りんご先生の運転お悩み相談室 第5回「ハンドルの操作方法 編」

今よりも運転が上手になりたい人、そして自分の運転を基本から見直したい人に向けた『りんご先生の運転お悩み相談室』。ひさびさの展開です。SCORPIONNA DRIVEのインストラクターであり、ドリフトクイーンでもあるプロドライバー、“りんご先生”こと石川紗織さんに、楽しくレクチャーしてもらうことにしましょう。

今回はりんご先生が「実はベテランの方でも意外と“どうかな?”って思う人が多いんですよ」と話す“ハンドルの正しい操作の仕方”がテーマです。


SCORPION DRIVEやABARTH DRIVING ACADEMYの講師を務めるりんご先生(石川紗織さん)。今回はハンドル操作を教わります。

まずはシート位置を正しく合わせよう

──ハンドルって無意識にグルグル回せるモノだから、考えてみると、自己流で操作しちゃっているところがあるかもしれませんね。

そうなんです。サーキットを走ってる人の中にも、手のひらで片手だけでクルクルッと回す人とか、いわゆる“内掛けハンドル”で操作してる人とかがいて、ビックリすることがあるくらい。あと、意外と自分では気づいてないことが多いんですけど、マニュアルのクルマでシフトチェンジをしてないときも片手をシフトノブに置きっぱなしで、片手でハンドル操作をしていたり。


こちらが“内掛けハンドル”。ハンドルの中に手を入れるのは危険なのでこの操作方法はNG。

──サーキットで? 一般道でも危ないのに、それはますます危ない。

危ないし、走ってるところを見るとちゃんと曲がりたいように曲がれているとは思えません。ハンドル操作って、自分が行きたい方向にクルマを走らせるための最も重要な動作で、ミスすると曲がりきれなかったり曲がり過ぎちゃったりするので、できるだけ慎重に、ていねいに、正確に操作するべきですよね。走っていると無意識に操作しがちですから、無意識でもちゃんとできるようにするために、日頃からしっかりと意識して練習しておくのがいいと思います。

──それでは最初に、正しいハンドルの握り方から教えていただきましょう。

はい。実はハンドルを正しく握れてない人も多いですね。その場合、そもそもドライビングポジションがちゃんとできてないことが多いです。第2回のときにドライビングポジションの取り方について触れましたけど、シート位置はしっかり背中をつけてハンドルを無理なくグルリと回せるくらい。ハンドルの真上を握ってみて、腕が伸び切らず、肘が少し曲がる状態、ですね。なぜ肘が曲がるように余裕を持たせるかというと、カーブで横方向に強い力が加わったとき、身体が遠心力で横に持っていかれて腕が伸び切ってしまうと、正確な操作ができなくなるからです。


正しいハンドル操作のため、シートはハンドルの上を持ったときにやや肘が曲がる位置にセットする。

自分のドライビングポジションを取って、ハンドルを握ってみましょう。握る位置は10時10分とか9時15分とかいわれていますけど、私はどちかかというと9時15分派です。ハンドルのスポークの部分に手を添えるぐらいがいいと思っています。それでそっと手のひらをすぼめて、小指の付け根あたりと親指の付け根あたりで挟み込むような感じ。てのひら全体でギュッと握りしめたりはしません。それで両手でスーッとハンドルを回してみてください。自然な感じで回しやすいはずです。


ハンドルを握る位置は9時15分がオススメ。素早く操作できるように強く握らないようにするのがポイント。

クロスハンドルをオススメしない理由

──はい。ポジションが決まったところで、ハンドルの操作の仕方に入りましょう。教習所では、いわゆる“クロスハンドル”を教わりますよね?

正しいステアリング操作には諸説あるんですけど、基本的にはどんなシチュエーションでもハンドル操作が不安定になりにくい回し方であることが重要です。時計の針に例えるなら、15分くらい回したときにも手が安定してて、30分くらい回しても45分のときにも安定してて……と、どんな角度でもきちっとハンドルを握っていられて、瞬時に次のアクションに移れる状態でいられるようなハンドル操作ですね。

15分ぶんぐらい回すだけなら、持ち替えなくても安定して握っていられるじゃないですか。でも、そのまま30分ぶんまで切ろうと思うと、無理がでてきます。角度にしたら180度ですからね。そうなるとどこかで持ち替えないといけない。持ち替えているときが、不安定になるんですよ。そのような状態をできるだけ作らないようにするべきですね。


常にスポーク部分を持ち、右手と左手を持ち替えていくのがクロスハンドル。間違いではないものの、握る手が不安定な状態になることから、りんご先生はオススメしていないという。

教習所で教わるクロスハンドルは、何度もパタパタと持ち替える操作方法。低速走行で素早く一気にハンドルを回したいときには有効なこともあるんですけど、それ以外のときには例えば持ち替えるときに片手を放して、左手は右手の領域、右手は左手の領域まで来てクロスしているとします。そしてコーナーに対してハンドルの切れ角はその角度がジャストだっていうこともあるわけです。そういうときにはハンドルを握る手が物凄く不安定な状態になっているから、正確に曲がっていくのが難しいですよね。それに微妙なところで止めたいときにも上手く止めにくい。素早く右へ左へと何度も曲がるような場面では、何度も立て続けに持ち替えているうちに操作が追いつかなくなって、右手と左手が干渉しちゃうこともあります。正確に曲がるどころか危険な状態を作り出しちゃうことにもなるわけです。走行するシーンにもよりますが、サーキット走行でのクロスハンドルは推奨しません。

ハンドルの左側は左手、右側は右手で

──となると、どういうふうに操作するのがいいんでしょう?

“送りハンドル”と“迎えハンドル”。これは“押しハンドル”と“引きハンドル”っていわれることもあるんですけど、それを上手に連携させる回し方ですね。例えば左側に15分ぶん、ハンドルを回すとします。そのときに右手を上の方に押していくのが送りハンドル、左手を下の方に引いていくのが迎えハンドルです。


手のひらで押すように回していく“送りハンドル”。

ハンドルを縦に半分で分けるイメージで、左側は左手の持ち分、右側は右手の持ち分。これでハンドルを右一杯に切ると仮定して、そのときの動きを追ってみましょう。まずは左手で押していって12時の位置に達したら、素早く右手をハンドルの上を滑らせながらその位置まで迎えに行き、そこからは右手で下に引いていく。右手を動かしている間に、左手は下側に移動させて次に送るための準備をして、タイミングが来たら押していく。その動きの繰り返し。それをスムーズに繰り返していくんです。右手と左手は常に頂点の辺りでバトンタッチをするので、腕がクロスすることはありません。片手でハンドルを握ることになる時間はゼロではありませんが、ほんの一瞬だし瞬時に握るという作業に戻れる動かし方だから、不安定な状態にはなりにくいです。


回す方向にある手を引き下げるように操作する“迎えハンドル”。

ちなみに、ここは諸説あって論争になったりすることもあるんですけど、押していく“送り”主体か、引いていく“迎え”主体か、意見が分かれるところです。どちらかを選ぶとしたら、私の場合は“送り”です。なぜなら押していく方が力の入れ加減の調整がしやすいので繊細で正確な操作につながるし、手のひらでタイヤの状態を感じとりやすいから。だから送り側の腕を少し余分に意識して、逆側の腕はそれを補助する感じです。

とはいえ、完全に“送り”主体というわけじゃないんですよ。あえていうなら6対4とか、5.5対4.5ぐらいの感覚。“送り”も“迎え”も、どっちも大切なんです。人間には利き手というものがあるので、両手でハンドルを握っていても、無意識にどちらかに主導権が偏りがちになるもの。右手と左手にはバランスよく50対50かそれに近い状態で仕事をさせるように心掛けるようにしましょう。


ハンドルの右側は右手で回し、左側は左手で回すのがりんご先生流。それほどたくさん回す必要がない場合は、手を持ち替える位置が12時である必要はなく、例えば右に回す時は左手を8時あたりの位置から上に送ってあげるのでもいい。

──その操作の仕方を練習する方法ってありますか?

クルマが停止した状態でロック・トゥ・ロック、つまり据え切りから逆の据え切りまで回し、次に反対方向にまた据え切りまで回しという風に練習するのが本当はいいんですけど、フロントタイヤが路面に設置してる状態で据え切りを何度も繰り返すと、タイヤにもクルマにも負担がかかってしまうんですね。だから私たちはフロントをジャッキアップしてタイヤを浮かせた状態で練習したりします。でも、それって一般の方にはあまり現実的じゃないですよね(笑)。

そういうときには、おぼん(笑)。お部屋の中で、おぼんを使って回す練習をするのもオススメです。おぼんって本物のハンドルと較べて握りにくいし、固定されてないから回しにくいので、逆にいい練習になると思いますよ。もちろん市販のレースゲーム用のハンドルセットのようなものを使うのも、いい練習になると思います。

──ここまでが基本の“キ”ですね。

そうですね。ここから先のお話と、実はクルマってハンドルだけで曲がるわけじゃないというお話は、また次回にしましょう。

りんご先生の近況

実は2018年に、生まれて初めてラリーという競技に出場したんです。親しいプロのラリードライバーに特訓を受けて鍛えてもらったりしました。特訓してくれたラリードライバーにコ・ドライバーをお願いして、昨年、ラリーでの初優勝を経験することもできました。もう楽しくて、楽しくて! なので、今年もラリーに出場していきたいと思っています。そんな中でコドライバーをお願いしたプロに指摘されたのは、“りんごちゃん、距離感が全然ダメ”っていうこと。本番を走るときの目安にするペースノートというものを事前にコースを走って作るんですけど、あるコーナーから次のコーナーまでの距離を「100メートル!」って私がいうと「いや、150メートルあるよ」。「今のところは300メートル」「いやいや250メートルだってば」という具合。プロの人の距離感は驚くほど完璧で、パッと見て100メートルって判断すると本当に100メートルなんですよ。それに比べると私は破滅的なぐらい、全然ダメ。だから写真のようにスマホにアプリを入れて、毎日走りながら距離感を鍛えています。今のところあんまり効果が出ているとはいえないですけど(笑)」


りんご先生が距離感を鍛えるために使用しているアプリ。

アバルトオフィシャルWEBサイト

文 嶋田智之