「私のアバルトライフ第二章の始まり」 アバルトファイルFile.48 後藤さんご夫妻と595 Competizione

ご主人の“導き”

通常、クルマの買い換えでそれまでと同じ車種を選ぶというケースはあまり耳にすることはないものですが、どうやらアバルトの場合は少し様子が異なるようです。ここにもひとり、595 Competizioneから再び同じモデルに乗り換えた方がいらっしゃいます。2019年に行われたアバルト女性オーナー座談会に参加された、瀬畑友莉恵さん。その後、結婚されて後藤さんへと改姓した友莉恵さんは、通常のラインアップにはないBlu Podio(ブルー)の595 Competizioneで会場にいらしていました。そしてつい最近、Blu Opaco(マットブルー)の595 Competizioneを新しい愛車として迎えたばかり。“その心は?”をうかがいました。まずは後藤さんの車歴から。


595 Competizioneオーナーの後藤友莉恵さんとご主人。

「最初のクルマは学生時代に買った国産のハッチバックで、社会人2年目まで乗ってました。ちょうどその頃に当時学生だった主人と知り合って、彼が2シーターのオープンスポーツカーに乗っていたんですよ。好きなクルマに乗って好きなようにクルマをいじって、なんだか悔しいな、私も好きなクルマに乗ってやる! と思って、学生の頃から憧れていたクルマを購入したんです。その頃は速さよりも何よりも、おしゃれに乗りたかったんですね。それを自分の好みにちょっとだけドレスアップして、4年ほど乗りました」


Blu PodioからBlu Opacoの595 Competizioneへの乗り換え。後藤さんはいずれも通常は設定のないボディカラーを選択している。

友莉恵さんの2台目の愛車は、時としてアバルトのライバルとされる英国ブランドの3ドアハッチバック。そこから反対側に振れたのは、いったいどういうことなんでしょう?

「彼がものすごいクルマ好きで、ひと言でいえば徐々に洗脳されたんですね(笑)。そのやり方がうまいんですよ。私はマンガを読むのも好きなので、まずはレースのマンガを読むように仕向けられる。そうしたらカートに乗りたくなって乗る。『RUSH』という映画を観に連れていかれて、F1に興味を持つ。日本人ドライバーが乗ってるよと教わって、もっと興味が湧く。富士スピードウェイまでスーパーGTのレースを見に連れていかれて、モータースポーツの魅力に気づきどんどん好きになる、という具合でした。そうなってくると、速い=かっこいい、になってくるんですね。そんなときに首都高速で、なんかちっちゃいクルマが追い抜いていったぞ、と思ったら“アバルトだよ”って教えられて、“速いの?”って聞いたら“速いよ”という回答が返ってきて」


スポーツカー好きのご主人に“洗脳された”と話す友莉恵さん。

同い年のご主人、彰文さんもドイツ製のミドシップオープンスポーツカーに乗る、“大”がつくクルマ好きにしてモータースポーツ好き。“彼女も趣味が同じだから、楽しいし……助かります(笑)”なんておっしゃいます。アバルトに関心を持っていた彰文さんの“自分も運転したい”という秘かな思惑に上手く誘われたのでは?

「悔しいような感謝してるような、そんな気分ですね(笑)。ちょうどその年は東京モーターショーの開催年でアバルトも展示されていて、そこで初めてじっくり見たんです。こんなにかわいいのに速いのか、ってさらに気になり始めました。その少し後にショールームに行って、レコードモンツァの音を聴いた瞬間、恋に落ちました(笑)」


友莉恵さんをうまく誘導した(?)ご主人。

納車待ちの間にAT限定免許を解除

サウンドがだいぶお気に召している様子ですね。

「はい。この小ささで、このかわいい見た目で、この音?って。もう反則ですよ(笑)。595 Competizioneに試乗してみたら、何なのこれは? って驚いたくらい刺激的だし、速いし。その場で“これ買おう!”って心に決めました」

でも、Blu PodioはMake Your Scorpionでしか選べないボディカラーです。

「実は、ちょうどショールームの担当さんからMake Your Scorpionで発注したブルーの595 Competizioneがもうじき入ってくるって聞いて、“それだ!”と。彼のクルマに乗ってセミバケットのシートっていいなって思ってたし、595 Competizioneはいちばん速いモデルだからそこも気に入っていました。もうこの頃には、おしゃれであって欲しいけど、何よりクルマは速いのがいい、という考えになっていたかもしれませんね。かわいいのに、速くてかっこいい。100点満点だな、って思いました。ただ、そのとき私はAT限定免許だったのにMT車を買っちゃったんです(笑)。でも、納車まで2ヶ月かかると聞いたので、それだけ時間があればAT限定を解除できると思って、ちょっとがんばりました(笑)。アバルトは私にとって初めてのMT車ですけど、乗りやすいですよ。最初のうちは“世の中ってこんなにも坂がいっぱいあるのか……”ってちょっと怖かったんですけどね。通勤も、わざわざクルマの少ない早朝に出て夜遅く帰ってきたりとか。納車の2ヶ月後に四国まで行ってきましたけど、何の問題もなくちゃんと帰って来られましたよ。ほとんどマニュアル操作の特訓ツアーでしたけど(笑)」


納車待ちの期間にATの限定を解除し、晴れてMT車ユーザーとなった後藤さん。納車後の四国への旅は「特訓のようだった」と言いつつ、苦行を楽しまれていた様子。

それが2018年のことでしたね。アバルトが友莉恵さんの3台目の愛車になって3年半少々。何か変わったことはありましたか?

「アバルトになってからは、走ることそのものがとにかく楽しくなりました。首都高速を走ることも楽しむようになり、マニュアルのシフト操作が面白いということを知りました。残業して夜遅く帰ることがあるんですけど、そういう時は空いた道を気持ちよく走れるのがいいんです。アバルトはポンとアクセルを踏んだらグイッと加速していくので、本当に楽しいです」


週末は二人でドライブに出掛けることが多いという後藤夫妻。

座談会のときには“2速がすごい。2速最高!”という名セリフを残してましたね。

「あの頃よりもアバルトのことがよりわかってきて、峠道を走るのも大好きになったし、サーキットデビューも果たしました。2速で引っ張ってストンと入れる3速が好きなんです。だから、今は“3速最高!”です(笑)。普通に走ってるときでも、レコードモンツァの開閉弁が開いたときの音が気持ちいいから、今でもトンネルでギアをひとつ落としたりすることはありますよ。不要に飛ばすわけじゃないですけど、アバルトと走ってる時間って、私にとっては本当に大切なんです」

自分を解放してくれる存在

友莉恵さんのお仕事は看護師さん。いわゆる“オペ看”で、術中のドクターにメスをはじめとした器械(手術道具)を適切かつ素早く手渡す重要な役割を担っています。ドクターが次にどの道具を使うかを先回りして判断し、正確に手渡す彼女の凄腕は評判となり、現在は請われるかたちで心臓外科の分野でトップクラスと言われるドクターを支える立場におられます。その仕事にまつわるストレスはかなり大きなものとお察しします。


ドライブの時にはCACAZANのドライビンググローブとネグローニのドライビングシューズを愛用している。

「自分がなりたくて選んだ仕事なのでストレスはなくて、むしろやりがいを感じてます。ただ、手術は長いと9時間ぐらいかかることもあるんですね。器械出しをするときには先生より高い位置から術野(じゅつや)を見ないといけないので、高さ30cmくらいの小さな台の上にずっと乗りっぱなし。絶対に手術台に触れて揺らして先生の手元を狂わせるわけにはいかないので、手術中は余計な動きはいっさいせず、手渡す道具を判断することと、タイミングをはかることに集中します。もちろんその間はご飯も食べませんし、私は水も飲みません。ものすごく集中しているから手術にかかる時間は早く感じられるんですけど、それでも自分の判断や動きが人さまの生命を左右する可能性がないわけじゃない。だからやっぱり緊張はあるし、神経を使いますね。その分、終わった後に“気持ちよく開放されたい”って思うときはあります。だからクルマって、私にとって欠かせない存在なんですよ。仕事のときは1日ずっと同じ台の上に立っているけど、帰りの道を走ってるだけで気持ちがスッキリするし、週末は楽しさを感じながらどこへでも行ける。私にとって最高の癒しなんですよ。真夜中に新東名の清水サービスエリアで食べる、味の染みた静岡おでんは最高においしいし、朝日が昇り始める時間の空の色は本当に綺麗だし。週末は夫婦でどこかしらドライブに出掛けていますね。主人のクルマで出かけることもあって、たまに私も運転するんですけど、サイズが大きいこともあって、アバルトに乗ってるときのようには楽しめないんです。アバルトはいろんな意味で自分に合っているんだな、って思います」


“自分に合っている”と話す後藤さんのアバルトは、ブルーのボディカラーにブラウンのシートが好相性。そこもお気に入りのポイントという。

だいぶ気に入っていた様子の595 Competizioneなんですから、わざわざ買い換える必要はなかったのでは……?

「本当に気に入っていたんですけど、去年の4月のMake Your Scorpionにマットブルーがあることを知って、色の雰囲気にひと目惚れしちゃったんです。私は昔からブルーが好きだったんです。マットブルーは実際の色味はもちろん見ることができなくて写真で判断して決めたんですけど、正解でした。光のあたり方で色の雰囲気がガラッと変わるし、どんなときでも本当に綺麗。この色そのものが本国でも廃版になっちゃったみたいですし、日本に入ってきた数も少ないみたいですから、もう手に入れることはなかなかできないでしょうしね。でも色だけじゃなくて、買い換えるならアバルト、って思っていたところはあったんですよ。このぐらいのサイズで、4人乗れて、3ドアで、速くて楽しくて。操ってる感があって、運転している自分の気持ちとシンクロして、しかもかわいくてかっこいい。このクルマが来て、私のアバルトライフの第二章が始まりました。アバルトを選ぶと、またアバルトに乗り換える以外、次の選択肢がないんですよ(笑)」


まだ納車されたばかりのBlu Opacoの595 Competizioneは、すでに後藤さんにとって欠かせない存在となっている模様。

なるほど。アバルトからアバルトに乗り換える人の気持ち。“やっぱりそうなのか”とすんなり納得できました。日本ではかなり希少種となるBlu Opacoの595 Competizione、友莉恵さんはかなり惚れ込んでいるようにお見受けします。たっぷりと長く、大切に乗り続けてくださいね。

文 嶋田智之

取材協力=レストハウス フジビュー

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