アバルトを一言で表現するなら、「スペチアレ!」

コーヒーブランドで働くTommaso Perinaさんは、日本での生活が延べ7年になるイタリア人。一時帰国した故郷で手に入れたアバルト500を昨年暮れに持ち込んだのは、ここで始まる新しい暮らしを楽しむため!
アバルト・ネイティヴとも言うべきTommasoさんに、イタリア人が肌で感じるアバルトの魅力をたずねました。

そこに魂が宿っている情熱的な存在

―まず始めに、Tommasoさんとアバルト500の出会いを教えてください。

あれは2007年だから、新しいフィアット500が発売されて間もない頃だったはずだけど、この東京でイギリス人が運転しているのを見て、なんてカッコいいんだ! と思ったんです。でも、僕が買うならアバルトがよかった。そこで2009年に一時帰国したとき、イタリアで手に入れました。そしてまた日本に来ることになって、しばらく故郷に置きっ放しにしておいた愛車を2012年の暮れに船で日本へ運びました。日付けは奥さんの誕生日の12月1日。ぴったり合わせました(笑)。

―ということは、イタリア仕様のアバルトですね?

基本的には日本向けと変わらないそうですが、一部のディテール、たとえばホイールなどは現地の装備らしいです。こっちに持ってきてから日本製マフラーに換えたんですよ。ちゃんと車検に合格するタイプだけど、とてもいい音。すごく気に入っている。

―なぜアバルト500が欲しかったんでしょう?

アバルトを一言で表現すれば、スペチアレ! 英語ならスペシャル。日本語なら特別。ちょっと違うんです、アバルトは。そこに魂が宿っているというか、情熱的な存在というか。それはイタリア人なら誰でも知っていること。アバルトの名前がつけば、小さなクルマでもスポーツカーのようなパフォーマンスを発揮するクルマに生まれ変わる。それほど高くないのもうれしい。だからイタリアでは若い人に人気がありますよ。僕は自宅で使うコーヒーマシンも愛車と同じ白と黒のカラーに仕上げてサソリのステッカーを張り、アバルトチューンだと自慢しているくらい(笑)。僕らの世代は、そんなふうにしてカーライフを楽しみます。でも、日本の街中でアバルトに振り返ってくれるのは中年以上のサラリーマンかなあ。若い人たちにもアバルトのおもしろさを知ってほしいですね。

Tommasoさんのアバルト500は、エッセエッセキットを組み込んだ160psのイタリア本国仕様。サイドミラーやルーフスポイラーを自分で黒に塗り直したそうだ

日本でイタリア車を見るとうれしくなる

―ところで、なぜ日本に来ようと思ったのですか?

興味を持ったきっかけはテレビアニメ。イタリアでは日本のアニメがたくさん放送されているんですよ。どんなものを見たのかと聞かれるたび日本の友人に驚かれます。なぜかというと、マジンガーZやタイガーマスクといった古い作品だから。ジェネレーションギャップがあるでしょ(笑)。それらのジャパニーズアニメは、本編はイタリア語で吹き替えられているんだけど、中には主題歌やクレジットが日本語のままだったりする作品があって、それになぜか引きつけられました。

―初めて日本に訪れたのはいつですか?

2001年です。故郷のヴェローナで知り合った日本人の友達を頼って、しばらく千葉に滞在しました。いちばん興味深かったのは、居酒屋。イタリアのバールとは全然違う雰囲気なのね。あと、街のいたるところにあるカラフルな看板もおもしろかった。仕事で日本に暮らすようになったのは2003年からです。こっちに来てうれしかったのは、街中でイタリア車をみかけること。実は東京ならフェラーリやランボルギーニがあふれているんじゃないかと勝手に想像していたんですが、実際はフィアット500やプントが多いですよね。古いチンクエチェントも走っていて、そう言えばお母さんも乗っていたなあと懐かしい気持ちになりました。

左:奥様の朋子さんと出会ったのはイタリア。新しい家族はお腹の中。右:出産前に完璧に仕上げたベビーシートのセッティング。

左:サングラスとタンブラーはドライビングの必需品。キーホルダーはスーパーマリオのノコノコの甲羅。右:イタリア北部のヴェローナで1978年に生まれたTommasoさん。

ベビーシートも完璧!

―ご自身のアバルト500が日本上陸を果たしてからまだ半年ですが、どんな場所を走るのが好きですか?

いちばん好きなのは、横浜のみなとみらい地区。海の間近で都会的な雰囲気を醸し出しているロケーションはイタリアにはありません。特に夜がいいですね。巨大なビルや観覧車の光と港の組み合わせは、ドライブしていて本当に気持ちがいい。次によく出かけるのは湘南かな。このアバルトで初めてドライブしたのも鎌倉だったし。行ってみたいのは富士山ですね。その周辺の山道もアバルトで走ったらすごく楽しいと思う。そうそう、できるだけ近いうちに仙台にも行きたいです。奥さんのお父さんが住んでいて、孫を見せに行きたいから。奥さん、お腹が大きいでしょ。5月5日が予定日なんです(編集部注:取材を行ったのは4月中旬。無事に元気な男の子が生まれたと報告を受けました)。

―ちなみに、奥様とは日本で知り合ったのですか?

これがね、ヴェローナのとなりにあるフェラーラの日本人向けお土産屋さんなんですよ。彼女はモロッコ旅行の途中でイタリアを訪れたんです。僕が一時帰国しているときにそこで出会った。

―アバルト500は日本で遭遇し、日本人の奥様はイタリアで知り合った。Tommasoさんには日伊をめぐる奇妙な縁がありますね。

すべては偶然なのかもしれないけれど、どこかで何かがつながっているのかもしれません。とにかく今は、生まれてくる子供とここで過ごす日々が待ち遠しくて仕方ないです。ちゃんとベビーシートも用意しました。リアシートへのセッティッグ、何度も試したからもう完璧です(笑)。

「イタリア人ならアバルトと聞いて、みんなドキドキします」。小さくて速いクルマが大好きだという。

 

Edit & Text: Tonao Tamura
Photos:masato Yokoyama