【ABARTH CLASSICHE】アバルトの歴史を刻んだモデル No.019

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▲車名
1981 FIAT RITMO ABARTH 125TC
フィアット・リトモ・アバルト 125TC

アバルトが作るとホットハッチはこうなる

1970年代半ば頃、世界各地でコンパクトなボディサイズのハッチバック車が人気を集めた。フィアットもその流れに乗り1978年、それまでの「128」の後継モデルとして「リトモ」を送り出す。ところでフィアットは’60年代後半から開発コードナンバーをモデル名(例:124、131など)に採用してきたが、このリトモは戦後初めてアルファベットによる車名が与えられたモデルとなった。ちなみにリトモ(Ritmo)はイタリア語で“リズム”を意味し、親しみやすさを込めた車名だった。

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愛らしい姿がフィアット・リトモの特徴。イタリアの感性が作り上げた傑作デザインとの呼び声が高い。そこにさらにアバルトのエッセンスが追加され、ファンには堪らない1台となった。

フィアット・リトモは1300ccと1500ccエンジンを主とした3/5ドアのベーシックカーとして成功を収める。この時代、ゴルフGTIに代表されるホットハッチが存在感を強めており、そうした競合車に対抗すべく1981年に送り出されたのが「リトモ・アバルト 125TC」である。この時はフィアット・グループの中からアバルトブランドの名は姿を消していたが、かつてアバルトで腕を振るってきた優秀なエンジニアたちは健在だった。フィアットもそうしたリソースを生かし、リトモの高性能版としてアバルトバージョンを用意したのである。

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丸2灯式の特徴的なヘッドランプ。その横には「ABARTH」のエンブレムが取り付けられた。

アバルトバージョンの開発チームは、リトモが登場した直後にラリーなどの競技用としてリトモ・グループ2を製作する。それはFIA(国際自動車連盟)のグループ2規定に合わせて開発された1500ccのエンジンを積むコンペティションモデルで、フィアットのワークスカーとしてWRC(世界ラリー選手権)に参戦した。しかし、その時にすでにフィアット131アバルト・ラリーが存在していたことから、チームは総合優勝を勝ち取る可能性を秘めた131アバルト・ラリーに注力。リトモ・アバルトは次第に第一線から退いていった。しかしながら、このリトモ・グループ2で得られた様々なノウハウは、後年に登場するリトモ・アバルト 125TCの開発に生かされることとなったのだ。

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フィアット・リトモが登場した直後に競技用のリトモ・グループ2が登場する。そのコンペティションモデルは当初はアリタリアカラーを纏っていた。

ホットハッチへのアバルトからの回答として1981年に登場したリトモ・アバルト 125TCは、往年のフィアット・アバルト1000TCやOT1000と同様のロジックで作られていた。フロントに横置きで搭載されるエンジンは、アウレリオ・ランプレディが基本開発し124や131でそのパフォーマンスの高さが立証された水冷直列4気筒DOHCユニットで、1995ccの排気量から圧縮比を9.5:1に高める共にアバルト・マジックにより吸排気系をリファインし、125HP/5800rpmの最高出力をマークした。

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競技用のリトモ・アバルト125TCは1980年シーズンになると131アバルトと同様のブルー濃淡のフィアット・カラーに塗られた。写真は1980年のコスタ・スメラルダ・ラリー参戦時のショット。

アバルトの流儀はこのリトモ・アバルト 125TCでも健在で、キャブレターはツインチョークのウェーバー34DMTRの1基のみでこのパフォーマンスを実現していたのである。ただ単にパワーだけを追い求めるのではなく、公道での扱いやすさまでを考慮したチューニングはアバルトがこだわってきたところでもあった。また大きなエンジンを搭載したことから、ノーマルではエンジンルームにあったスペアタイヤは、リヤのトランクスペースに移されることになった。

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ランプレディが基本開発した直列4気筒DOHCエンジンは、1995ccの排気量から125HPを発揮。アバルトの流儀でキャブレターはツインチョーク・タイプが1基だけだった。

エクステリアもアバルトならではの愛好家の心をくすぐる仕立てとされていた。フロントスカートには補助灯が組み込まれると共にエアダムが付け加えられ、リヤゲートにはリヤウインドウを囲むようにダックスポイラーが取り付けられていた。ホイールは専用に作られたピレリ製のシンプルなディッシュタイプで、センターキャップにはもちろんサソリが配される。このほかエンジンフード前面とフロントフェンダーのサイド、そしてテールゲートにはアバルトのバッジが取付けられ、ボディサイド下には’80年代らしいグラフィックの「ABARTH 2000」のストライプが貼られた。

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ボディスタイル同様にリトモ・アバルト専用としてデザインされたホイールも愛らしいものだった(左)。ボディサイドに貼られた’80年代的グラフィックのストライプは、今日の目にも新鮮に映る(右)。

インテリアはノーマルのリトモに準じるが、ザックリと編まれたファブリックによるシート表皮は、イタリア車ならではといえるセンスを感じさせる。ステアリングホイールは、リトモ・アバルト用として新たにデザインされたスポーク部に角穴があけられた3スポークタイプを備える。走りにこだわるモデルでアバルトが関与しただけに、スロットル・ペダルはヒール&トゥが行いやすいようにペダルエクステンダーが付けられていることも見逃せない。またダッシュボードの中央にはスポーツモデルに欠かせない油圧計、油温計、そして電圧計が追加されていた。

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インテリアはノーマルのリトモを受け継ぐが、専用のステアリングホイールとダッシュボード中央に油圧計、油温計、電圧計、ペダルエクステンションが追加された。

こうして誕生したリトモ・アバルト 125TCは、アバルトの伝統である乗る者を鼓舞する走りから、世界中のエンスージアストから支持される人気者となった。日本にも当時のフィアット正規代理店だったジャックスにより輸入され、ボディカラーはレッド、ブラック、シルバーの3色が用意されていた。しかし、日本でリトモ・アバルト 125TCの販売が開始されるのと前後して、本国では130HPにパワーアップしたマイナーチェンジ版の130TCが発表されたことから、125TCはわずかな輸入量に留まった。なお後継モデルとなるリトモ・アバルト 130TCについては、機会を改めてご紹介しよう。

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サイドマーカーランプ部分にはアバルトのエンブレムと125TCの名が誇らしげに付く(左)。リヤウインドウ下には樹脂製のダックスポイラーが取付けられ、見た目のアクセントにもなっていた(右)。

このようにリトモ・アバルト125TCは、日本におけるアバルトの歴史を語る上で欠かせぬモデルといえる。’80年代の日本のエンスージアストに、アバルトスピリットと、走る楽しさを広めた功績は大きい。

▲スペック
1981 FIAT RITMO ABARTH 125TC

全長:3937mm
全幅:1690mm
全高:1370mm
ホイールベース:2432mm
車両重量:980kg
エンジン形式:水冷直列4気筒DOHC
総排気量:1995cc
最高出力:125hp/5800rpm
変速機:5段マニュアル
タイヤ:185/60HR14
最高速度:190km/h