乗れる時はリアルに、乗れない時はデジタルでアバルトを満喫 アバルトライフFile.52 西井さんと595

幼少期に記憶に刻まれたターボの加速とヒラヒラ感

今回登場していただくオーナーさんは、アバルトがInstagramで展開していた“#my_abarth_2022”で当選された西井一貴さん。1993年生まれの29歳です。いま風のシュッとした青年だしうかがうことになったきっかけが写真なわけですから、お話はそのあたりがメインになるのかな、なんて何となく予想していました。けれど、いやいや。アバルトのオーナーさんたちには色々な意味で濃い人が多いということを、あらためて認識させられたのでした。

西井さんは子どもの頃からのクルマ好きが高じて、現在は排気システム、つまりマフラーの大手メーカーで、設計と3Dデザインに従事されています。日常生活の3分の2が東京、3分の1は東京から離れた本社にほど近い実家を拠点に活動されていて、行ったり来たり。アバルトは実家に置いてあり、帰省する週末の最大の楽しみなのだとか。


アバルトのInstagramキャンペーンmy_abarth_2022に見事当選された西井さん。ドライブの際にはミラーレス一眼を持ち歩き、愛車の撮影を楽しまれている。

「アバルトに乗れる時間が本当に限られてしまうのでそこは寂しいですけど、でも会社では研究用だったり自社で開発したりした世界の一級品といえるようなマフラーの数々に触れたり観察したりすることもできるので、そういう意味では楽しくて仕方ないですね」

のっけからいきなり濃厚なお話ですが、マフラーを観察して楽しいと感じるようなクルマ好きになったのは、いつ頃のことなんですか?


実家に戻った時の週末にしか愛車に触れられないとあって、東京にいる時は帰省時に撮り溜めた画像を編集し、愛車と関わる時間を楽しんでいるそう。

「小学生の頃には、すでにクルマがすごく好きだった記憶があります。父親や母方の叔父がかなりのクルマ好きで、日本の高性能スポーツカーやヨーロッパのライトウェイトスポーツカーがずっと身近なところにあったんです。父親のクルマのターボがドカーンと効いたときの加速感や、叔父のクルマのヒラリヒラリと曲がる軽やかなコーナリング感覚が身体に染み込んでいて、それが今の自分にも大きな影響を及ぼしてますね。ターボの強烈な加速感と小型軽量なコーナリング感覚の両方を持つクルマって、アバルト 595しかないですもん(笑)」


西井さんが少年時代に身体に染み込んだ強力なターボの加速や、ライトウェイトスポーツの軽快感。その両方を併せ持つクルマということで、アバルトには非常に満足しているという。

イタリアの友人から教わったアバルトの存在

アバルトはいつ頃からご存じだったんですか?

「大学の途中までは知りませんでした。実は英語をちゃんと話せるようになりたかったので、大学4年になる前に1年間休学して、アルバイトで資金を作ってから2015年にオーストラリアへワーキングホリデーで行ったんです。現地でも色々なクルマに触れたくて、洗車の仕事とかをしてました(笑)。そのときに暮らしてたのはシェアハウスで、色々な国から来た何人かのシェアメイトと一緒に住んでたんですけど、その中のひとりにイタリア人の女性がいたんですね。彼女はイタリアに自分のクルマを持っていて、それがフィアット 500だったんです。すごく気に入ってるみたいで、誇らしげに話してくれたし、小さくてかわいいなと思ったんですけど、僕がスポーツカーが好きだと話したら、“それならアバルトよ。イタリアのイケてる男の子はアバルト 595を選ぶの”と言われて、その時はアバルトって何? でした。彼女がイタリアの友達に送ってもらった動画を見せてくれて、何なんだこの音は……!と、衝撃を受けました。それで595の存在を知ったんです。それまではクルマが好きなのに自分が何に乗りたいのか定まってなかったんですね。でも、ただかわいいだけじゃないアバルトというクルマに興味を持つようになって、これかな、という気持ちが日増しに強くなった状態で日本に帰ってきました」


アバルトとの出会いは、ワーキングホリデーでオーストラリアに留学していたとき。現地で知り合った同じ留学生のイタリア人女性からアバルトの存在を教えてもらったそう。

帰国してからすぐにショールームに見に行ったりはしたんですか?

「いいえ、行きませんでした(笑)。まだ大学が1年残っていて学生には手が出せませんでしたし、2017年に今の会社に就職してからも、ずっと貯金に励んでいました。クルマを見に行ったら無理にでも買っちゃうだろうと思って、ずっと我慢してたんです。でも、排気システムのメーカーですから、職場にはクルマ好きが多いんですね。去年のある日、ついに先輩に連れられてショールームに見に行ってしまったんですよ。そこに今の僕のクルマが停まってました(笑)。初めて試乗したのは595 Competizioneだったんですけど、ここまで過激なのか、こんなターボのきき方をするクルマが現代にあったのか、と驚きました。今の時代にこのクルマを買えるのは幸せなことだな、と感じましたね。あえてベースグレードを選んだのは、お店に入った瞬間、この子と目が合い、乗って欲しそうな目でこっちを見てた気がしたんです。一目惚れってやつですね(笑)」


スマホのアプリに記録したドライブで訪れたスポットを見せてもらったところ、多くの土地に訪問済みのマークが(左)。愛車に飾られたサソリのオブジェ(右)。アバルトへの愛情の深さが見て取れる。

時々しか乗れないのに年間1万キロ走行

それから1年と少々が過ぎていますけど、クルマと離れ離れになっている日の方が多くて、あまり乗ることができてなさそうですね。だから写真を……?

「確かに乗れるのは実家にいるときだけで、時間が限られちゃうんですけど、その分、乗れるときはそれはもうあちこち、時間が許す限りいろんなところに走りに行ってます。単純計算で年の3分の1、ということは3ヶ月くらいの期間の週末にしか乗れないのに、1年で10,000km以上走ってます(笑)。アバルトって高速道路の巡航性もすごい高いし、疲れないし、運転も楽しいから、ついつい走っちゃうんですよね。それとクルマのイラストを描くのも好きなので、東京にいるときはじっくり時間をかけてiPadでアバルトを描くのを楽しんでます。それも僕なりのアバルトの楽しみ方ですね。Instagramにアップするための写真も同じ。写真を撮るのも好きで、それは自分にとってすごく大きいんですけど、撮るだけじゃなくて、加工をすることで作品のようにして仕上げていくことも楽しみのひとつです。クルマの写真はミラーレス一眼で撮り、写真の加工はiPhoneで3つのアプリを通して作ってます。でも、どうしてもアバルトに乗りたくなって、週末だけ実家に帰っちゃうこともあるんですけどね(笑)」


西井さんが描いた595のイラスト。スノーボードにも精通している西井さんらしく、アバルトでの雪道ドライブをイメージして作成したという。

何だか仕事以外はまるごとアバルトっていう感じですが、アバルトのどんなところにそれほどの魅力を感じているのですか?

「走行性能は、間違いなく気に入ってます。僕が望んでいたとおりのクルマなんですよね。僕はバイクにも乗るんですけど、やっぱりすごく似てる。コーナーを抜けて立ち上がるときブーストがかかってズバーッと行く加速とか、フィーリングがすごく似てると思うんですよ。自然吸気のクルマだと、そういう立ち上がりの仕方をしないんですよね。それとトレッドに対してホイールベースが短いので、ヒラヒラとした軽やかな感覚もある。コーナーが楽しいんですよね。カタチもかわいらしくて、すごく好きです。男性からも女性からも、どんな年齢の人からも、すごく愛されるカタチをしてると思います。愛されキャラですよね。それなのに、とても過激でしょ(笑)」


マニュアルトランスミッションの595。ドライビンググローブを愛用している。

お父さん、こっそり峠へ?

マフラーのプロとして、サウンドはいかがですか?

「レコードモンツァにはものすごく惹かれますね。僕のクルマは新古車で買って、今は買ったときについてたそのままなんですけど、もう少ししたらレコードモンツァに換える予定です。レコードモンツァって、配管構造にものすごくコストをかけてるんですよ。ボディの下側の配管の通し方も普通と違っています。最短ルートで効率よく排気させることを考えていて、ある意味スーパースポーツカーのようにコストよりも性能を優先している作りです。これは色々な意味で難しいことだから、このクラスのクルマにしてはかなり珍しいと思います。まっすぐ後に向かってきて、そこから3本に分岐して──って、まずここが普通ではあり得ないんです。普通はコストを考えて最後まで1本のままですから。その3本のうちの1本は消音器を経由してまた2本に分かれて排気をする。分岐のところには排圧で開くバルブがついていて、負荷が高くなったときだけ開いて2本に排気を通す。そうやって排気効率と音の響き方のボリュームを調整してるんですね。驚くほどコストのかかった凝った構造。僕たちから見たら、いい意味で正気じゃない(笑)。これはもうロマン以外の何物でもないですよ」


マフラーの設計をされている西井さんにレコードモンツァの感想を聞いたところ、その凝った構造はコストを度外視しているとのこと。「いい意味で正気じゃない」という言葉が印象的だった。

お話の方もバルブが開いて、だいぶ通りがよくなってきた感じです(笑)

「そうですね(笑)。やっぱり本当に好きなんだな、って思います。もし乗り換える日が来たとしても、次もアバルトを選びますよ。これは唯一無二の存在だと思うんです。サソリの毒にやられるっていうのはこういうことをいうんでしょうね、きっと。そういえば僕には3つ下の妹がいるんですけど、彼女も僕の隣に乗っているうちにかなり気に入ったらしく、アバルトを検討してるみたいなんですよ(笑)。それにアバルトは普段実家に置いてあるので、父親がときどきこっそり乗ってるらしく、知らない間に走行距離が伸びてるんです。勝手に峠に走りに行ってるみたいで、よく見るとタイヤは減ってるし、ブレーキダストが出てたりして(笑)。父親は今はちょっと落ち着いたスポーツセダンに乗ってるんですけど、アバルトがそばにあると昔の血が騒ぐらしいです。サソリの毒って伝染するんでしょうかねぇ(笑)?」

オーストラリアでイタリア人女性の友人からアバルトの存在を教えてもらって、早7年。穏やかそうに見える好青年は、アバルトのことを語りはじめると、自然と口調にも熱が入ります。いつの日か西井さんがレコードモンツァを越えるマフラーを生み出し、それが世界のどこかのメーカーに純正採用されるんじゃないか? そんなふうに感じられたインタビューでした。

文 嶋田智之

 
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