「様々な物語を作ってくれる存在です」 アバルトライフFile.46 西山さんと500

“サソリのクルマ”に惹かれ

Facebookのグループに“アバルト友の会”というコミュニティがあります。ご存じの方やすでにメンバーとなっておられる方も多いかもしれませんね。2016年の夏に会長の田中富士雄さんが開設され、現在メンバーは3400人超え。アバルトのコミュニティとしては、日本最大といえるでしょう。このグループの管理人を田中会長と一緒につとめているのが、今回ご登場いただく西山智子さん。実は西山さんのお名前はアバルトのオーナーさんたちから耳にしたことがあって、いつかお会いしたいと考えていたのでした。


アバルト 500オーナーの西山さん。

西山さんは愛知県にお住まいで、19歳になる息子さんと暮らしつつ、普段は会社勤めをされています。愛車は13年間乗った日本車から乗り換えた、2015年式アバルト 500のスタンダードモデル。Grigio Campovoloの5速マニュアルトランスミッション(MT)です。西山さんはなぜアバルトを選ばれたのでしょう?

「アバルトを最初に意識するようになったのは、“サソリのクルマ”というフレーズを見たときでした。いつもお世話になっている美容師さんのSNSを見て、“サソリのクルマを買った”と書いてあったんです。その頃はアバルトのショールームも少なくて、街にもあんまり走ってなくて、どんなクルマだろう?って思ったんですよ。ところが偶然、その直後に東京に行ったら、表参道ヒルズでアバルトが試乗会を開催していたんです。2013年の年末だったかな。そこで“これがそうなのね”って見ていたら、スタッフさんが“今ならすぐに乗れますよ”と声をかけてくださって……。それがアバルトに直接触れた最初。ビコローレ(2トーン)の500Cでした」


西山さんは週末に愛車に乗り、月に1000キロほど走行。多いときは1700kmぐらい走行することも。「長距離を走っても疲れない」という。

──迷いもためらいもなく、いきなり、ですねぇ(笑)。実際に乗ってみて、いかがでした?

「自分が走らせているという感覚がすごく強くて、街乗りなのにサソリのクルマってこんなにおもしろいんだ、って。それまでに乗ったことがあるクルマと、ぜんぜん違う。運転する人の楽しさというものをすごく考えているクルマなんだな、と感じました。500Cは屋根が開く開放感もあって、オートバイみたいですごくよかったです。どうしても忘れられず、次第に買うことを具体的に考えはじめ、気持ちはアバルト一択。その後の買い替えのタイミングで、迷わずショールームに向かいました」

作り手の気持ちが見える

──“C”の印象がよかったみたいですが、実際に選ばれたのはスタンダードのMTです。それはなぜですか?

「私、もともとオートバイに乗っていたんです。だから屋根が開く開放感も捨てがたかったんですけど、それよりマニュアルシフトであることに惹かれたんですね。オートバイは何から何まで全部マニュアル(笑)で、自分でいろいろ操作する楽しさに魅力を感じていたので。でもクルマはATが主流で、それまでの自分のクルマもCVTで、選べるなら絶対にMTって思ってたんですよ。自分が上手に操作すると綺麗に走ってくれて、クルマと一体になれる感覚が強いんですよね。でも残念ながら、500CはMTAのみでした。MTAも慣れてくるとどんどん仲良くなれるのがわかったから今ではアリだと思っていますけど、私はシフトを自分の手で操作したかったんです。スタンダードを選んだのは、基本がいいな、と思ったからです。ナビも何もつけず、パワーにも依存しない、最もシンプルな仕様。オートバイと同じで、自分の運転の能力がすべてというような、そういうクルマに乗りたいな、と思ったんですよ」


マニュアルトランスミッションを操り、長距離ドライブも楽しむ。「行く先々によって気候や慣習、文化は違いますよね。そういう感覚を持ち帰ると、自分の生活が変わるんです」と、旅の醍醐味を話してくれた西山さん。

──かなり硬派ですねぇ。実際にご自身のクルマにされて、どんなところがお気に入りになりましたか?

「これは皆さんと同じで、見た目のかわいらしさに反してスポーティに走ってくれるところ。それと、ものすごくこだわっている部分と、ここはこれでいいやという部分の落差(笑)。アバルトは走りのため、楽しさのためにはここはこうじゃなきゃ、と妥協をしないですよね。作っている人たちの意図がものすごく伝わってきます。こうやって走ってね、こういうふうに楽しんでね、と会ったこともないのに作った人の気持ちが伝わってくる気がするんです。クルマが好きな人、運転することがすごく好きな人が作っているんだろうな、って強く感じます。そう感じさせてくれたクルマは初めてでした」

膨らむ旅の魅力

──アバルト友の会の西山さんの投稿を拝見していると、ほとんど毎週、日本全国津々浦々みたいにあちこちに出没されていますよね。愛知県をベースにしながら、あるときは房総半島にいたり、あるときは京都にいたり。箱根や四国、八ヶ岳にいることも。本当に神出鬼没です。

「毎週ではないですよ、遠出は月に1回とか、月に何回かとか(笑)。通勤には使ってなくて週末がくるたびにアバルトに乗るので、必ずどこかを走っているのは確かですけど。観たいものを観にいったり、会いたい人に会いに行ったり色々です」


週末はほぼアバルトに乗って出掛けるという西山さん。特定の知人だけでなく、様々な方とツーリングやお出掛けをし、コミュニティを満喫されている。

──ずいぶん長距離も走っていらっしゃいますよね?

「もともと旅行が好きなので、長距離をひとりで走っていくのも苦じゃないんです。ノーマルモードでゆったり走ると、その優しさに癒されて、とっても気持ちいいですしね。いちばん遠かったところは、おそらく愛媛の佐田岬かな?弓削島のパン屋さんにも2回お邪魔しました。店主の宮畑さんのアバルト友の会への投稿を見て、面白いことをやってるなぁ、会ってみたいなぁ、って思ったんです。また別の方の投稿で、兵庫県の朝来市に神子畑選鉱場という産業遺跡があるのを知って、見てみたくなったり。すごく壮大な施設で、大人の社会見学みたいで勉強になったし楽しかったですけど、私がアバルトに乗っておらず、アバルト友の会に入っていなかったら、きっと知らないままだったと思うんですよね。皆さんの投稿を見ていると、色々と面白いことを知っていたり、やっていたりする人が多いんですよ。それは事業だったり遊びだったりクルマそのものだったり様々なんですけど、会って自分の目で見てみたくなるんですよね。それが私のモチベーション(笑)。アバルト友の会はFacebookがベースだから、投稿を見てコメントとかでやりとりをして、親しくなって訪ねたり。目的地近くの人を誘って途中で合流したり、地元のおいしいところを教えてもらったり。旅行が好きでアバルトで走っていくのがまず楽しいし、目的地やそこまでの道のりも含めて頭の中の日本というものが広がっていくのが楽しいし、そこにアバルトという同じ趣味を持つ人がいてくれるとなおさら楽しい。旅が何倍にも楽しいものになり、何倍にも濃いものになるんですよね」


兵庫県・朝来市の神子畑選鉱場。かつて金や銀、銅などが産出され、選鉱された。西山さんはアバルト友の会の投稿を見てそこに興味を持ち、自分の目で見たくなって訪れたという。

──管理人をやりながら、アバルト友の会をめちゃめちゃ有効活用されているようですね(笑)。

「そうですね(笑)。管理人をさせていただいていることでいろいろな方を知ることができるから、ある意味、役得です。でも、私も最初は普通のメンバーだったんですよ。Facebookの検索で見つけて入会させてもらい、皆さんとのやりとりを楽しんでいたんですけど、あるとき会長の田中さんから誘っていただいて、2年くらい前に管理人をお引き受けして今に至る、という感じです」


日常の買い物にも活躍する西山さんのアバルト号。荷室を見せてもらったところ、購入品の種類に応じて収納方法を使い分けられるように工夫されていた。

楽しいのは走りだけでなく

──アバルト友の会はどんな雰囲気ですか?

「もともとアバルトが好きな人であればクルマは持っていてもいなくても誰でもウェルカムの会。アバルトというクルマに魅力を感じている人たちがいる場所で、困ったときに相談ができたり助け合いができたり、楽しいことを紹介し合うことができたり、いろいろな交流が行われていますね。大人の感覚を持っていらっしゃる方がほとんど。人柄のいい人が多いんですよ。管理人というと、一手に管理を引き受けると思われるかもしれませんが、規約違反があれば報告してくれる方がいたり、その後の経過を心配してくれる方がいたり、皆さんの良識で成り立っているところがあり、それはとてもありがたいです。実際にお会いしてもとても親切で、例えばFacebook上のやりとりだけで面識もないのに、“そっちのほうに行きます”、“じゃあ時間作ります”って、そんなやり取り、普通はあり得ないでしょう(笑)。で、実際にお会いしてみると、ただただ楽しい時間を一緒に過ごせる。これってすごいこと。それからクルマに対する愛情をしっかり持っていらっしゃる方が多いですね。クルマを単なる道具ではなくて、相棒というか友達というか、そんなふうに愛情を注いでいる。大切にしたいし、手をかけたい。そんな想いを持っていらっしゃる方が多いんだと思います。何より皆さん、本当にアバルトのことが大好き。他の人のアバルトを見せてもらって楽しんでいながら、でも自分の子が一番かわいいというような(笑)。そう感じさせてくれるクルマを作ったイタリアのものづくり、アバルトの人たちって本当にすごいな、って感じます」

──最後に、西山さんにとって、アバルトとはどんな存在ですか?

「私の住むエリアに、アバルト友の会とは別にアバルトが縁で知り合った女性のグループがあって、彼女たちとは一生のつきあいになるような気がしています。アバルト友の会を通じて知り合った人とも、1回会ったその場限りというわけじゃなく、何らかのかたちでずっとお付き合いが続いています。なんだか変な言い方ですけど、アバルトが勝手に友達を作ってくれる。同じクルマに乗っているから仲良くなるっていうのは他の車種でもあるとは思うんですけど、アバルトの場合はクルマ同士が仲良くなってしまうような、そんなふうに思うときがありますね。アバルトの面白さって、私みたいにノーマルでどこにでも走っていく人もいれば、手をかけてサーキットに行く人もいるし、ドレスアップして個性を楽しむ人もいる。色々な方向性があると思うんです。そういうものをすべて許容してくれて、しかも志向に関係なく、仲良くなれる不思議なクルマですよね。アバルトがあるから出会える人たちがいて、普通に暮らしていたら知り合うこともなかったような人たちと仲良くなって、そこからまたどんどん広がっていったり、つながっていったり、そういうことが現実としてあるんです。それはたぶん日常的で一般的な友達という範囲をちょっと超えている存在。そのひとつひとつが、私にとっては大切な物語になってるんです。だから、物語を作ってくれる存在、でしょうか……?」


西山さんのお気に入りのカフェ『がらん』前にて。古民家を改造したお店で、化学調味料や保存料を使わないこだわりのパンやコーヒーを提供する。岐阜県恵那市山岡町久保原433 HP:https://www.happy-garan.com

アバルトにはいつまで乗り続けますか? という問いに対して、間髪入れずに「乗れるまでずっと乗ります」と、きっぱりと返してくれた西山さん。アバルト乗りのお友達から“まるで絨毯爆撃のごとく無差別に全国のアバルトオーナーを訪ねる人(笑)”と賞賛されるバイタリティは、間違いなくこれからも遺憾なく発揮されることかと思います。アバルト友の会を通じた“アバルトの楽しさ”伝道師としての活躍を、今後も楽しみにしていますからね!

文 嶋田智之

アバルト595の詳細はコチラ

撮影協力:がらん