プロに学ぶ アバルトの魅せ方 <その壱 置き撮影編>

 実際のところ、プロカメラマンの撮影方法は、アマチュアの我々と比較すると、何から何まで異なる。
 まず第一に、当たり前ながら機材が違う。ハイエンドのデジタル一眼レフカメラだけでなく、レンズやストロボ、様々な周辺機器など、すべてがプロスペックであり、状況に応じて最適な機材を使い分ける。それだけでも、仕上がりに差が出るのは当然だろう。
 それに加え、豊富な経験値がある。光をどう活かすか、クルマのどの部分にフォーカスすればもっとも躍動感がだせるか、どの機材を組み合わせるか、そういった理論と経験に基づいた判断力と、状況に応じて撮影方法を柔軟に切り替える事が出来るだけのスキルを持っている。そして、すでに頭の中にイメージとして出来上がっている絵を、カメラという道具を用いて実際に表現するのだ。
 一方で、多くのアマチュアカメラマンは、シャッターボタンを押してみるまでは、どんな画像が撮れるのか分からないというのが本音だろう。では、機材でも自身の技術でも劣るアマチュアカメラマンには、プロカメラマンの様な優れた作品は撮る事が出来ないのだろうか?
 結論から言えば、カメラの力を借りれば誰にでもプロ並みの画像が撮れる、そう断言出来よう。この、カメラの力を借りればというのが肝要で、それは何もハイエンドの一眼レフカメラを買わなければならないというものではなく、最近になって特に市場拡大の著しいミラーレス一眼がお勧めなのである。
 その理由は、プロスペックのデジタル一眼は、確かに高機能かつ高性能で、組み合わせるレンズのクオリティも同様に高いモノであれば、それなりに美しい画像を撮る事が可能であろう。だがしかし、プロのカメラマンは、撮影現場で撮影をして、そのデータを持ち帰り、PCを使用して画像処理を行っているのが一般的だ。ホワイトバランスやカラーバランス、画像を切り抜き合成するなどの手間ヒマと時間をかけて作品を最終的に完成させている。だが、最新のミラーレス一眼では、撮影する場合にも、また画像の処理においても撮影するその場ですべてを完結できるように工夫されている。ゆえに、撮影現場でしっかりと仕上がりを確認しつつ、満足のいく画像が撮れるという訳だ。
 そこで、今回は実際に長い歴史を持ち、品質、性能共に文句の付けようが無い最新のミラーレス一眼である「オリンパスPEN E-P3」を使って、本連載の撮影を担当しているプロカメラマンの神村 聖氏にアバルトを撮ってもらった。それぞれの作品を比較しながら、上手にアバルトを見せるコツを会得して頂きたい。

全く同じ場所で撮影した2つのカット。左は、広角ズームを用い、右の画像では望遠レンズを使用。それぞれのレンズで、背景が広く写るか狭くなるかがよく分かる。背景を活かしたい場合と、そうでない場合の参考にもなる。画角によるクルマの見え方の差にも要注目。(左/露出プログラム:絞り優先、Fナンバー:8、露出時間:334/1003、露出補正値:0.3、レンズ焦点距離:20、レンズモデル:14.0-42.0mm f/3.5-5.6、右/露出プログラム:絞り優先、Fナンバー:8、露出時間:1/5、露出補正値:0.3、レンズ焦点距離:85、レンズモデル:40.0-150.0mm f/4.0-5.6)

 PEN E-P3の美点は、実際に液晶モニターを見ながらシャッタースピードや絞りなどを変化させると、すぐさまその結果がモニターに反映されるところにある。つまり、シャッターを切らずとも様々な調整をモニターしながらに行えるのだ。また、アートフィルターと呼ばれる画像処理機能を搭載しており、撮った画像をその場で一瞬にして画像処理できるのも特徴だと言える。この10種類のアートフィルターを駆使することで、プロ顔負けの画像を撮影したその場所で手にできるのだ。
 実機を手に、被写体にレンズを向けてみると、どうやって撮影すれば良いのかが立ち所に理解できるだろう。絞りを変化させれば、画像の被写界深度が深くなったり浅くなったりする様が確認できるし、フレーミングにより被写体が表情を変える様子も良く分かる。
 では、アバルトをより格好良く撮影するコツを考えてみよう。まずは、視点だ。一般的に良くありがちなのは、普段と同じ目線から撮るというもの。確かに見慣れた画角から撮影したくなる気持ちは良く分かる。だが、視点、すなわちアングルを上下に移動させるだけでも、クルマは普段とは違ったおもむきを見せ、撮影の幅が広がるはずだ。アングル、フレーミング、そしてレンズの組み合わせだけで、同じ場所でも様々な画像の見せ方が可能になる。また、被写体がクルマの場合は、ステアリングを切ってみたり、ライトを点灯させることでも画像の印象を大幅に変える事が出来る。簡単な事なので、ぜひ一度試してもらいたい。

上の画像は、良くありがちな普段の目線と同じ角度で撮影したもの。これはこれでクルマがしっかりと分かるので悪くは無いが、よりプロっぽく撮りたいのであれば、少し離れた位置から望遠で狙い、しかも下目から撮ることでよりクルマの特徴を表現することが可能。ルーフから足回りまで鮮やかに写っているのが分かるだろう。(左/露出プログラム:絞り優先、Fナンバー:5.1、露出時間:10/303、露出補正値:1、レンズ焦点距離:108、レンズモデル:40.0-150.0mm f/4.0-5.6、上/露出プログラム:絞り優先、Fナンバー:11、露出時間:40/597、露出補正値:0.7、レンズ焦点距離:17、レンズモデル:14.0-42.0mm f/3.5-5.6)

 広く一般的なクルマの静態画像と言えば、前面が7割に側面が3割程度のバランスで撮る手法だ。この場合も、クルマに近づきクルマ全体をピッタリとフレームに合わせて撮影するだけでは、多くのアマチュアカメラマンの作品との差別化は難しい。同じ場所、同じ時間であっても、クルマから離れ、望遠レンズを使用し、アングルにも傾斜をつけるといった具合に、細かい工夫の積み重ねでクルマがグッと引き立つ画像が撮れるのである。クルマに近づいて、自分の目線と同じ高さから撮る事が悪い訳では無い。だが、ローアングルで望遠レンズを使用すれば、クルマに躍動感を与え、静止しているにも関わらずダイナミックな印象を付加する事が出来る、それは上の画像を見て頂ければおわかりだろう。

坂の頂上にクルマを止めて、坂の下からローアングルで撮影すると、背景を空だけにすることができ、よりクルマを強調する事ができる。さらに、アングルを少し傾ける事で、止まっているクルマに躍動感を与えるという演出もなされている。ドラマッチックトーンというアートフィルターを使用。陰影の効いた画像に仕上がっている。(左/露出プログラム:絞り優先、Fナンバー:8、露出時間:1/100、露出補正値:1、レンズ焦点距離:105、レンズモデル:40.0-150.0mm f/4.0-5.6、アートフィルター:ポップアート)

 そして、被写体となるクルマの置き方にもひと工夫こらすと、仕上がりに歴然とした差が生じる。まず、光の向きや背景を考える。光は、当然の事ながら順光、すなわちカメラの後ろ側から被写体に向かって光が差す方向を選ぶのが妥当だ。もちろん、状況によっては逆光も素晴らしい絵を生み出す要素のひとつとなる。ただし、逆光でクルマも背景もキレイに撮りたいのであれば、クルマにはストロボの光を当てるなどしないと、どうしてもクルマ全体が暗くなってしまい狙い通りの画像は撮れない。クルマをシルエットとして表現したいのであれば、逆光も強い味方となるのだが。そこで、光が順光となり、かつ背景が美しい場所を探すのが先決となる。背景があまりキレイでない場合は、大胆にローアングルから狙うとクルマの後ろにある余計なモノを画角から排除できる場合も多い。ちょっとした坂を上手に利用すれば、キレイに空だけが背景となる画像も撮影可能だったりする。場所選びには、撮影する時と同じ位のウェイトを置いて、慎重にジックリとりかかってみてはどうか。きっと、新たな発見があるはずだ。

上の写真と同じ場所で撮影しているのだが、レンズを変えてフレーミングに余白を持たせる事で、雲の表情を見せる様に工夫されている。クルマを格好良く撮るために背景を使った例。(右/露出プログラム:絞り優先、Fナンバー:10、露出時間:1/100、露出補正値:1、レンズ焦点距離:25、レンズモデル:14.0-42.0mm f/3.5-5.6、アートフィルター:ドラマチックトーン)

 また、クルマを画面いっぱいにレイアウトするのも良いが、場合によっては余白を作り、そこに背景を入れると画像にストーリー性が生まれる。余白の取り方は、個々それぞれの感性が試されるものだが、自分で実際にカメラを構えてみて、様々なバリエーションを試しているうちに、自分らしさが発見できると思う。そうやって試行錯誤する内に、この背景のこの部分を絞りを調整して活かしてみようだとか、あるいは望遠レンズを使って背景はクルマに映り込ませよう、といった複数のテクニックを組み合わせたより上級の画像が撮れるようになっていくことだろう。

この2枚の画像は、いずれも同じ場所にクルマを置いて撮影。リアは路面を活かし、縦位置で撮影することでストーリー性を演出し、一方で、右側の画像は横位置で余白も大きめに取り、街の中に佇むアバルトを表現。場所の見極めがいかに重要かよく分かるカット。(右/露出プログラム:絞り優先、Fナンバー:5.6、露出時間:1/40、露出補正値:0.3、レンズ焦点距離:150、レンズモデル:40.0-150.0mm f/4.0-5.6、上/露出プログラム:絞り優先、Fナンバー:8、露出時間:40/597、露出補正値:0、レンズ焦点距離:20、レンズモデル:14.0-42.0mm f/3.5-5.6、アートフィルター:ドラマチックトーン)

 全く同じ場所でも、自分が被写体に対してカメラを構える位置で、仕上がりは全く違ってくる。そして、意外とアマチュアカメラマンが使わないのが縦位置でのフレーミング。カメラを縦に構えるだけで、背景をより有効に活かせるシチュエーションは多々ある。それは何も、クルマの上側だけじゃない。下側、すなわち路面を活かすというテクニックだってある。クルマの周りを実際に歩いて背景を確認してみよう。そして、目線も上げ下げしてみると、以外と面白い景色が見えてくることだってあるのだから。

同じレンズ、同じ場所でも、フレーミングでこれだけ見え方は変わる。やや広角ぎみの左の画像は、背景のビルを活かし色とカタチ、質感の異なる人工物を巧みに調和させている。一方、右は広角レンズのワイド感を強調したカット。あえてビルの向こうの空まで入れる事で、奥行き感を出しつつ、クルマに迫力を与えている。(左/露出プログラム:絞り優先、Fナンバー:8、露出時間:1/125、露出補正値:0.3、レンズ焦点距離:25、レンズモデル:14.0-42.0mm f/3.5-5.6、右/露出プログラム:絞り優先、Fナンバー:5.6、露出時間:1/200、露出補正値:1.3、レンズ焦点距離:14、レンズモデル:14.0-42.0mm f/3.5-5.6)

 レンズのセレクトも、画像のバリーションに幅を加える重要な要素だ。同じ場所でもレンズが違うと見せ方も変わってくる。望遠レンズを使用して、クルマ全体をシャープに見せる手もあるし、広角レンズでややパースの付いた立体感溢れる画像を狙う事だって可能だ。同じレンズでも、上の画像の様にフレーミング次第では全く印象は異なる。要は、自分の好みに合ったレンズ、画角、絞り、それに加えアートフィルターを使う事で、他人とは明確に違う自分らしさを表現できるのだ。そして、それが自由自在に操れるようになれば、自ずとアバルトの魅せ方だって上達しているだろう。

OLYMPUS PEN E-P3 今回の撮影に用いたカメラは、オリンパスのミラーレス一眼の最上機種となるE-P3。組み合わせるレンズは、M.ZUIKO DIGITAL 14-42mm F3.5-5.6ⅡRと、M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F4.0-5.6 Rの2本。広角と望遠のズーム2本で十分に撮影ができた。素早い画像処理は、ストレスを感じさせず、撮影したその場ですべてがわかり入門者から上級者まで十二分に活用できるミラーレス一眼である。本体の高い質感も魅力のひとつで、所有する喜びも存分に堪能できるだろう。

神村 聖
フリーランスで活躍するプロカメラマン。自動車専門誌はもちろん、一般紙やWeb媒体など、クルマをメインに様々なメディアで活躍中。本ウェブマガジンのフォトも氏によるもの。


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