1960 FIAT ABARTH 700/850 BIALBERO|アバルトの歴史を刻んだモデル No.018
1960 FIAT ABARTH 700/850 BIALBERO
フィアット・アバルト 700/850 ビアルベーロ
レコード・モンツァ最終進化型
アバルトが手がけたクラシックモデルには、量産車のほかにレーシングモデルも相当な数に上る。これはカルロ・アバルトが常にベストを追求し、レースの特性に合わせて専用モデルを製作していたためである。
1958年に登場したフィアット・アバルト 750 レコード・モンツァ・ザガートは、その後850cc版と1000ccモデルが派生し、モータースポーツで圧倒的な強さを発揮。アバルトに数多くの栄光をもたらした。
さらに1960年にFIAのモータースポーツ車両規定が改訂されると、アバルトは、すぐさま新規定に合わせて戦闘力を高めたマシンの製作に取り掛かった。今回紹介する「フィアット・アバルト 700/850 ビアルベーロ」もそうしたなかの1台で、従来モデルでは対応しきれなかった改善策を盛り込んだモデルだ。エンジンは、新開発の695cc直列4気筒DOHCビアルベーロユニットで、2基のツインチョーク・ウェーバー36DCL4キャブレターを装着し、最高出力は64HP/7900rpmを発生した。
700/850 ビアルベーロの基本ディメンションは750/850 レコード・モンツァ・ザガートに準じるが、ふたつの大きな違いがあった。そのひとつが冷却効率の高いフロントラジエターレイアウトが採用されたこと。後の1000ビアルベーロやアバルト・シムカ1300/2000では定番となるレイアウトの先駆けとなったのである。
もうひとつの違いは750GTやレコード・モンツァではカロッツェリア・ザガートにボディの製作を依頼していたのに対し、700/850 ビアルベーロは生産台数がわずか数台と少なかったため、アルミニウム製ボディをトリノのスペシャリストであるコルナに依頼し、組み立てはアバルト社内で行ったことだ。一見するとレコード・モンツァと変わらぬようなスタイリングに見えるが、よく見るとフロントのインテークのほか、ボディパネルがフロアまでスムーズなラインでカバーされているなどの違いがあった。そのためボディのどこにもザガートの”Z”エンブレムは付けられていなかった。
こうして完成した700ビアルベーロは、1960年3月5日にドイツのプフェルスフェルト・サーキットで行われたGTレースにウルフガング・シーデルのドライブで挑み、1000cc以下のクラスで見事デビューウィンを果たす。このあともナポリ・ヒルクライム、ラリー・ド・ジュネーブ、コッパ・マーレ・モンティ、モンツァ12時間、ホッケンハイム6時間等の様々なカテゴリーで勝利を積み上げていった。本命といえるル・マン24時間レースでは、700cc仕様を1台と、850cc仕様2台の計3台体制で挑んだものの、すべてクラッチのトラブルで戦列を離れるという残念な結果に終わってしまった。
1961年シーズンもサーキットからヒルクライムで大活躍した後に、ル・マン24時間レースには700cc仕様3台と850cc仕様1台の4台体制で挑んだ。このうちデニス・ハルムとアンガス・ヒュースロップのニュージーランダー・コンビがドライブした850ビアルベーロは、総合14位でフィニッシュすると共に、スポーツカー850ccカテゴリーのクラス優勝を成し遂げた。ちなみに850ビアルベーロは263ラップを走り切り、平均速度147.166km/hと素晴らしいパフォーマンスを見せた。
こうして大活躍を遂げた750/850ビアルベーロは、アバルトの’60年代に輝かしい栄光の記録を刻む序章となった。以後1000ビアルベーロ、アバルト・シムカ1300/2000、そしてOT1300/2000がモータースポーツで活躍。アバルトは、レーシングコンストラクターとしての座を確立していった。
なお700/850 ビアルベーロは、愛好家の間ではル・マン24時間レースで最高の記録を残したことから、同系のレコード・モンツァと区別するために750/850ビアルベーロLM(ル・マン)と呼ばれている。
スペック
1960 FIAT ABARTH 700 BIALBERO
全長:3470mm
全幅:1350mm
全高:1140mm
ホイールベース:2000mm
車両重量:570kg
エンジン形式:水冷直列4気筒DOHC
総排気量:695cc
最高出力:64hp/7900rpm
変速機:4段マニュアル
タイヤ:5.20-12
最高速度:180km/h