プロに教わるドライブルートの走り方②【コーナーのライン取り&ステアリング操作】

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ムゼオ・チンクエチェント・レーシング・チーム(mCrt)の『ABARTH 695 ASSETTO CORSE(アバルト 695 アセットコルセ)』でスーパー耐久レースを戦う、井尻薫選手のレクチャーによる“公道をより楽しく、よりスポーティに、何より安全に走るための基礎講座”、第2回です。

前回は、正しいドライビングポジションでドライブすること、そして走行中の視線と意識の置き方、という2点について学びました。どちらも、とりたててスピードを上げて走らなくても実践できる内容です。特に視線と意識の置き方については、日頃のドライブのときから心掛けて走るようにすると、自然に身につくようになっていく類のものです。

そして今回のひとつめの内容も、日頃から心掛けて走っていただきたいもの。それはコーナーを曲がるときのラインの取り方です。

アウト・イン・アウトはサーキット用のテクニック?

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「よく、コーナーを走るときにはアウト・イン・アウト、つまりコーナーの入り口では外側からアプローチをして、コーナーの頂点では内側をかすめて、再び外側に向かって脱出していくラインを選ぶのが正しいというようなことが言われていますよね。それはある意味では本当に正しい、基礎的なことではあるんです。コーナーを単体で考えた場合、そのコーナーを抜けていくときに最も直線に近いわけだから減速する量が少なくてすむし、最もステアリングを切る量が少なくてすむからクルマの姿勢変化も小さくできて安定させやすい。色々なメリットがあるのは確かです。

でも、それはどちらかといえばサーキットを走るときに、よりコーナーを速く曲がってラップタイムを削るようなときのための方法。それをそのまま公道で、ワインディングロードなどで実践してしまうことは、あんまりオススメできません。サーキットはコーナーの先が見渡せるけど、ワインディングロードではブラインドコーナーであることが圧倒的に多いし、対向車が来ることもあるわけで、危険に結びつくことがあるからです。ちゃんと安全マージンを持ったライン取りを考えて走らないと・・・。」

マージンを持った走行ライン──。もちろんセンターラインを割るなんていうのは論外で、対向車のことを考えるとセンターラインのギリギリを舐めるようにして走るのも避けるべきでしょう。そして道の端の方には砂利や季節によっては落ち葉などが溜まっていることも少なくないので、左側ギリギリを走るのも避けた方がよさそうです。そうした諸々があることは大前提として、それでもあえて目安のようなモノをお伝えするなら、以下のようになるでしょう。

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まず右コーナーの場合に最も注意しなければならないのは、絶対にセンターラインを割らないで走り抜けることと、対向車を驚かせないこと、そしてコーナー出口で加速体勢に入っているときに姿勢を乱さないでいること。そのためにはコーナーの入り口ではアウト側からアプローチをして、コーナーの頂点を超える辺りまではアウト気味をキープ、そして脱出する手前辺りからイン側もしくはセンターを走る、アウト・アウト・イン、またはアウト・アウト・センターのようなラインを心掛けるといいでしょう。前回でお伝えした“コーナーの出口に視点を置く”を実践すると、右コーナーの場合には自然に右より、つまりはイン側に寄っていきがち。そしてコーナーの脱出時にアウト側を目指さないのは、とりわけFF車の場合はパワーが高くなれば高くなるほど加速体勢に入ると自然とアウト側に膨らもうとする動きを見せがちなため、イン側またはセンターを目指そうとするくらいでちょうどいい、という考え方です。

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左コーナーの場合には、最も注意すべきは対向車がこちら側の車線に入ってくる可能性がある、ということ。とりわけ対向車がオートバイである場合、オートバイは車体を傾けることでコーナーを曲がるわけですから、オートバイのタイヤはセンターラインの向こう側にあるけれど、それを操っているライダーの頭部や右肩はセンターラインを割ってこちら側に入っている、というのも珍しいことではありません。なので、最初からそうした場合の接触の可能性を考えて、コーナーの侵入手前ではアウト寄りにいたとしても、なるべく早め、侵入する頃合いにはイン側に寄って、そのまま脱出に向けてイン側をキープ、あるいはゆるやかにセンターを目指すくらいのイメージで走るのがいいでしょう。つまりアウト・イン・イン、もしくはアウト・イン・センター、です。ここでも脱出の加速時にクルマがアウト側に膨らむことを想定して、コーナー出口でアウト側を目指すことはしません。

「もちろんこれらはほんの一例です。全てのコーナーにあてはまるわけではないでしょうし、速く走るのに必ずしも向いているわけでもありません。ただ、ある程度以上の安全マージンは確保できるラインですし、こうしたラインなりに適正な減速と適正なタイヤの切れ角、適正な加速ができれば、クルマの美味しいところはちゃんと使えますし、スムーズにコーナリングをしていくためのトレーニングにはなると思います。いずれにしても、どういうラインで走るにしても、コーナーの侵入の段階からギリギリの状態で走るようなやり方は絶対にダメ。何かあったときに対処できないような走り方は絶対にヤメてください。どんな場合でも無理は禁物です。クルマの限界よりも、自分の気持ちの限界、自分のできることの限界を見極めることが大切です。アクシデントに遭ってしまったら、そもそも“楽しく”という目的から大きく掛け離れてしまいますしね。あくまでも楽しく走るということ、そして上達するためのトレーニングであってタイムを削る競技とは違うんだということを念頭において、走っていただきたいなと思います」

ヒール&トゥ、してますか?

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ABARTHには2ペダルのATモード付きシーケンシャル・トランスミッション“アバルト・コンペティツィオーネ”を備えたモデルもありますが、トラディショナルな5速マニュアル・トランスミッションのモデルも存在します。

ここでひとつ質問です。マニュアル・トランスミッションのクルマでスポーティな走りを楽しんでいるとき、あなたはヒール&トゥをちゃんと使えていますか?

ヒール&トゥは、コーナーの侵入時に減速をし、曲がり、脱出時に加速していくという流れの中で、加速しはじめるタイミングに適切なギアで適切なトラクションを得られるようにしておくため、減速時のブレーキングと並行してシフトダウンをしていく、というマニュアル車を走らせるときの基礎的なテクニックです。

具体的には、右足の先端の方(トゥ)でブレーキ・ペダルを踏んで減速をする→右足はブレーキ・ペダルを踏んで減速を続けながら、左でクラッチ・ペダルを踏み込み、腕でシフト・レバーを操作して一段低いギアへとシフト・ダウンをする→右足の側面から後端(ヒール)でアクセル・ペダルを煽ってエンジンの回転とトランスミッションのギアの回転を合わせる→左足でクラッチをリリースしてギアを繋ぐ、といったカタチです。コーナーがタイトな場合には、ブレーキを踏んで減速しながら同じ作業をもう一度繰り返す、という作業が必要となることもあります。

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「マニュアル車の場合、これが全くできないと、コーナーを曲がってからギアをシフト・ダウンすることになって加速がもたついたり、ちゃんとできてないと減速時にクルマの動きがギクシャクしたり、エンジンの回転とギアの歯車の回転が全く合ってない状態でクラッチをリリースしてギアを傷めてしまったり、あるいは最悪、タイヤをロックさせてクルマの挙動を大きく乱してしまったりすることも、ないとはいえません。ブレーキ・ペダルを踏みながら同じ足でアクセル・ペダルを煽るのは、そしてそれに合わせてシフト・ダウンしていくのは、慣れてしまえば無意識に当たり前のようにできるようになりますけど、慣れるまではなかなか難しいことでもあるんです。なので、ヒール&トゥが全くできないという人は、クルマを停車させた状態で、エンジンもかけない状態で、ペダル・ワークとシフト・ワークの練習をするといいと思います。」

要はイメージ・トレーニングからスタートするべき、ということですね。考えてみれば、至極当然。停まった状態でできないものが、走りながらできるはずはないのですから。

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順番としては、まずはエンジンをかけない状態でドライバーズ・シートに座り、適切なドライビングポジションをとります。次に右足の先の方でブレーキ・ペダルを踏んだまま、右足側面かかかとに近い部分でアクセル・ペダルをあおる練習をします。順番としては、以下のようなカタチです。

ブレーキ・ペダルを踏み込む→クラッチ・ペダルを踏み込んでシフト・ダウンする→ほぼ同時にアクセル・ペダルを煽る→クラッチ・ペダルをリリースする→ブレーキ・ペダルをジワッとリリースする。

それを、実際にワインディングロードを走っているつもりになって、トレーニングしてみてください。そしてそれがスムーズにできるようになったら、次はエンジンをかけて、ギアは入れない状態で、右足の動きだけを試してみてください。足先でブレーキを踏みながらかかとの方でアクセル・ペダルを煽るとき、どれくらい踏み込めばどれくらいエンジンの回転が跳ね上がるのか、その感覚を覚えてください。

そして、それがある程度以上把握できるようになったら、次は実際に走りながらクラッチ・ペダルとシフトの操作を加えてみましょう。ミスする可能性もあるので、最初は広場やクルマの通りの少ない道で、ゆっくりとした速度で走りながら、確実に操作ができるように練習してください。

「自分ではできていると思っていても、実は厳密にいえばエンジンの回転とギアの回転がちゃんと合わせられていなかったりするケースも、意外と少なくなかったりします。停車したままでも、あるいはゆっくり走った状態でもトレーニングできるので、ベテランの人にも試してみていただいて、自分のドライビングを見つめなおしていただくといいんじゃないかと思います。こんなふうに飛ばさなくてもできる、ドライビングの重要な基礎の部分を磨いていくトレーニング方法、実は結構あるんですよ」

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次回はブレーキングに関するお話と、上りと下りの走らせ方の違いについて、お話しをしたいと思います。

ドラテク①【ドライビングポジション&視線の置き方】
>>https://www.abarth.jp/scorpion/for-biginners/5168
 

INFORMATION
★『ABARTH 695 biposto 』がお目見え
>> https://www.abarth.jp/695biposto/

嶋田智之さんによる『ABARTH 695 biposto』レポートはこちらから
>> https://www.abarth.jp/scorpion/driving_fun_school/4862

★<695 BIPOSTO CARAVAN>が開催中!
『ABARTH 695 BIPOSTO 』が、8月以降も順次、全国のショールームに登場。
>> https://www.abarth.jp/bipostocaravan/

★安心と刺激に満ちたカーライフを。
2015年7月1日以降にABARTH各車を成約かつ登録した場合、メンテナンスプログラム『Easy CARE』を0円でご提供!
>> https://www.abarth.jp/offer/

Text:嶋田智之
Photos:神村聖
イラスト:遠藤イヅル