姉弟揃ってアバルトをリピート アバルトライフFile.50 湯浅さん&出木場さんと595 Competizione

弟さんのクルマでサーキットに目覚め……

アバルトという名のサソリが尾から放つエキスは、触れた者を一撃で虜にする性質があることで知られています。そして近頃の研究では、どうやら身近な人にも伝染するケースが少なくないことがわかってきました。友人・知人のアバルトに刺激を受けてアバルト乗りになってしまう、というケースは日本全国で引きも切りません。奥さんが乗っているアバルトが楽しくなり、結果、夫婦で1台ずつ、というケースもありました。けれど姉弟がそれぞれアバルト乗りで、しかもふたり揃って2台目のアバルト、という方にお会いしたのは初めてかもしれません。お姉さんである湯浅かほりさんはブラックの、5歳年下の弟さん、出木場 皓(できば こう)さんはホワイトの、それぞれ2021年式595 Competizioneを愛車にされています。


595 Competizioneオーナーの湯浅さん。

ふたりのアバルト物語は、皓さんからはじまりました。スポーティなクルマばかりを数台乗り継いできた皓さんは、都心住まいゆえ移動手段に不自由することがなく、一時期はクルマを手放していたこともあったそうです。

皓さん
「でも、だんだん我慢できなくなり、ファミリーカーでなく、趣味のクルマを買おうと思って。当時は40歳が見えてきた頃で、2ドアのスポーティなスタイルのクルマはちょっと気恥ずかしかったので、無理なく普段乗りができ実用性があって、何より走って楽しいクルマはないかな、と。そう考えたときにふっと浮かんできたのが、アバルトだったんですよ。他にも候補はあったのですけど、試乗したら一発でやられました。見た目がかわいくて、程良いプレミアム感があって、小さいのに速くて楽しくて。絶妙なクルマですよね。それでABARTH 500を買ったんです。2014年のことでした」

趣味のクルマとして500を手に入れた皓さんには、野望めいたものがあったようです。


595 Competizioneオーナーの出木場さん。最初にABARTH 500を所有したところから物語は始まった。

皓さん
「実はメーカーがアバルト ドライビング アカデミーを開催していることを知っていて、講師陣も豪華だし参加費用はリーズナブルだし、参加したいと思っていたんです。サーキットを走りたかったんですね。そんな話を姉にしたら、身の程知らずだと言われました(笑)」

かほりさん
「独り身じゃなくて家族がいるわけだし、遊びとリスクが釣り合わないでしょ、って思ったのですよね。そのときは(笑)」

皓さん
「結局、僕はサーキットを走りに行くようになったのですけど、いろいろ話しているうちに僕が思ってた以上に姉がクルマ好きであることがわかって、何度かサーキットに連れていったんですよ。しばらくしてから“自分でも走りたくなってきたでしょ?”と訊いたら“走ってみたい”と言うので、どうぞどうぞ、乗りたいときにはお貸ししますよ、と(笑)。僕のアバルトでずいぶんたっぷりと走ってくれました」


弟さんのクルマでサーキットデビューを果たした湯浅さん。何度か試すうちに自分のクルマで走りたいという思いが芽生えていったそう。

かほりさん
「だって“乗っていい”って言うから“遠慮なく”(笑)。まったくの第三者のクルマをお借りしてサーキット走るわけにはいかないですけど、弟のクルマなら気楽ですからね(笑)」

お姉さんもアバルト購入

かほりさんはそれ以前に、ドライビングレッスンを受けたことがあったそうです。そこで“限界領域を知れば安全運転にもつながる”ということや、“思い切り走るのが楽しい”ということを知り、そういう走り方を実践できるサーキットに秘かに興味を燃やしていったのだとか。

かほりさん
「最初はアバルトだからと言うよりも、サーキットを走れるなら何でもっていう感じだったのですけど、すぐにアバルトが大好きになりました。ものすごく楽しいし、気持ちいいんです。あまりにも楽しいので、自宅に帰ってからも1週間ぐらいテンションが上がりっぱなし。私がニコニコしていると家庭の中の雰囲気もいいし(笑)。ただ、あまりにも弟のクルマを何度も借りていたので、夫の方が気にしてしまい、“そんなに気に入っていて、これからも続けたいのなら自分のクルマを手に入れたら?”って促してくれたんですよ」


お姉さんがサーキット走行にハマっていく様子を見て、「目論見通りだった」と笑う出木場さん。とはいえ、まさかお姉さんがすぐにアバルトを購入するとは思っていなかったそう。

ほどなくして縁があり、かほりさんにとっての最初のアバルト、2013年式の真っ赤な595 Turismoがやってきます。

かほりさん
「弟のアバルトでいろいろ経験したので、自分用にセッティングしてもらって、ほとんどサーキット用として乗ってました。弟に“サーキットはやめなさい”って言っていた私は、もうどこにもいなかったですね(笑)。それから月に2回から3回くらいサーキットに通うようになりましたから」

皓さん
「楽しいクルマだからそのうち欲しくなるだろうなって思ってたところはありましたけど、まさかサーキットに熱中しはじめてからそこまで早く買うとは思ってなかったですね。姉がアバルトを買ったのは2017年だったと思うけど、買った時点ですでにアバルトにハマっていました(笑)」


姉弟揃ってサーキット走行をすることも。

かほりさん
「子育てに一生懸命なときには自分の趣味にさける時間なんてほとんどなかったのに、ある日突然、子どもに手間がかからなくなるのですよね。そんなときに“さて……”と考えても、なかなかスッと入れて楽しめることや場所って見つからないものなんです。女性にとって貴重なそういうチャンスを、アバルトは作ってくれますよね。アバルト乗りには素敵な方が多いので、そういう人との出会いを作ってくれるのも嬉しいですね。ただただ感謝です。弟にもそうですけど、むしろアバルトに(笑)」

皓さん
「アバルトはセッティング程度でもサーキットを走れるクルマなので、自分がどれくらい上手くなったかを知る物差しとして、一時期、僕はものすごくタイムを気にしちゃう時期があったんですよね。それに対して姉は安全志向というか、無理をしない。なので、一緒にサーキットで走っているときだけが、唯一、姉をあおれる時間でした(笑)。それ以外の場面では、怖いし頭が上がらないので(笑)」


皓さんは2台目のアバルト購入の際にMT車をチョイス。大いに満足されている様子。

ほぼ同時に姉弟揃ってシリーズ4に乗り換え

そんなふうに一緒にサーキットを走ったり別々に走りに行ったり、共通のアバルト仲間のところに遊びに行ってバッタリ会ったりというようなことを繰り返しながら、姉弟のアバルト物語は順調に続いていく……はずでした。ところが2021年の初冬、状況は一変します。

かほりさん
「サーキットでオイルに乗ってスピン。クルマを壊しちゃったんです。その時は直したのですけど、それ以外にもいずれ手を入れなくてはならないところが増えることを考え、ショールームでなんとなく在庫を訊ねたところ、“あります”とのこと。すぐに試乗して、これ買いますって。最初のうちは弟には内緒にしていたのですけど、話したら“もったいない!”って罵倒されました(笑)」


湯浅さんの愛車のラゲッジルーム。ヘルメットをはじめ、サーキット走行に必要なアイテムが揃っている。

皓さん
「罵倒はしてないでしょ、ただビックリしただけで(笑)。でも、そしたらその1ヶ月後くらいに、僕もサーキットでまさかのアクシデント。ありえないことに、ふたり揃ってアバルトを買い換えることになりました。それが去年の2月で、納車は示し合わせたみたいにほぼ同時でした。姉には“もったいない!”って言ったんですけど、納車になったシリーズ4に乗って、“うーん、これはいい!”って感じましたね(笑)。劇的によくなっていたのです。ベーシックなABARTH 500から595 Competizioneですから、それも激変です。カスタムの必要なんて感じないほどの進化でしたね」

かくして激動の季節が過ぎ去り、姉は“もっと運転が上手くなりたい”という気持ちで月に一度プロドライバーからレッスンを受けるようになり、弟も街乗りメインながらときどきサーキットを楽しむという、平和なアバルト物語が戻って来ました。……というか、ふたりともクルマの乗り換えに際して、他の車種が頭をよぎったりはしなかったのでしょうか?


595 Turismoから595 Competizioneに乗り換えられた湯浅さん。プロドライバーから定期的にドライビングレッスンを受けているのだとか。

皓さん
「考えなかったといったらウソになりますけど、やっぱりこれだ! となっちゃうんですよね。だってこのクルマ、相当おもしろいですよ。あまりにもおもしろくて、価値観がガラッと変わりました。これに乗ったら離れられなくなっちゃうというか、ほかに欲しいクルマがなくなっているんですよね。姉も言ってましたけど、アバルトの世界はサーキットとかで出会う人も、とてもいいんです。ガツガツしたりカリカリしたりしている人も、ほかの車種の集まりと比べてだいぶ少ないように感じます。ゴルフにお金をかける人もいるけど、アバルトならそれと変わらないぐらいのコストでクルマ遊びを楽しめます。そういう使い方にもアバルトは最適だと思うし、僕はもともと普段乗りの方がメインなんですけど、街中を普通に走ってるだけでも満足感は抜群に高いですよ」


普段乗りに使いつつ、時々サーキット走行を楽しんでいるという出木場さん。

かほりさん
「クルマの楽しさはもちろんですけど、アバルトって人を呼び、人と人をつなげてくれるのですよね。先日も鈴鹿サーキットまで行ったとき、そこで会った女性オーナーの方と連絡先を交換して、今度名古屋か東京でお茶しましょう! なんて話になりました。そういうのって、アバルトに乗る前には経験したことがなかったのです。走っていてあえて遠回りするようなこともありませんでした。このクルマの前にはあくまでも効率優先だったので。私もアバルトの世界観が、かなり気に入っているのだと思います」

なるほど。であれば、ふたりともしばらくは今の愛車に乗り続けることになりそうですね。

皓さん
「どうですかねぇ……? 僕はMTAからマニュアルに乗り換えたんですけど、姉はMTAからMTAへの乗り換え、どうやら最近、マニュアルに興味が出てきたようで……。欲しくなっちゃったんでしょ?」


愛車を気に入っているものの、最近MT車に惹かれているという湯浅さん。

かほりさん
「……クルマ、交換しない(笑)?」

聞けば、それまでまったくクルマに興味がなかったかほりさんのお嬢さんが免許を取って、最初に運転したのがアバルト。以来、すっかり気に入って、いずれはアバルトに乗りたいと言っているのだそうです。もしかして今のアバルトをお嬢さんに譲り、かほりさんはマニュアルのアバルトに乗り換える可能性も……? そうなると、皓さんは実の姉と姪というふたりの人生を変えてしまうことになるわけですね。

かほりさん
「あっそうだ。このブレーキパッド、あげる。1回しか使ってないから」

皓さん
「えっ、いいの? ありがとう」


湯浅さんの595 Competizione。インパネに3つ並ぶスイッチはトリコローレにアレンジ(左)。工具類も女性にも使いやすい愛着の湧くアイテムで揃えている(右)。

姉弟なのか気の合う友達同士なのか。端で会話を聞いてるだけだと判断しにくいのですが、間違いなくいい関係であることはわかります。その間柄をアバルトが強力にチューンナップしてることも察せられます。何だかとても羨ましいですね。

文 嶋田智之

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