瀬戸内の離島で手づくりパンを販売 アバルトライフFile.44 宮畑さんと595

島で唯一のパン屋さん

“瀬戸内の島にアバルトでパンの移動販売をしている人がいるらしい”とお聞きし、いつか会いにいきたいと思っていたのですが、意外や早くにそのチャンスに恵まれました。Facebookで3300人を越えるメンバーが集う“アバルト友の会”の会長さんが「その方もメンバーですよ」と繋いでくださったのです。さっそく愛媛県の弓削島(ゆげしま)でパンとお菓子とコーヒー豆を扱うカフェ、『Kitchen 313 Kamiyuge』を切り盛りされている宮畑真紀さんを訪ねました。


瀬戸内の離島、弓削島へフェリーで向かう。わずか数分で対岸に行く短距離の渡し船だが、その先には橋で繋がった土地とは違う景色が広がっていた。

弓削島は、愛媛県の北部と広島県の間の上島諸島のひとつ。フェリーに乗らないと行くことができない離島です。周囲を気持ちのいい海沿いの道が取り囲み、ところどころから瀬戸内の島々を一望できる景観に優れた弓削島には、島ならではの情緒が色濃く漂っています。『Kitchen 313 Kamiyuge』はその島の西側、上弓削港にほど近い集落の細い路地裏にありました。古民家の一角にある蔵をリノベーションしたお店で、宮畑さんがご主人の周平さんと一緒に迎えてくれました。


大正時代に建てられた古民家をリノベーションして営んでいる『Kitchen 313 Kamiyuge』。

小さなお店ではあるものの、撮影中もひっきりなしにお客さんが訪れてきます。この日は午前中にパンはすべて売り切れ。かなりの人気店のようです。宮畑さんは名のあるパン工房で修行を積んでこられたのでしょうか?

「それが私、パンづくりは独学なんですよ。子育てをしてきて子どもたちに安心安全なものを食べさせたいと思って、最初は趣味のように焼いていたのです。食べることが好きで、いつか食に関わる仕事をしたいという夢は持っていたんですけどね。そして弓削島に来てからできたお友だちがベーグルが好きというので焼いてみて、それがきっかけになりました。当時、弓削島にはパン屋さんがなかったんですよ。買いたくてもかなり遠くまで行かないと買えなかったんです。ベーグルはオイルが入らないから身体にもいいということで、いつの間にか“ヘルシーなパンが買える店”とクチコミで広がって。食べに来てくれた方が喜んでまた来てくださり、今に至ります」


『Kitchen 313 Kamiyuge』のパンはすべて手づくり。身体にやさしい材料だけを使い、丁寧に焼き上げられている。

ここでしかできない味

弓削島には移住してこられたのですか?

「そうなんです。11年前に家族で移住してきました。夫は小中学校の同級生で、私たちはふたりとも神戸で生まれ育ちました。この家は私の父の生家で、築103年。私にとって弓削島は、年に2回、お盆とお正月におばあちゃんに会いに来る場所だったんですよ。夫には豊かな自然のそばで暮らしたいという夢があったようで、当時空き家になっていたこの建物や島の風景を気に入り、島の人たちの心の豊かさに触れ、子育てはこういうところでしたいよね、と。夫は編集者兼カメラマンとして建築に関わる仕事をしているので、この古い家にもすごく惹かれたんだと思います。リノベーションも、できるところはすべて自分たちでやりました。100年前の家の姿に想いを馳せながら、生かせるものは全部生かして。ここに前からあったもので使えるものは、今も全部使っています。お客さんにコーヒーをお出しするときの器もこの家の壁土を捨てるのがもったいないと思っていたので、それを材料にして作家さんに作っていただいたものなんです。割れたり欠けたりしても、継ぎをして使い続けられますから。100年前の土を使ったカップ。歴史の味が滲み出ます(笑)。父は本当に素晴らしいお家を残してくれました。私はラッキーですよね」


コーヒーも一杯一杯ハンドドリップで。

そんなお話をうかがっているときにも、お客さんが次から次へと訪れ、宮畑さんと楽しそうに会話をして笑顔で帰っていきます。10年少々の間にすっかり島に溶け込んだ感じで、地元の人たちの憩いの場になっているようです。

「今日はほとんどが島内の方で、島の人たちもたくさん来てくださるんですけど、実はフェリーで買いに来てくださる方のほうが多いんです。ありがたいことにほとんどクチコミで。リピートしてくださる方もたくさんいらっしゃいます。本州と四国をつなぐしまなみ海道はサイクリストの方が多いので、クチコミやインスタで知って、自転車で迷いながら来たくださったり。でも迷うことで弓削島の旧き佳き街並みを見ていただいたり、島の人たちに道をたずねることで島の人たちの優しさや温かさに触れてもらえたりするので、それもいいのかなと思っています。私はここに来ていただくのが何より嬉しくて、そのためにお店をやっているところがあるんです。人と会ってお話しして楽しい時間を過ごせれば、それでもう満足(笑)。人とコミュニケーションするのが好きなんですね。だから通販とか地方発送はしないんです。私が手づくりでパンを焼いて私が手渡しする、っていうことが大切で、買ってくださる方にとってもその方が安心できるでしょうし、会ってお話しして気に入っていただいて食べていただくのだから、美味しく感じていただけると思うんです」


『Kitchen 313 Kamiyuge』は、小さな路地に面する。路地の入り口には、小さな目印があるのみ。店を探し当てて訪れるその過程も楽しんでもらいたいのだという。

「そうそう、実は私がここじゃない他の場所でパンを焼くと、どうしても味が変わってしまうんですよ。お醤油とかお酒と一緒で、この古い建物にもともと住んでいる色々な酵母や温度、湿度、空気。この空間そのものがパンを美味しくしてくれるんですよね。うちのパンはここで焼くからおいしいんです。だから100年の歴史を、その空気を、全部ひっくるめて、100%手ごねでパンを焼いています。焼くときに機械を使う以外は、ぜんぶ手づくりなんですよ。おにぎりと一緒で、手仕事の温もりみたいなものも味になるといいなぁと思って。だから、ここでパンを作って、ここに買いに来ていただく。でも、離島には来る手段のないおじいちゃんやおばあちゃんもいるので、そこには私がアバルトで届けに行って、ちゃんと手渡しするんです(笑)」


パンの販売を通じて相手とコミュニケーションすることに喜びを感じるという宮畑さん。

アバルトで別の離島へ移動販売に

真紀さんの明るく真っ直ぐなお話につい聞き入ってしまいました。離島での移動販売は、どのように行っているのでしょう?

「ひとつはフェリーで因島まで渡ってそこから別のフェリーに乗って、岩城島。あとは弓削島からフェリーで1時間ぐらいのところにある魚島。そしてもうひとつは弓削島の島内です。それぞれ月に1回ずつで、他に声がかかって出掛けることもあります。だいたい10日に1回ぐらい、アバルトにパンを積んで出掛けていますね。お店の営業日が火木土で、それ以外の日は材料を広島まで買いにいったり島中の山にザクロをとりにいったり。自分の畑にレモングラスをとりにいくことや、島の方にいただいたはっさくでジャムを作ることもあります。パンもベーグルも1日に焼ける量は限られるので、今ぐらいの仕事量が限界ですね」


アバルトにパンを詰め込みフェリーで販売へ。宮畑さんの手づくりパンのファンは海の向こうにも広まっている。

そもそも、どうしてパンの移動販売にアバルトなんでしょう?

「私、もともとクルマにはまったく疎くて何も知らないのに、アバルトにひと目惚れしちゃったんです。クルマの買い換えを考えていたときに、偶然、この色の、これと同じクルマに出逢ったんですよ。ひと目見て、何て素敵なんだろうって。かわいいし、かっこよくて男前じゃないですか。その佇まいにひと目で惹かれちゃったんですね。私、サソリ座なのでサソリのロゴにも心打たれました。それに私、他の人と同じことをするのが好きじゃなくて、他の人があまり乗っていないクルマが欲しかったんです。アバルトなら同じクルマとあまりすれ違わないし、島の辺りではまず見かけない。そこもいいなって思いました。もうこれしかないなぁ……って。もう買う理由しか思い浮かばなかったです(笑)」


移動販売のときにはアバルトの荷室にパンを満載して出発。

なるほど。ほぼ衝動買い、というパターンですね。

「そうですね(笑)。でも、いちど冷静になって他のクルマも見てみよう、と考えはしたんですよ。でも、どのクルマを見ても全然ドキドキしない。まったくときめかなかったんです。最終的にはアバルト松山のショールームに“買うならこの人から買いたい”って思わせてくれる営業の方がいらしたので、2020年9月にそこで購入したんです」

移動販売車として、アバルト 595はいかがですか?

「それまではステーションワゴンでイベントの出店などに出掛けていたんです。ワゴンならテントやテーブルも積んでいけたんですけど、さすがにこの子には無理。でも、どうにかしてこのクルマで仕事をしたいなと考えていたときに、ラゲッジスペースに棚をつけたらいける!って思いついたんです(笑)。お店の中の棚に並べてある餅箱をそのままクルマに移せば、そのまま販売車両になる、って。リアハッチをパッと開けたら、そのまま販売できるでしょ、って。そういうのは誰もやってないし。で、大工さんにアバルトに合う棚をトレイがピッタリ収まるサイズで作ってもらいました(笑)」


店内のトレイをそのまま持ち出してクルマに詰め込む。それ用にアバルトの荷室にはパン棚が設けられている。

「島の中を走っていると、島は狭くて入り組んでいるところも多いからもう少し小回りが効いてくれると嬉しいなって思うときもあるんですけど、でもクルマが小さいから楽に走れるし、身体感覚としてもすごくフィットしてる感じがします。島でアバルトはこれ1台だし、音も特徴があるから目立ちますし(笑)。それにパン屋さんがこういうクルマで、ハッチを開けたらそのままお店になるから、皆さん、おもしろがってくれますね。ちゃんと移動販売車として役に立ってくれています(笑)」


アバルトでパンを移動販売するというそのスタイルを宮畑さんだけでなく、お客さんも楽しんでいる様子。

思いが通じるクルマ

アバルトはクルマとしてはどうでしょう?

「この前までこの子の排気量すら知らなかったくらいなんですよ(笑)。運転もちっとも上手じゃないし。アバルトに申し訳ないレベルなんです。でも、運転してるとすごくテンション上がりますよ。運転席に座ると、私は今アバルトに乗ってるんだ、って嬉しくなります。しまなみ海道を走っているときにスポーツモードのスイッチを押すのが最高ですね。クルマがグイッと前に出て、すごく気持ちいいし楽しいです。普段は島の狭い道とフェリーばかりだから、たまにしかスポーツモードに入れられないんですけど(笑)。それにアバルトって、デジタルかアナログかでいえばアナログだと思うんです。自分が操作してあげないといけない。そうやってコミュニケーションをとろうとすると、ものすごく活き活きと走ってくれるんですよね。こんな対話ができるようなクルマ、初めてです。そういうところも好きですね」

コミュニケーションを重視していて会話が好き。何だか似た者同士、ですね。

「そうでしょうか(笑)? でも、アバルトを本当に買ってよかったと感じてます。だから今、幸せですよ、本当に。好きなことをして、好きなクルマに乗れて。アバルトを買ってFacebookのアバルト友の会にも入会させていただいて、ドキドキしながら初投稿したんです。そうしたら愛知県の方が来てくださったり、四国からも来てくださったり。ちょっとずつアバルトの方が弓削島に遊びに来てくださるようになったんです。もう本当に嬉しいです。お店の前にアバルトを停めて店でパンやコーヒーを楽しんでいただけるのは、本当に素敵なこと。そういう機会が増えたら、もっと幸せな気持ちになれるんだろうな、って思っています」

宮畑さんはクルマのスペックもメカニカルなところにはあまり詳しくないようですけど、うかがったお話からすると、本質的な部分でアバルト 595というクルマを理解され、相応しい楽しみ方をされているようにお見受けします。なにより宮畑さんは、昔ながらのやり方でパンを焼き、菓子やジュースを作りコーヒーを淹れる、ということにこだわっています。それが矜恃。どこかアバルトに共通するものを感じました。お店を訪ねた方にこっそりうかがうと、“宮畑さんと話すと、不思議と元気が出るんですよね”と話してくれました。そんなところも、ちょっとアバルトっぽいかもしれません。

アバルトオーナーの皆さん、瀬戸内方面にお越しの際には、ぜひとも弓削島の『Kitchen 313 Kamiyuge』へ宮畑さんを訪ね、パンやコーヒーを味わいながら、アバルト乗り同士の共鳴を楽しんでみてくださいね。

Kitchen 313 Kamiyuge
愛媛県越智郡上島町弓削上弓削313
Tel:0897-72-9075
営業時間:11:00~15:30
定休日:月曜日・水曜日・金曜日・日曜日
https://313.mystrikingly.com