12年経っても飽きず、見るたびにかわいい!と思います アバルトライフFile.55 小泉さんと500

大きなトラブルもなく12年が経過

現在の595シリーズの始祖となるアバルト 500が日本に導入されたのは、今から13年前、2009年の4月のことでした。その数ヶ月後に初期の500を新車で購入し、ずっと乗り続けている女性オーナーがいると耳にしたので、お話をうかがいに行きました。

アバルトのようなクルマに12年間ずっと乗り続けている人。そう聞くとさぞかしマニアックな強者を想像してしまいがちですが、集合場所にいらした当のオーナーさん、小泉暁美さんは、そうしたイメージとは真逆の、物静かでふんわり柔らかい印象の方。失礼ながら、パッと見、アバルトのような激しさを秘めたクルマを愛車にしているようには思えません。


ABARTH 500オーナーの小泉さん。

「そうでしょうねぇ。そう思われてるんだろうなぁって感じることは結構あります(笑)。あるとき、中学校のミニミニ同窓会のような集まりにこのクルマで行ったんですけど、帰りに駐車場で私がこのクルマに乗り込もうとしたら、男性陣の目の色が一気に変わりました。こういうクルマに乗るのか! って変な驚き方をされました(笑)」

小泉さんの500は、2010年の8月登録。以来、Grigio Campovoloのボディに赤内装、そしてアバルト乗りの間では“赤耳”と呼ばれる赤いミラーカバー、赤いABARTHデカールという購入したときの仕様のまま。総走行距離は4万1000kmと少なめですが、細部を見ると、ちょうど12年目を迎えるとは思えないくらい手入れが行き届いている感じです。車齢を考えると、かなり入念なケアをなさっているのではないかと思います。


小泉さんの500は、購入から12年が経過。目立ったトラブルはなく、機関は好調のよう。

「それが、そうでもないんですよ。ときどき工場でチェックはしてもらってますけど、12年の間、ほとんどトラブルらしいトラブルはないんです。ぐずったりするようなことも、一度もありませんでした。基本、とてもいい子です。買うときは壊れやすいんじゃないかと思って、ちょっとそこが不安だったんですけど……」

ゆっくりとていねいに、考えながら答えてくださる小泉さん。そもそもアバルトが気になった理由についてお聞きすると、アバルトを所有するよりも前に、初めて愛車として迎えたクルマの影響が大きかったようです。彼女は20代前半の頃、勤めていた会社の先輩や同僚が乗っていたりお父さんが若い頃に憧れていたクルマだったりしたこともあって、今も熱烈な愛好家の多い英国製の伝説的な小型車を手に入れ、その世界観を楽しんでいたそうです。

「1台目は小さくてかわいいクルマで、マニュアル車で操作は忙しかったけど、元気よく走ってくれて、気持ちよかったんです。同じクルマに乗ってる先輩とかメンテナンスをしてくれる人とか、クルマの楽しさを教えてくれる人も周りにいっぱいいました。そういうことも含めて、とても楽しかったんです。7年乗っていろんなところにガタが来て、維持するのが大変になって手放しちゃったんですけどね。次に買ったクルマも小さくて、スタイルがかわいくて気に入ってたんですけど、ATしか設定がなかったんです。すごく楽だしとってもいい子だったんですけど、でもちょっと物足りなさを感じていたところはあったかもしれません。私、運転してるときに、“操作している感”があった方が楽しくて、好きなんです。やっぱり乗るなら楽しいクルマがいいなって思って……」


小泉さんがクルマに求めるものは、デザインが良く、所有していて楽しいと感じられること。アバルトの前には2台の輸入コンパクトカーを乗り継いだ。

見に行ったその日に購入を決意

そしてお次がアバルト、というわけですね。

「そうですね。マニュアル車が欲しい、って思ってたんです。頭の中にあったのは、最初に買ったクルマのおもしろさ。そのクルマに乗ってた頃の友達が家族総出で(笑)、私のクルマ屋さん巡りにつきあってくれて、いろいろな輸入車のショールームを回りました。でも、ATしか設定がなかったり、“これじゃない”感があることが多くて、合うクルマはないのかな……なんて思いながら、最後の最後にチンクエチェントを見に行こうってことになったんですよ。2008年に日本に入ってきたときに見て、すごくかわいいな、って思ったことがあったので」


ディーラーを訪れた時はアバルトの存在は知らず、フィアット 500を下見するつもりだったそう。

そこでアバルトに出逢っちゃったんですね。

「そうなんです。チンクエチェントにも試乗させてもらったし、やっぱりかわいいなって思ったんですけど、その頃はマニュアルがなくて。でも、ふとショールームの向こうの方を見たら同じかたちだけど雰囲気の違うクルマがあって、あれは何? ってなったんです。そこで“あれはアバルトですよ。アバルトならマニュアルがあります”って教えてもらって。私、それまでアバルトって知らなかったんですよ(笑)」


ブラックを基調に赤いシートとボディ同色のグレーのインストルメントパネルが組み合わされた500のインテリア。このカラーコーディネーションも彼女のお気に入りのポイント。

形は似ているけど雰囲気の違うクルマ。パッと見て、どんな印象でしたか?

「私、最初は見た目で選んでしまって(笑)、こっちはかわいいうえにかっこいいって感じました。内装の雰囲気も違うし、すごくおしゃれだし。それに、やっぱりマニュアルだし。それで試乗してみたら、フィアットとは性格がぜんぜん違うんですね。ショールームの近くを2周しただけなんですけど、走り出した瞬間から、ものすごく懐かしいワクワク感。ひさしぶりのマニュアルだったからということもあったんでしょうけど、これは今まで試乗してきたクルマのどれとも全然違う、私が欲しいのはこれだって感じて、展示してあったその個体を買うことに。金曜日にショールームに展示されて、土曜日に私が見に行って、その日のうちに“これがいいです。この子をください”って(笑)。Grigio Campovoloのボディに赤耳、赤のデカールっていうのに、ほとんどひと目惚れしちゃったんです。フィアットとの値段の違いに悩んだんですけど、でも、どこから見てもかわいくてかっこよくておしゃれで、やっぱりこれしかないなって。定期預金を解約したりとか、がんばれば何とかなるって思って決めました。それだけの甲斐はあったと思うんですよ。12年たっても飽きずにつきあっていられるんですから」


アバルトとの衝撃的な出会い。ショールームに入庫したばかりの車両をご指名で、「これください」と申し出たという。

スポーツモードを使うようになったのは5年後

当時はアバルトを販売しているショールームが日本にいくつかしかなかった頃ですから、街を走っているアバルトも少なかったはずです。納車になって乗りはじめて、かなり目立っていたんじゃないですか?

「信号待ちで止まったりとかすると、横断歩道を歩く人が見ていくんですよ。赤耳もデカールも珍しかったせいか、ものすごく見られて、ちょっと恥ずかしいなと思ってました。でも、このカラーリングじゃなかったら買ってなかったかもしれない。そのくらい気に入ってたんですよ。当時は女性がアバルトに乗ってるのが珍しかった、っていうのもあったかもしれませんけど、とにかく目立って恥ずかしいような、でもうれしいような想い出はありますね」


「乗っていて視線を浴びるのはちょっと恥ずかしい」と小泉さん。

小泉さんがアバルトのルックスにひと目惚れしたのと同じように、街ゆく人たちも惹きつけられちゃったんでしょうね。

「そうかもしれません。私、さっきも言ったように見た目で購入を決めたんですけど(笑)、乗ってもすごくいいんですよね。気持ちよく加速してくれる感じとか、曲がって欲しい分だけ曲がってくれる感じとか、クルマ全体が地面と密接な感じとか。ただ普通に走ってるだけで楽しい気持ちになれちゃうんですよね。私にとってはものすごく速いクルマなので、最初は加速がよすぎて、普段はスポーツモードに入れることはできなかったくらい。それが5年ぐらい続きました(笑)。イベントで知り合ってすごく親しくなったアバルト女子仲間たちがいるんですけど、どうしてスポーツモードにしないの? 普段からスポーツモードにしたほうが楽しいよ、ってすすめられて、おそるおそるスポーツモードで走ってみるようにしたんですけど……楽しかった(笑)。今までどうしてこれを使わなかったんだろうって思ったくらい。今ではほとんどスポーツモードです。このクルマの加速のよさ、大好きなんですよ。でも、普通に走っているだけで楽しいので、いつもはぜんぜん飛ばさないです。今もときどき、軽自動車に抜かれます(笑)。スポーツモードの実力は、高速道路に合流するときとか発進して加速するときにちょっとだけ味わってます」

12年という長いつきあいのなかで、飽きたり、ほかのクルマに乗り換えようと思ったりしたことはないんですか?

「逆につきあえばつきあうほど好きになる感じです。アバルトは普段、自分の家の駐車場に置いてあるんですけど、家に帰るといつもアバルトがいて、毎日“かわいいなぁ”って感じて嬉しい気持ちになるんですよ。そこはまったく変わりません。走るといつも決まって“楽しいなぁ”って感じます。そこもまったく変わりません。12年経っても飽きないし、嫌になったことが一度もないんですよ。見るたびにかわいいって思うし、乗るたびに楽しいって思うんです。アバルト仲間とクルマを並べて写真を撮ったりするときも、全部かわいいけど自分のがいちばんかわいいって思う。みんなそれぞれ同じことを思うんでしょうけど(笑)。最初のクルマの楽しかった想い出は、もう追いかけることがなくなって、アバルトがいい想い出にしてくれた感じです。完全に満たされちゃってますね」

最後の質問です。小泉さんにとって、アバルトとはどういう存在ですか?

「上手く言葉にできないんですけど……アバルトがあるだけで楽しいし、アバルトがあるだけで幸せ。かけがえのない友達を与えてもくれたし……。こんなクルマって、ほかにはないですよね。代わりになるクルマも見つかりません。ずっと好き」

聞けば、小泉さんの趣味は10年以上も前にはじめたベリーダンス。教えてもらっていた先生が結婚を機に帰国して、その後続けていたグループレッスンもコロナ禍で現在はお休み中とのことですが、今も好きで、再開したい気持ちも強く残っているのだとか。普段使わないいろいろな筋肉を使うかなりハードなダンスですが、「踊ってる女性の姿が美しくて、見てるだけで感動しちゃうんです。自分でも踊るけど、ずっと見ていられるくらい」という言葉を聞かせてくれました。その瞬間、物静かでふんわりとして見えるけど本当に好きになると情熱的な想いが長く続く小泉さんと、かわいいけど激しいところのあるアバルトが、なんだかすんなりリンクするように感じました。熱愛は、きっとまだまだ続きます。

文 嶋田智之

アバルト公式WEBサイト