プロに教わるドライブルートの走り方①【ドライビングポジション&視線の置き方】

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ABARTHが走らせて楽しい痛快なクルマであることなんて、今さらクドクドと説明する必要はないでしょう。そしてそれなりのドライビングをすれば、それなりどころじゃない速さを味わわせてくれるクルマであることも。

メーカーとしてもそうしたクルマを望む人達のためのクルマ作りをしているわけで、ABARTHの持ち味をユーザーにしっかり堪能してもらうべく、FCAジャパンは<ABARTH DRIVING ACADEMY>というカリキュラムを展開しているわけです。以前、このSCORPION MAGAZINEのレポートのために取材にお邪魔しましたが、ビギナーからベテランまでをフルカバーできるクラス分けがなされていて、ABARTHに特化した部分まで学ぶことのできる、あまり例を見ない素晴らしいスポーツドライビングスクールです。

けれど、忙しくてタイミングが合わなかったり開催サーキットまでが遠かったりなどで参加できない方が少なからずいらっしゃることは、SCORPION MAGAZINE編集部も先刻承知。実際のスクールには及ばないかも知れないけれど、こちらでもプロのドライバーにレクチャーをしていただこうと考えました。

ただし<ABARTH DRIVING ACADEMY>がサーキットを舞台にしたスポーツドライビングが中心であるのに対し、こちらのステージは一般公道です。ワインディングロードを含めた公道を、より楽しくよりスポーティに、何より安全に走るための基本といえる部分を学ぶのがメインテーマです。ベテランの方も、自分のドライビングが正しいかどうかを確認する意味で御覧いただくと、何か発見があるかも知れません。

井尻薫選手がドライビングスキルをレクチャー!

今回のインストラクターは、ムゼオ・チンクエチェント・レーシング・チーム(mCrt)の『ABARTH 695 ASSETTO CORSE(アバルト 695 アセットコルセ)』でスーパー耐久レースを戦う、井尻薫選手です。フォーミュラとツーリングカーで合わせて8回のシリーズチャンピオンを獲得した経歴を持つ井尻選手ですが、レースに本格的に参戦するようになる以前はワインディングロードで腕を磨いていたのだとか。

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「育ったところの近くには山道なんてたくさんあったので、10代の頃はレースに出るためのお金を貯めながら、夜になると走りに行くっていう毎日を過ごしていました。レーサーになるっていう明確な目標があったから本当に一生懸命走ってました(笑)。一般公道でできることには限界がありますし、それ以前に危険がたくさん潜んでいるので、スピードを追求するようなことはオススメできないですけど、それでもスピードの高い低いに関わらずドライビングを上達させるための練習というのはたくさんあります。そういうものが僕の中では今も生きています。

そもそも気合いと根性だけで命を削るようなことをしても、それだけではクルマのドライビングは上手くなりませんからね。クルマの動きというのは物理の法則のかたまりのようなものですから、そういうことを理解しながら走らせることが大切なんです。僕は今も、移動のために普通に走っているとき、荷重が今どのタイヤにどれくらい掛かっているかっていうことを意識しながらドライブしてたりしますよ。法定速度内であっても、交差点を曲がるときに荷重を意識するようなドライビングを普段からするようになると、その後の走りが変わっていくと思います。」

そんなふうに解りやすく語ってくれる井尻選手のレクチャーで、一般公道でもドライビングのスキルを向上させていくためのコツを、3回にわたってお伝えしていきたいと思います。

すべての要、ドライビングポジション

「クルマを正確に滑らかに走らせるためには、まず重要なのがドライビングポジションです。何気なく走らせるだけならちょっとぐらい変な姿勢であっても問題はないので、そんなに重要だと思っていない人もいるみたいなんですけど、例えばゆったりと構えすぎてペダルを操作する足がダラッと伸びちゃってたりすると、急に子供が飛び出してきてフルブレーキングするようなときにペダルをしっかり奥まで踏み切れなかったりするわけです。

逆に近すぎると、ステアリングを操作する腕がドアの内側に干渉して、ちゃんと操作しきれなかったり。スポーツドライビングは、ある意味ではそういう突発的な極限状態に対処するときにも似た操作が強く求められるものですから、一般公道とサーキットは違うとはいえ、常に正確な操作が無理なく行える範囲内のドライビングポジションをキープしておくべきです。」

○正しいポジション
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井尻選手が“範囲内”という言葉を使っているのは、正確な操作が無理なく行える姿勢というのは人それぞれ、体型などによって異なるから。ただし大原則といえるものはちゃんとあって、まずアクセル、ブレーキ、クラッチのそれぞれのペダルがちゃんと奥まで踏み切れること。ステアリングを回したときに腕が伸びきってしまうことがなく、肘に少しの余裕を持たせること。そして、そのときに腰と背中はシートにしっかりと密着して、ちゃんと支えになっていることも重要です。コーナーを曲がるときには横G(=遠心力)が発生して身体がそれに持っていかれそうになることもあるため、そうなったときにも変わらぬ操作ができる必要があるからです。

上の写真は、井尻選手のドライビングポジション。ペダルがしっかり奥まで踏み込めそうな、またステアリングをごく自然に操作できそうな、適切な“ゆとり”が膝と肘にあること、それに腰と背中がシートにしっかり密着して揺るぎなさそうなことが見て取れますよね。

△NG 例
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上の向かって左側の列は、いわゆる“近すぎる”ドライビングポジションです。比較的背の低い人が視界を確保しにくい不安から、こういうポジションになっているのをときどき見掛けますよね。これだとペダルを急いで踏み換えようとするときにダッシュボードの下側やステアリングコラムに膝が干渉してしまいますし、ステアリングを右に切っていったときに左腕の肘がドアの内張に干渉してしまいます。シートバックが立っているので猫背気味になりがちで、長時間のドライブでは背中や腰にも負担が掛かり、疲れやすい姿勢でもあります。

逆に向かって右側の列は“遠すぎる”ポジション。自分を尊大に見せたい一部の若い人や、ゆったり構えたい年配の方にときどき見られますね。これだとペダルを奥まで踏み切ることができませんし、ステアリング操作をしたときには腕が伸びきってしまい、操作そのものに制限が生まれてしまいます。それでも操作を試みると、シートから背中や肩が浮くことになって支えが効かなくなり、余計に正確な操作ができなくなりがちです。

どちらもスポーツドライビングには全く向かないどころか、咄嗟のときに的確な動きをクルマに与えることができず、とても危険でもあります。

△NG 例               ○正しいポジション
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上の左側は、“遠すぎる”ポジションをクローズアップしたもの。膝の裏側がシートの先端にあたってし まい、これ以上はペダルを深く踏み込みにくい状態です。右側は適切なポジションで、膝がダッシュボ ード下側にもステアリングコラムにも当たっていなければ膝の裏側がシートに邪魔されてもいないため、 ペダルの操作に自由度が生まれています。

○正しいポジション
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適切なドライビングポジションを得られると、ステアリングの操作にひとつも無理がなく、とてもスムーズに適切に行えます。クルマの操作はスピードの高い低いに関わらず、すべてにわたってとにかくスムースで正確に行えることが重要なのです。

「ドラテク本などを見ると“こうじゃなきゃいけない”と書かれていることもありますけど、人は千差万別ですから、それが絶対だとはいえないこともあると思います。ステアリングやペダルを正確に滑らかに操作ができる範囲の中で色々と試してみて、自分が最もドライブしやすいところを探ってみてください。ちょっと神経質に思われるかも知れませんが、僕は耐久レースのときには背中を少しだけ寝かし気味にしたポジションをとります。その方が疲れが少ないですから。もう自分のドライビングポジションは出来上がっていると思ってる人も、あらためて試してみると新しい発見があるかも知れませんよ」。

あなたは走っているときに、どこを見ていますか?

自分のドライビングポジションがしっかり作れたら、ゆっくり走りだしてみることにしましょう。道はまっすぐなところばかりではありません。むしろほとんどのところが、緩やかだったり急だったりと違いはあるけど、曲がっている──つまりコーナーである──はずです。

さて、そんなときにあなたは、どこに視線を置いて曲がっていきますか?

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「一般道ですから、もちろんバックミラーも含めて四方八方あらゆるところに視線を動かしていろんなものを認識しながら走るのが当然だし、安全に走るにはもちろんそれが正しいです。が、ここで言いたいのはそういうことじゃなくて、コーナーを走り抜けていくときにどこに意識を置きますか?っていうことなんです。

基本的にはコーナーの出口、なるべく先を、先を・・・と意識しながら視線を向けて走るのがいいと思います。普通に街中を走るときも“何台か前のクルマを見るつもりで走れ”っていわれることがありますよね?それも理屈としては同じこと。視線を遠くに置けば、その間にあるものやその間に起きている出来事は、無意識に認識できるものですからね。ところが自分が走っているすぐ目の前の道を見ていたりすると、その先にあるものやそこで起こっていることは認識できません。そういうものなんですよ」

○:正しい視線の位置/△:見てしまいがちなNGな視線の位置
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「それに人間の身体ってよくできていて、進んでいるときには必ず視線の向いている方向を目指そうとするものなんです。クルマで走っているときも、コーナーの出口を見ながら走っていくと、自然とステアリングをその方向に行くように操作する。しかもコーナーの出口は視界の最も先にある場所だから、例えば右側のセンターラインや左側の路側帯とかガードレールも、無意識のうちに認識できている。おかげでとてもスムーズなラインを描いて綺麗に曲がっていくことができるんですよ。

もっと手前のクルマのちょっと先ばかりを見て走っていくと、そこを通り過ぎようとするたびに細かくステアリングを操作して軌道修正しながら走るような感じになって、スムーズさに欠ける落ち着きのない感じになっちゃいます。ちょっと危険でもありますね。常に先の方にある出口を見ながら走るのが、スムーズに安全にコーナーを抜けていくためのひとつのコツ、というお話です。

それも目だけを動かして見るよりも、顔を動かして見たいところをまっすぐ見つめるように心掛けるのがいいでしょうね。F1ドライバーがコーナーを抜けるときのヘルメットの動きを見ると、彼らもそうしてるのが判りますよ。いや、もちろん公道ではあらゆる方向に注意をはらうっていうのは大前提なんですけどね」

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そういえば確かに、歩いているときに何かに注意を惹かれて振り返ると、進路は微妙に振り返った方向にズレるもの。振り返りながらまっすぐ進もうと思うと、かなり意識しないと難しいですよね?サーキットのようなクローズドコースでは周囲にクルマがいない限りは自ずとコーナーの出口しか見ないものだから、サーキットでのドライビングスクールなどでは見過ごされがちで教えていただけないケースが多そうだけど、これは重要なポイントかも知れない。

さて、この視線の置き方、意識の置き方と並行して、コーナーをどういうラインで走るのかということも大切なのですが、それはまた次回。

INFORMATION

★『ABARTH 695 biposto 』がお目見え
>> https://www.abarth.jp/695biposto/

嶋田智之さんによる『ABARTH 695 biposto』レポートはこちら
>> https://www.abarth.jp/scorpion/driving_fun_school/4862

★安心と刺激に満ちたカーライフを。
2015 年7 月1 日以降にABARTH各車を成約かつ登録した場合、メンテナンスプログラム『Easy CARE』
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Text:嶋田智之
Photos:神村聖
イラスト:遠藤イヅル