おふたりの移動に彩りを与える特別な1台 アバルトライフFile.37 多田さんご夫妻と124 spider

最後の124 spider

「去年の年末に納車になって、まだ1,300kmぐらいしか走ってないんですけど、楽しいクルマですね。これまで乗ってきたなかで、いちばん楽しいクルマなんじゃないかな? と思いますよ」
そう語ってくださったのは、多田碩孝(ひろたか)さん。今年74歳になる124 spiderのオーナーさんです。若輩の取材者に対しても言葉を選ぶようにして穏やかにていねいに話をしてくださるところからも、お人柄がうかがえます。


124 spiderオーナーの多田碩孝さん。

奥さまの玲子さんは次のように話してくれました。
「今、うちのガレージは赤いドイツ車と白いアバルトが並んでいて、紅白でおめでたい雰囲気なんです(笑)。私は赤い方は乗ることが多くて、124 spiderに乗るときは助手席専門。124 spiderは彼の世界、っていう感じです」

明るく、ご主人を支えるように寄り添ってきたことが、言葉の端々から覗えます。おふたりは今年で結婚41年目。お子さんは既に独立して家庭を持っていて、ふたりの時間を124 spiderと一緒に楽しんでいるご様子です。


奥さまの玲子さん。

実はこの124 spiderはちょっと特別な1台。昨年11月に開催された“124 spiderチャリティオークション”で落札された、アバルトが日本で販売する最後の1台なのです。

碩孝さん
「前にアバルト595を見に行ったことがあって、おもしろいクルマだな、と思ったことがありました。124 spiderは、去年10月に別のクルマを見にショールームに寄ったときに出会ったクルマで、スポーツカーに乗りたいと思っていたこともあって、興味が膨らんだんです。このときの124 spiderはボディカラーが黒で、そのディーラーで扱う最後の1台ということでした。試乗車がなかったからマツダに行き、124 spiderに近いマツダ ロードスターの走りも体感して、色々と悩んだんですけど結局その時はやめました。私は白のボディに赤いシートがいいなと思ってたんですよ」


白いボディに赤シートの組み合わせを望まれていた多田さまご夫妻。オークションに出品された最後の1台がそれと同じ仕様だったことにご縁を感じたそうです。

玲子さん
「コーヒーショップに行ったときに、クルマを停めた私の隣にかっこいいクルマがあったんです。白いボディに赤いシートのスポーツカー。家に帰ってから何の気なしに主人にそれを伝えたら、すごい偶然で、そのクルマがまさに彼がいっていた124 spiderでした。彼は一度は諦めたと思ってたんですけど、それをきっかけにまた火がついちゃったみたいで(笑)。実は私の弟がものすごいクルマ好きで、クルマを乗り換えようかなぁという話をしたときに、弟から最後の124 spiderのチャリティオークションのことを教えられたんですよ」

落札金額は550万円台でした。通常より100万円ほど高い金額です。どのように金額を決められたのか、多田さんにうかがってみました。

碩孝さん
「自分がクルマを運転しはじめてから55年経ったから、です(笑)」

玲子さん
「そうだったの(笑)?」


多田さんが手にしているのは、最後の124 spiderのチャリティオークションの特典。FCAイタリアのチェントロスティーレが特別に製作したもので、ナンバープレートも多田さんの登録番号と同じに描かれていました。

碩孝さん
「そうそう。まさか自分が落札することになるとは思ってなかったから驚きましたし、連絡をいただいた後にちょっと悩みましたけど。実は55年前の初めての自分のクルマが、友達から譲ってもらった国産車だったんですけど、実はそのクルマにアバルトのマフラーがついてたんですよ。たぶん何か別のクルマのマフラーをつけたんでしょうね。そのときにアバルトの名前を初めて知ったんです。だから何か縁みたいなものを感じましたね。ちょうどオークションの頃には中古車の値段も上がっていたし、日本国内の最後の1台っていうことでプレミアムなプレゼントもいただけるし、何よりチャリティにもなるし。そんなこともあって応募を決めました(笑)」


チャリティオークションの特典であるFCAイタリア チェントロスティーレ作のイラスト(左)と、最終モデルの証である特別バッジ(右)。

玲子さん
「私はチャリティオークションっていうところにも意義を感じてました。私は別のボランティアの団体に所属していて、“シャイン・オン!キッズ”の活動のことを知ってたんです。重い病気と戦ってる子ども達に対する励まし方が素晴らしいなと思ってたんです。ただ、入札金額については、私は全然聞いてなくて(笑)。でも幸いなことに私達はこうして元気だし、子どもも頑張ってるし、もしこのクルマを買うことで病気に対してがんばっている子ども達のお役に立てるんだったら、それは嬉しいこと。次の世代の子ども達のために何かができるっていうのは大きな喜びです。だから、このオークションで欲しいと思ってたクルマを買った彼に、大きな拍手を送りたいですね。チャリティオークションというのも、国内最後の1台にふさわしいストーリーだと思います。実際に私がかっこいいなと思ったクルマでもありましたし、いつまで乗れるかわからないけど、乗れなくなったら私の弟が絶対欲しいっていってますし(笑)」

「季節や自然に関する会話が増えました」

多田さんご夫婦にとっても購入前から特別な物語を紡ぎ出している124 spider。このクルマで過ごす時間を、おふたりはどう感じていらっしゃいますか?

碩孝さん
「楽しいですね。休日にだけ乗るクルマだし雨が降ったら乗らないので、まだそんなに距離を走ってるわけじゃありません。スピードを出したりもしてませんから、クルマのすべてを知ってるわけでもないんですけど、それでも十分に楽しいクルマです。道路に食い付くように走るので、いいですね。自分の思い通りに動いてくれる感じです。こういうクルマには、今まで乗ったことがありませんでした。スポーツモードにしたら全然変わりますしね。最初のうちは使っていなかったんですけど、いちど使っちゃったら……。本当に楽しいクルマですよ。完全なオフの時間に街から出て色々なところを走ってると、すごく気持ちいいですね」


「路面に食い付くように走るところがいい」と走りもお気に入りの様子。
撮影地:芦有ドライブウェイ

玲子さん
「私達は旅行が好きで、海外も含めて色々なところに行ってきたんですけど、今はコロナ禍ですから自由が利かないですよね。だから週末には県内で目的地を選んで出掛けています。お蕎麦の美味しいところを探して訪ねたり、海沿いの地元の海産物を使ったおいしいパスタを食べに行ったり、わざわざ遠いところまで野菜を買いに行ったり、紫陽花が綺麗だと聞いたらそこに見に行ったり、そんなふうに過ごしているんですよ。それまでは市内のどこのスーパーに行こうかっていう感じだったんですけど、今はどこの道の駅に行こうか、どこの農協に行こうか、ですね(笑)。身近なところに楽しさを見つけるようになりました。それはこのクルマが来てから大きく変わったところですね」

碩孝さん
「屋根が開くのもいいですね。街中では照れくさいから開けませんけど(笑)。冬もどこかに行くときには開けてました。実は屋根を開けて走ってもあまり寒くないんですよ。風の巻き込みも少ないし、シートヒーターもあるし。2月とか3月に海岸線を走るのは最高に気持ちよかったですね。逆に今の季節とかは、もう暑すぎますね。屋根を開けて15分ぐらい置いておいたら、シートがものすごく熱くなってました(笑)」

玲子さん
「確かに屋根が開くのはいいですね。風を切って走るというか、自然の中を走ることも多いので、季節感っていうんでしょうかね? 周囲の緑や花など、季節や自然の美しさについて彼と話す機会が増えました。屋根のあるクルマで走るときとは、かなり違います。潮の香りとか、雲のかたちとか、冬なのに意外と暖かい風のことだったり。五感が優しく刺激されるような。そういう感覚はこれまでは感じたことがなかったです。まるで空や風景と一緒に走ってる感じ」


オープンにして走ることで自然の恵みをドライブ中に意識することが増えたと話してくださいました。

こちらの質問に返してくれながら、それすらも自然と夫婦の楽しい会話になってる様子でした。おふたりの呼吸や空気感に、何だかいいな、と感じました。玲子さんは「40年以上一緒にやってますからね(笑)」とおっしゃりますが、時間だけではこうした呼吸や空気感は育まれないように思います。“人生はグランドツーリング”という名コピーがありますけど、きっと124 spiderはこれからも多田さんご夫婦の笑顔たっぷりの旅を彩る相棒として、大活躍していくことになるのでしょう。

文 嶋田智之

撮影協力:芦有ドライブウェイ
アバルト公式WEBサイト