“芸術”と“本物”にかける思い。静岡県・誠恵高校の595 Competizione“黒板カー”とは!?
「子ども騙しは通用しない」
静岡県の沼津市の私立誠恵高等学校に、「ABARTH 595 Competizione(アバルト 595 コンペティツィオーネ)」のボディ全体に特殊な「黒板」の塗装を施したユニークなクルマがあるという情報を入手し、取材に向かった。同校に着くと、エントランス前には緑色の595 Competizioneの姿が。近くで見ると、ボンネットからドア、ルーフに至るまで、車体全体がまさに“黒板”だった。
誠恵高校理事長の小野貴弘さんによると、同校には油彩、デザイン、陶芸の3つの専攻からなる芸術コースがあり、「二科展」での入選や「全陶展」での受賞など、数々の実績をあげているとのこと。そうした「アートに強い学校」という個性を発揮する活動の一環として、黒板カーの導入に至ったのだという。
実は小野理事長は教育者・医学博士であると同時に、アバルトエンスージアストという一面も持つ。以前に「124 spider」のオーナーインタビューにもご登場いただいており、その後も、124 spiderの生産終了が決まった段階で、赤い124 spiderをスポーツ走行予備車としてもう1台購入されるなど、アバルトにかける情熱は誰よりも深い。そんな真摯なクルマ好きとして、自身が惚れ込んだデザインの優れたクルマを、未来ある子どもたちの作品づくりに役立てたいという想いが結実したのが、595 Competizione黒板カーなのだ。特殊な黒板塗装は、そんな理事長のカスタマイズのブレーンをフル活用して実現したもの。「施工業者の方が“もう2度とやりたくありません”と言うほど施工は大変だったようです(笑)」というエピソードも。
「一昨年前に先代から理事長を引き継いだのですが、その際に僕のできることから始めようという思いから最初にやったのは、校内にコーヒーの焙煎機を導入したことでした。私自身、高校生時代からコーヒーの研究を怠らずに続けてきて、インドネシアまでコーヒーの豆を入手しに行ったこともあるほどなので、コーヒーにかけてはそれなりに知識を身につけているつもりです。市井の製品と本物の違いを知っているからこそ、生徒たちにも本当のコーヒーを教え、自分たちで美味しいコーヒーを淹れられるようになってもらいたいのです。生の豆を仕入れてきて焙煎してハンドドリップで淹れるコーヒーは格別ですし、コーヒーを淹れ、嗜むという活動を通じてコミュニケーション力を養ってもらいと思っているのです」と小野さん。
「初めの頃は“新しい理事長は何言っているんだろう”という目で見られていましたが、コーヒーづくりが徐々に浸透していき、今では生徒たちが昼休みに図書館に集まって自分たちでコーヒーを淹れて飲んでいます。高校生にもなると、これぐらいでいいだろう、というような子ども騙しは通用しません。本物でないと興味はすぐに薄れてしまいます。コーヒーにしてもクルマにしても、本物にできるだけ早く触れておくと、その後の人生が変わってくる。そう信じてやっています」と小野さん。“本物を伝えたい”という理事長の想いが詰まったエピソードだ。