アバルト695リヴァーレの着想の源となった超高級ボートの世界観とは

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トップ・オブ・イタリア

独特のブルーとシルバーのビコローレ、その2色をつなぐ淡いブルーのストライプ。室内に目を転じれば、上品なブルーのレザーシートにマホガニーのダッシュボード。アバルト695リヴァーレは、これまでの695シリーズと同様に他のアバルトにはない特別な仕立てとされていますが、そのルックスが醸し出す存在感の強さには頭ひとつ飛び抜けているようなところがあります。11月9日のABARTH DAYS 2018オープニング・パーティで発表されてから数日の間に、クローズド版が85台、オープン版の“C”が65台という日本への導入台数が予約で埋まってしまったという話も耳にしましたが、それも納得です。

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アバルト695リヴァーレ(右)と、そのインスピレーションの源となったリーヴァ社の高級フライブリッジボート「56’リヴァーレ」(左)。

695リヴァーレがイタリアの高級ボートメーカーである伊リーヴァ社とのコラボレーションによって生まれたモデルであることは皆さんもご存じのとおり。今回はその美しいエクステリアやインテリアの由来となった高級ボートのリヴァーレについて、リーヴァ社の日本総代理店である株式会社リュウカンパニーの代表取締役、神影隆一さんにお話をうかがいました。

──リーヴァは、マリンの世界ではプレミアムボートのトップブランドだといわれていますね。

「そうですね。こうしたプレジャーボート作りでは、国でいうならイタリアが世界一といわれているのですが、そのイタリアで最高峰と評されているのがリーヴァです。私達は他のブランドのボートも取り扱っているのですが、スタイリングやディテールの美しさ、素材の良さ、仕上がりの繊細さ、クオリティの高さ、それにもちろんパフォーマンスや安全性、それに歴史と実績の面も含めて、どこをとっても群を抜いています」

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株式会社リュウカンパニーの代表取締役、神影隆一さん。

──歴史のあるメーカーなんですか?

「創業は1842年です。ミラノからクルマで1時間ぐらいのところにイゼーオ湖というのがあって、そこには湖の中に小さな別荘島があるんです。創業者のピエトロ・リーヴァが、その島の人達が所有している木造船や地元の漁師達の船の修理を請け負うところから、リーヴァの歴史はスタートしました。リーヴァは当初から技術力があったようで、たちまちその付近一帯の信頼を得るようになったのですが、ある頃を境に自分達のオリジナルの船を作るようになったんです。それがとても美しかった。そして1920年代になるとレーシングボートも作るようになって、国内外のレースで数多くの勝利を獲得しています。

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──どういったあたりが強みとなっているのでしょうか?

リーヴァは元々ファミリービジネスで始まり、かなり高い名声を得ていたのですが、1950年代に入ってカルロ・リーヴァの時代になると、その名声は飛躍的に高まりました。1962年にリーヴァの代表作、それこそ象徴的なモデルといえる“アクアラマ”を発表して、それは国王や貴族、成功したビジネスマン、映画スター達が手に入れたいと願う、憧れの対象になりました。マホガニーの船体が美しいとかゴージャスだとか、そういうのももちろんなんですけど、42ノット(77.8km/h)のトップスピードまで10秒と、パフォーマンスもものすごく優れていたんです。今の同じクラスのリーヴァでは20秒かかります。カルロ・リーヴァは、そのためにエンジンのチューンナップだとか、船形を1cm単位で変えてみたりとか、ずっと研究し続けていたんです。クルマでいうところのハンドリングも、ものすごくよかった。1970年代の半ばには、そうした技術を駆使して作った木製の船で英国からモナコまでの、クルマの世界でいうならミッレミリアみたいな競技に参戦して、FRPや鉄船などの新しいモデルが並ぶなか、小型船の部門で優勝を収めています。そうしたお話をし始めたらキリがないほどなのでこの辺にしておきますけど、そうした歴史の積み重ねの中で比較的早い段階で不動の地位まで登り詰め、そのまま誰にも頂点を明け渡すことなく今に至る、という感じですね。現在ではフェレッティ・グループの中の一員として、軽快な27フィート(8.24m)から110フィート(33.53m)の大きなものまでをラインナップして、最新鋭の技術と昔ながらの職人気質といえるクラフツマンシップで作り続けています」

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リーヴァ社のプレジャーボート。小型ながらもデザインやマテリアル、フィニッシュにこだわっていることがうかがえる。

量より質、一切妥協しないこだわり

──造船メーカーの規模としてはどれくらいのものなんですか?

「リーヴァはふたつ工場を持っていまして、ひとつは元々の本拠地であるイゼーオ湖のサルニコ、もうひとつはリグリア海に面したラ・スペツィアなんですが、サルニコの工場では年間25隻から30隻。それ以上は何があっても作らないんです。クオリティを落とさないために。ラ・スペツィアの方は大型艇を作る工場なのでまた少し事情は違うのですが、サルニコの方では熟練した信頼のおける職人だけで作るので、増産するために人を増やすようなこともしません。“倍の金額を払うから早く作ってくれ”という人が現れても“申し訳ないけど”ってお断りしちゃうぐらい。とにかく、こだわりが強いんです。話が少し横道に逸れますけど、例えば1960年代の船のレストアを依頼されたら、その補修用に1960年代のチークとかマホガニーとか、昔からストックしてあった木材を使って修繕するとか、とにかく妥協をしない。一切しないんです。ものすごく頑固。今でもレストアする部門には、もうだいぶ少なくなりましたけど、まだ昔の木が残されています。だからクラシックモデルにも大きな価値がある。価値が目減りしないんです。そんなところにもリーヴァが憧れの対象になったり、世界中のビリオネアが敬意を払う理由があるんだと思います」

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リーヴァボートの船室は、まるで高級ホテルのような雰囲気。世界中のセレブリティの羨望の的となるのもうなずける。(写真提供=リュウカンパニー)

──そうした船造りに対するこだわりの強さっていうのは、リーヴァ ブランドにとっては伝統的なものなんでしょうか?

「おそらくそうなんでしょうけど、特にカルロ・リーヴァの時代以降、そうしたところを強く感じますね。カルロ・リーヴァの船に対する情熱と、絶対に妥協しない精神。様々な方が“カルロ・リーヴァは海の神様だ”と評してきましたが、まさにそのとおりだと思います。今年でリーヴァの日本総代理店になって11年目なんですが、私はカルロ・リーヴァの感性だとか精神性のようなものに惹かれて、それまで何年もかけてようやく販売をさせていただけるようになった経緯があったりします。アバルトの創設者であったカルロ・アバルトもクルマを速くすることに対しては一切の妥協をしなかったそうですが、そういう美意識の高さのようなところはかなり似ているかもしれません」

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リーヴァ社のラインアップのなかでも上級モデルに位置付けられる「56’リヴァーレ」。2019年の日本導入が予定される。(写真提供=リュウカンパニー)

──そうしたリーヴァの歴史の上で、あるいはラインナップの中で、今回のアバルト695に冠された“リヴァーレ”の名前を持ったボートは、どういう位置づけとなるモデルなんでしょうか?

「現在のリヴァーレは第2世代にあたるのですが、それこそパフォーマンスに関するところも含めてあらゆる部分に最新のテクノロジーが盛り込まれているモデルで、現行の中型から小型ボートの主力です。デビューして1年も経ってないのに40隻もの受注が入ってるということですから、大ヒット作ですね。船の方のリヴァーレはモノカラーで、リーヴァ・ブルーは使われないんですけど、リーヴァの特徴であるストライプやエンジンの排気口である金属のプレートがモチーフになったディテールがあったり、マホガニーのダッシュボードが採用されていたりと、リーヴァの世界観が上手に再現されていますね。僕はあんまりクルマのことをよく知らないんですけど、とても魅力的だと思います。心がくすぐられますよね。実は……私も1台、オープン版の方のオーダーを入れさせていただいて、手に入ることになりました(笑)」

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2019年3月7日から10日まで、パシフィコ横浜で“ジャパンインターナショナルボートショー”が開催されます。神影さんによるとボートショーでは本国にオーダーを入れてあるリヴァーレは間に合わないながらも、ご自身の695リヴァーレを、リーヴァのボートと並べて展示する計画をお持ちなのだとか。アバルトファンとして、滅多に出逢えることのないその光景、ぜひ見てみたいものですね。

1月14日(月)までABARTHニューイヤークルーズキャンペーン開催中

文 嶋田智之
写真 小林俊樹