アバルトと着物はマストアイテム アバルトライフFile.23 藤井さんとアバルト 595 コンペティツィオーネ

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黄色いボディに赤耳、赤いホイール、ブレンボの赤いキャリパー。アバルトのエンブレムの色合いをそのまま再現したかのような鮮やかなアバルト 595 コンペティツィオーネをいなせな着物姿で駆るのは、藤井陽子さん。訪問診療を専門とするお医者さんです。

仕事のあとに気持ちをリセット

「周りからどんなにミスマッチと思われても、私、全然構わないんですよ。好きなクルマに好きな着物を着て乗る。それが気持ちいいんですから(笑)」

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595 コンペティツィオーネ オーナーの藤井陽子さん。感じのいい笑顔と着物がよくお似合いです。

藤井さんはそんなふうに終始明るいトーンでお話してくださったのですが、仕事のことを訊ねると、明るいばかりでないことが察せられました。藤井さんが診療をされてきたのは、離島をはじめとしてほとんどが医療過疎といえる地域。現在も日々、患者さんのご自宅や施設などを訪問して診療にあたっています。患者さんをご自宅で看取ることもあるそうです。

「訪問先でたくさんの方たちを看取ってきましたから、日常といえば日常。でも、慣れてしまってはいけない。患者さんや家族の方々にとってみれば、大変な出来事です。寄り添う気持ちは大切にしたい。でも、多くの医師がそうだと思うんですけど、そのひとつひとつに引っ張られてしまうと身体がもたなくなってしまう。バランスを保つのが難しいという部分はありますね。病院と訪問診療では患者さんのバックグランドの見え方が全然違いますから、なおさら」

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藤井さんは患者さんの自宅などに出向いて診察を行う訪問医療がお仕事。これまでにいくつかの地域をまわり、多くの患者さんと接してこられました。

さらに訪問医療では、設備が何もない状態であらゆることを判断しなければなりません。
「この患者さんはご自宅にいていいのか、それとも入院が必要か。その見極めを聴診器ひとつ、あとは見たり聞いたり触れたりで判断しなければならない。ものすごく神経をつかうのは確かですね。医師は誰にも責任を負わせられません。それでも、どんなに手をつくしても快方に向かえない患者さんもいる。どこかにドライな自分がいると思ってはいますけど、でも私も人間ですから……」

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595 コンペティツィオーネは施設までの通勤には使いますが、患者さんを訪問するときには施設のクルマで移動します。帰宅時にアバルトに乗り換えると、気持ちがリセットできるそうです。
※運転時はドライビング用シューズを着用しています。

藤井さんはそうした諸々に対して “ストレス”という言葉を一度も使いませんでしたが、その精神的負担、肉体的負担をどうかわしていらっしゃるのでしょう。
「アバルトに発散してもらってます。5分も走ればしっかり気分転換できますからね。仕事が終わって家に帰ったからといって、あるいは休みの日だからといってパチンとスイッチを切り替えられるような仕事じゃないので、頭の中のどこかで“あの人の状態はどうかな”とか考えてるところもあるんです。でも、アバルトの姿を見ると嬉しくなるし、走らせると、無心になれるとはいいませんけど、気持ちをリセットできるんです。前にもいいましたけど、そういうときには窓を全開にして“私のクルマ、すごい音だろー!”って(笑)。かなりスッキリしますよ」

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窓を開けて鳴り響くレコードモンツァのサウンドを聞きながら走行する機会が多いようです。
※運転時はドライビング用シューズを着用しています。

音を聞いたとき“これだ!”と

藤井さんの595 コンペティツィオーネは、マニュアルトランスミッション。免許をとってから、マニュアル一筋なのだそうです。

「私が免許をとった頃は、マニュアル車のほうが燃費がよかったんですよ。私、苦学生でしたから燃費はすごく重要だったんです。母と女ばかり5人の姉妹で、私は2番目。姉は早く嫁に行って母は運転をしないので、私が家族の運転手でした。だからクルマは1台目も2台目も、マニュアルのセダン。その頃にはすでに、やっぱりクルマはマニュアルだな、自分で運転してる感覚があるのがいいな、と思っていましたね。ただ、自分だけのためにクルマを買うのならもっと小さいクルマがいいとは思いながら、車種へのこだわりみたいなものはまったくなかったんですよ」

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藤井さんの595 コンペティツィーネは左ハンドルのマニュアル車。免許を取ってからマニュアル車ばかりを乗り継いでこられたそうです。
※運転時はドライビング用シューズを着用しています。

そして仕事をはじめて実家を出てから手に入れた国産のホットハッチで小さくてキビキビ動くクルマのおもしろさを覚え、次に新車として初めて手に入れた高性能ハッチバックでターボラグも楽しみながら走れるようになったのだそうです。ちょうど陸の孤島のような地域で仕事をしていた頃。周りに峠道がたくさんあって、そういうところ走る楽しさに目覚めたのだとか。そしてオープンスポーツカーを増車し、オドメーターが9万キロを越えた高性能ハッチバックの代わりにやってきたのが、595 コンペティツィオーネ。2017年のことでした。

「それまでアバルトのことはまったく知りませんでした。それなのにアバルトのディーラーに行ったのは、自分のオープンカーのイタリア版が出たって聞いて、アバルト 124 スパイダーを見てみたかったからなんです。ただ、試乗もさせてもらったんですけど、買い替える気持ちにまではなれなかったんですよ。そのときに初めて595をちゃんと見たのだったと思います。それで後日、カタログを見ていて、小さいのにかなりパワーがあって面白そうだなと考えたり、高速道路で私を抜いていった595を見てものすごく速いなぁと思ったりして、興味が湧いて試乗しに行きました。そしたら小さいくせに力があるし、楽しいし。これならかなり気に入っていたハッチバックの代わりになるかな、と思ったんです。レコードモンツァの音にも惹かれました。“これだ!”って(笑)」

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595 コンペティツィオーネに標準で備わるスポーツエキゾーストシステム「レコードモンツァ」。その音を聞いたときに、ピンと来るものを感じたそうです。
※運転時はドライビング用シューズを着用しています。

スピードを出さずとも楽しめる

けれど、オーダーまでにはその後3回ショールームに通ってジックリ見たり試乗したりするほど、悩まれたそうです。

「輸入車、それもイタリア車は、自分にとって気持ちの上でハードルが高かったんです。でもね、見れば見るほどかわいいんですよ(笑)。見てるだけで嬉しくなるし、コクピットに収まってるだけでワクワクするんですよ。どんどんどんどん気分が盛り上がって、決めちゃいました」

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そうして手に入れた595 コンペティツィオーネ。藤井さんはどんなふうに楽しまれているのでしょうか。

「通勤に使ったり、休みの日にドライブしたり、旅行に乗って出たり。ごくごく普通ですよ。アバルトってこんなにかわいいのにものすごく迫力があるっていうそのギャップが魅力のひとつですけど、でも私、エンジン全然回さないんです(笑)。あまりスピードも出さない。ポテンシャルをまったく引き出してないんですね。ガンガン走る人の方が多いのでしょうけど、流して走るのだってとても気持ちがいい。回転を上げないで走るときにはブロロロロっていう音にもうひとつヒューンって音が重なって、それが好き。本当にどこをどう走っていても楽しいです。だからちょっと出掛けただけのつもりが、とんでもなく遠回りして帰ってきたりとか、結構ありますよ。それに、どこに停まっていても不似合いじゃないところもいいですね。高級なイタリアンレストランの前でも素敵だし、ラーメン屋さんの前にあってもかわいいと思う。エレガントにも使えるし、カジュアルにも使えるし。そんなふうにどこにでも乗っていけるクルマでこんなにスッキリ気分転換できるクルマは、他にないんじゃないかと思いますね」

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個性的でありながら、どこにでも乗っていける気軽さが愛車のお気に入りのポイントのひとつのようです。
※運転時はドライビング用シューズを着用しています。

周りからの目は気にしない

最後に、藤井さんにとってアバルトはどんな存在なのかを訊ねてみました。

「着物もそうだし、クルマもそうですけど、それを手に入れることができたというのは、自分にとってものすごく大きな励みなんです。独り立ちをしていて職業は医師で、贅沢にもひとりでクルマを2台も持っていて1台は輸入車で……なのですから、穿った見方をされることもありますよね。でも、周りからどんなふうに思われても構わないんですけど、実際には全然そういうのではないんです。人様にお話しするようなことじゃないですけど、私はここまで決して順調に来たわけじゃなくて、いろいろな意味で本当に苦しかった時期もあったんです。医師を続けていくのがきつい、辛いと感じたことは何度もありますよ。だから、こういうことができるぐらい頑張ってきたんだ、それを維持できるようにこれからも頑張るぞ、ってモチベーションを強く支えてくれる、ありがたい存在。それが私にとってのアバルトです。自分の心をいい状態に保つために、なくてはならない大切な存在なんです」

文 嶋田智之