリーズ2からは、リヤカウルが上面だけとなり、タイヤの後ろ側が露出するフェラーリ512Mやポルシェ917Kと同様の近代的なスタイリングに変わる。


近年アバルト・クラシケによりレストアされたフィアット・アバルト 2000 スポルト・スパイダー SE010。細部まで完璧に復元されている。

フィアット・アバルト 2000 スポルト・スパイダーは、そのポテンシャルをいかんなく発揮し、1968年4月にフランスのアンピュ・ヒルクライムでデビュー・ウィンを飾る。当時のヨーロッパではヒルクライムはレースと並ぶ重要な競技で、各メーカーが本気で闘っていた中での勝利は称賛に値する。以来ヒルクライムでアバルトは連戦連勝を重ねていった。

ここまで読むとヒルクライム専用マシンに思えるかもしれないが、フィアット・アバルト 2000 スポルト・スパイダーはレースでも高いポテンシャルを発揮した。公道を使ったレースの「グランプレミオ・ディ・ムジェッロ」では強豪のポルシェ908やアルファ ロメオ・ティーポ33を打ち負かして優勝を勝ち取り、「イモラ500km」レースではクラス優勝を果たすなどサーキットでも大活躍した。


1969年から製作されたシリーズ2は、タイヤの後ろ側が露出した近代的なスタイリングに変わっている。

’60年代末に数多くの栄光をもたらしたフィアット・アバルト 2000 スポルト・スパイダーは、アバルトの傑作レーシングマシンとしてファンの間で語り継がれている。

1968 FIAT ABARTH 2000 SPORT SPIDER SE010

全長:3850mm
全幅:1780mm
全高:970mm
ホイールベース:2085mm
車両重量:575kg
エンジン形式:水冷直4 DOHC16バルブ
総排気量:1946cc
最高出力:250HP/8000rpm
変速機:5段+後進1段
最高速度:270km/ h
タイヤ:F 4.75-13/R 6.00-13