バイク乗りがアバルトに乗るとどう感じる!? 『バイク女子部 通信』の松崎さん「595」を試す

二輪レーサーだった創設者カルロ・アバルトに興味津々

「ギャップ萌え」という言葉があるそうだけど、人はギャップによって興味をそそられることがある。たとえば、まったく料理をしなさそうな男性がお料理上手だったり、アクティブな女性がじつは着物好きだったり。私も「大型バイクに乗ってます」と言うと「え〜、そんな風に見えない」と言われることがたまにある。そういう意味でアバルト595もまた「ギャップ萌え」なクルマだと思う。

見た目はころんと可愛らしい。でも走ると、その加速感や勇ましい排気音にテンションはアップ。外見からは想像がつかないほどのスポーティさで、走ることが楽しくなる…と聞いていた。


バイク女子に向け情報を発信されている『バイク女子部 通信』編集長の松崎祐子さん。愛車はイタリアのドゥカティ スクランブラー。「595」初試乗の感想はいかに!?

私自身はアバルトのオーナーでもないし、今現在はクルマを所有してない(以前は、アルファ ロメオ スパイダーヴェローチェを所有していた)。持っているのはドゥカティの「スランブラー」というイタリア生まれのオートバイだ。そんな私に今回、「595に乗って、“バイク乗りからみたアバルト”というテーマで記事を書いて欲しい」というオーダーをいただいた。

きっかけは今年4月初旬に開催された「アバルト スコーピオンナ オンライントークショー」。ご縁があって、アバルトのドライビングレッスンでお馴染みのりんごちゃんこと石川紗織さん、MCに四輪ジャーナリストの飯田裕子さんが登壇するトークショーに私も参加させていただいたのだけど、その時のテーマが「アバルトとバイク」。トーク中に私が言った「595に乗ってみたい」という一言をScorpion Magazineの編集長Sさんが聞いていてくれていたのだ。


松崎さんが試乗した「アバルト 595」。全長3660mm×全幅1625mm×全高1505mmのコンパクトな車体に1.4リッターターボエンジンを搭載し、最高出力145psを発生する。

クルマもバイクも大好きな私にとってはありがたいお話。アバルトを知るためにネット検索していたら、このScorpion Magazineの記事でアバルトの創設者であるカルロ・アバルトが元は二輪のレーサーだったことを知った。しかも幾度もの挫折を乗り越え、アバルトというチューニングメーカーを設立したのだそう。その不屈の精神と情熱に心打たれ、バイク乗りとしてもアバルトというブランドに大いに興味が湧いた。

飼い主を待つワンコのような愛らしさ…から一転!

試乗当日、595が置かれている駐車場に向かうと、真っ赤なりんごのような595がちょこんと待っていた。飼い主を待つワンコのような愛らしさで、つい「お待たせ、ちゃんと待ってたか?」と心の中で話しかけてみる。595にはそんな小動物的な愛らしさがある。デザインのなせる技なのか、それともイタリア生まれのバイクやクルマが持つ独特のオーラなのか、いずれにしてもイタリアの工業製品は他国の製品にはない魅力がある。

そんなことを思いながら、キーをイグニッションに差し込みスイッチをオンにすると、ウォンという咆哮とともにダッシュボードのモニターに映像が映し出された。シャッターを開け、今まさにガレージから出ようとする595のアニメーションが映し出されたのだ(オフにするとその逆で、595が格納されるガレージのシャッターが閉まる)。なんて洒落た演出! またまた心を撃ち抜かれてしまった。


エンジン始動時や停止時にモニターに映し出されるアニメーション。

ちょっと重めのクラッチペダルを踏み込みシフトノブを1速に入れる。以前所有していたスパイダーがマニュアル車だったので操作自体は慣れているけれど、クルマによってクラッチの繋がるタイミングは微妙に違う。様子をみながらゆっくりクラッチペダルを緩めた。


「595」は、5速マニュアル(5MT)の左ハンドル/右ハンドル、ATモード付き5速シーケンシャルの右ハンドルが選べる。今回は左ハンドル・5MT仕様に試乗。

この日は都心から箱根に向かうルート。首都高を赤羽橋口から乗ると、3号線の渋谷あたりまでは多少混んではいたものの、駒沢を過ぎるあたりからはクルマもスムーズに流れ出した。とはいえ、そこそこ交通量は多い。そんなときにありがたいのが、コンパクトな車体。まるでバイクのようにクイックに車線変更でき、スムーズな加速とも相まってストレスなく追い越しできる。ちなみに595の全長は3660mm。一般的なクルマの全長は4500mm前後だから、595はやはり格段に小さい。小さなボディは狭い路地や路上駐車の多い道路でもバイクのようなフットワークの良さを発揮する。大きなクルマではこうはいかない。

仲良くなって得られる“人馬一体”感

バイク乗り的に楽しいと思えるのはやはりマニュアル操作で、意のままにスピードを操れるのは気分がいい。シフトアップ、シフトダウン。乗り始めこそクラッチの繋がりを探りながらだったけど、思うようにできてくると「やっと仲良くなれた!」と思える。


ワインディングロードを走る「595」。自ら操る感覚が色濃く、しかも操作に対して俊敏に動くところが山道では楽しい。

最近では自動運転の機能を備えたクルマも登場しているけど、私は今のところまったく興味がない。自分で機械を操作し、クルマやバイクを走らせる。それがスムーズにできたときに大きな満足感を得られる。乗りこなすのが難しいバイクやクルマならなおさらだ。乗り手と馬が一体となり巧みに乗りこなせる感じを“人馬一体”と言ってバイクにはよく当てはめられるけど、まさに595もそんな感じ。595は操作が難しいクルマではないけど、それでもお互いのピッチが合ったときには人馬一体感を得られる。

そんな、クルマに関してはアンチ最新機能派の私でも「これはいい!」と思えたのが、ボタンひとつで出力を変えられる「SPORT」モード。箱根の峠道で登り坂に差し掛かったとき少しパワーが足りないと感じたので、メーターパネルの右側に付くSPORTモードのスイッチを入れてみると、グワンッとパワーがアップ。あっと言う間にメリハリのついた走りになった。私は峠道を走るのがそれほど得意ではないのだけど、これ、ワイディンディングを走るのが好きな人だったら相当楽しいはず。


SPORTモードに入れるとエンジン特性が変化し、俄然元気が増す。常にSPORTモードで走る人も多い。

試乗してみて、コンパクトで軽快かつパワフルに走れる595は、カルロ・アバルトがバイク好きだったからこそこういう味付けになったんじゃないかと思えた。以前、バイク女子のミーティングにアバルトの試乗車を出していただいたことがあったのだけど、乗った女性たちからは「楽しかった!」「気持ち良かった!」という声が多く聞こえた。アバルトとバイク、きっと共感できる部分は多いと思う。


「595」のインテリア。各パーツのデザインやレイアウトは走ることを第一に考えられた趣。クルマ好きやバイク好きの興味をそそるのではないだろうか。

街角で595に乗る女性を見かけると「おっ、カッコいい!」とつい目で追ってしまう。一見オシャレな雰囲気でアバルトを運転しているけど、もしかしたら彼女はサーキットなんかも走っているのかもしれない。意外性のある人生は楽しい! そんな私の次の愛車候補にはアバルトが入ってきている。カルロ・アバルトのパッションをもっと感じてみたくなったのもある。

文 松崎祐子

アバルト 595の詳細はコチラ