ABARTH DAYS 2020を彩ったクラシケモデル PART.2

先月に引き続き、2020年11月7日に開かれたABARTH DAYS 2020内の「アバルト ミュージアム」を彩ったクラシック・アバルトを紹介しよう。展示された車輌は、クラブ・アバルト・ジアッポネのメンバーが所有する、アバルトの歴史を後世に伝える貴重な車両ばかり。素晴らしいコンディションに保たれた名車たちを順に見ていこう。

1963年フィアット・アバルト1000ビアルベーロ

アバルトのレーシングGTは、1960年に送り出された「フィアット・アバルト 1000ビアルベーロ」でさらなる高みに達する。ヨーロッパ各地で開催されるレースに参戦し、数多くの勝利を掴んでいったのである。しかし常に上を目指すアバルトは、それでも改良の手を緩めることはなかった。


1963年フィアット・アバルト1000ビアルベーロ

1963シーズンに向けて用意された「フィアット・アバルト 1000ビアルベーロ」は、エンジンの高出力化を果たすなど、より戦闘力を高めただけではなく、空力特性に優れた魅力的なスタイリングに変化を遂げたのである。

なかでも特徴的なのが、当時のレーシングマシンの最新空力テクノロジーだった「ダックテール」を採用したことである。エンジンフードの後端をダウンフォースの獲得と車両後面の気流を整えるために跳ね上げたもので、その形状がアヒルの尻尾のように見えることからダックテールと呼ばれた。


この1963年モデルから当時トレンドだったエンジンフードの端を跳ね上げたダックテールが採用された。

リアに搭載されるビアルベーロ(DOHC)エンジンは、982ccの排気量から当時としては驚異的といえる102HPを発生。欧米の1000ccクラスで競われるレースでライバルを圧倒する強さを見せつけた。なお当時は750cc以下、850cc以下のクラスも存在したため、排気量を縮小した750cc版と850cc版のビアルベーロ・エンジンも製作されている。


ティーポ229ビアルベーロ・エンジンは、インテークマニフォールドがシリンダーヘット上面中央に位置するのが特徴。最高出力は102HPに達した。

ビアルベーロ・シリーズは、国際スポーツカー選手権ではGTディビジョン1の750cc以下、850cc以下、1000cc以下の3クラスを完全制覇する快挙を成し遂げ、1963年には、ワールドチャンピオンに輝いた。


ダッシュにはエンジンの状態をドライバーに伝えるメーターのみが備わる。室内はタイトに見えるが大柄のドライバーでも楽に乗ることができた。

ここで紹介する1000ビアルベーロは、当時日本でアバルトの輸入総代理店だった山田輪盛館によって新車で日本に輸入された2台の内の1台である。1965年7月に船橋サーキットのオープンを記念して開かれた全日本自動車クラブ対抗選手権レース(CCC)のGT-1レースに立原義次選手のドライブで出走した個体そのもので、日本のレース史を語る上で欠かせぬ貴重な1台だ。

1964年フィアット・アバルト1000ビアルベーロ・ロングノーズ

GT 1000ccクラスで無敵の存在となったフィアット・アバルト1000 ビアルベーロは1962年にワールド・マニュファクチャラーズ選手権のディビジョン1のタイトルを勝ち取ったが、アバルトの猛進はその後も続いた。

フィアット・アバルト1000 ビアルベーロ・シリーズの最終進化型として送り出されたのが「ロングノーズ」である。ノーズは空気抵抗を低減させるために前年型に比べて長く低くされ、レース中にメカニックの整備性を高めるため、フェンダーと一体で前方に開くFRP製とされた。


1964年フィアット・アバルト1000ビアルベーロ・ロングノーズ

エンジンはおなじみの排気量982ccのビアルベーロ・ユニットだが、ツイン・イグニッションを採用し各部をより突き詰めた結果、最高出力は104HPまで高められ、最高速度は218km/hをマークした。このほか前後でタイヤサイズを変え(F:4.50×13/R:5.00×13)、このワイドなタイヤが組み込めるようにリアフェンダーを拡大するなどして戦闘力を高めていた。


リアに搭載されるビアルベーロ・ユニットは982ccの排気量から104HPの最高出力をマークした。

ロングノーズのプロトタイプは1963年9月のニュルブルクリンク500kmでデビュー・ウインを飾り、この年のワールド・マニュファクチャラーズ選手権のディビジョン1で2年連続となるタイトルの獲得に貢献した。


スパルタンなインテリア。ドライバーの正面に大径のレブカウンターが配置され、その両側に4つのゲージを備えていた。

しかし1964年から国際スポーツカー・レースのクラス分けが変更されてしまう。それまでGTディビジョン1は750cc、850cc、1000cc、GTディビジョン2は1300cc、1600cc、2000cc、GTディビジョン3は2000cc以上と細かく分けられていた。これが1964年からはGTディビジョン1は1300cc以下、GTディビジョン2が2000cc以下、GTディビジョン3は2000cc以上とシンプルになり、1000ccクラスが消滅してしまったのである。

こうして闘いの場が消えてしまったフィアット・アバルト1000ビアルベーロは、国際レースでの活躍にピリオドを打ち、欧州内やイタリア国内のレースに闘いの場を移すこととなった。


1000ビアルベーロ・ロングノーズがキャリアカーから降ろされる時のショット。ダックテールの美しいラインや、拡幅されたリアフェンダーがよくわかる。

展示されたフィアット・アバルト1000ビアルベーロ・ロングノーズは、新車以上といえるほど完璧なコンディションに保たれていた。アバルトにとって最後の1000ccGTマシンらしい機能を突き詰めた美しいスタイリングは、来場者から熱い視線を集めていた。

1967年フィアット・アバルト1000SP

常に挑戦を続けたカルロ・アバルトは、最高峰カテゴリーであるスポーツプロトタイプクラスへのチャレンジも行った。幾多の試作を重ね1966年に送り出されたのがフィアット・アバルト1000SP(スポーツ・プロトティーポ)である。鋼管スペースフレームを基本とし、長らくリアエンジン・レイアウトを守ってきたアバルトの流儀から転じ、重量配分に優れるミッドシップ・レイアウトを採用した点が特徴となる。


1967年フィアット・アバルト1000SP

スタイリングは低くワイドなものだったが、不釣り合いに大きなウインドスクリーンは、当時の車両規定で定められた寸法をクリアするためこの大きさになったもの。

ボディサイズは全長3445mm×全幅1625mm×全高930mmとコンパクトで、ホイールベースはミッドシップ・レイアウトでギヤボックスをエンジンの後ろに配置したことから2200mmに延長された。


アバルトが初めて本格的に製作したミッドシップのスポーツプロトタイプ・マシンが1000SPだ。低くワイドな姿はパフォーマンスの高さを跨示する。

ミッドに搭載されたエンジンは、982cc 4気筒DOHCビアルベーロ・ユニットの発展型で、圧縮比を10.5:1に高め、ウェーバー40DCOEキャブレターを2基装着。最高出力は当時の1000ccクラスのレーシングモデルとしては驚異的な105HP/8000rpmを発揮した。トランスミッションは5速マニュアルを組み合わせた。車両重量は480kgと超軽量で、最高速度は220km/hに達した。


ミッドに搭載されたティーポ229ビアルベーロ・ユニットは105HPを発揮した。

1000SPは、デビュー以来スプリントレースはもちろん、持ち前のタフネスさを生かして耐久レースでも数多くの栄光を勝ち取る。このほかヒルクライムでも大活躍し、アバルト栄光の記録の更新に貢献した。


必要なものだけを備えた1000SPのコクピット。

「アバルト・ミュージアム」に展示されたフィアット・アバルト1000 SPは、以前にイタリアの愛好家に所有されヒストリックカーレースで活躍していた個体。近年日本のアバルト愛好家が入手し、イタリア時代の姿をそのまま保っている。フレームからアバルトが製作した本格的レーシングマシンだけに存在感は半端なく、来場者はそこにアバルトの挑戦に掛ける意気込みの強さを感じたのではないだろうか。

1969年フィアット・アバルト695 SS アセットコルサ

現在のアバルトで特別なモデルに与えられる栄光の名称が「695」だ。「トリブート・フェラーリ」や「ビポスト」「セッタンタ・アニヴェルサーリオ」と展開されていることはアバルト・オーナーならご存じのことだろう。

これら「695」の起源となるのが1964年にデビューした「フィアット・アバルト695」だ。こちらもフィアット500をベースにし、アバルトによるチューニングにより極めてホットな仕立てとされていた。


1969年フィアット・アバルト695 SS アセットコルサ

アバルトはそれ以前にフィアット500Dをベースとするフィアット・アバルト595を送り出していたが、695が製作されたのには理由があった。当時のツーリングカーレースには700cc以下のクラスがあり、このクラスを制するために「695」が用意されたのである。

アバルトは排気量を689.548ccに設定し、圧縮比を8.5:1まで高め、ソレックス28PBキャブレターを組み合わせてノーマル版で30HPを発生。高出力版のSS(エッセ・エッセ)では圧縮比を9.8:1まで高め、ソレックス34PBICキャブレターを装着し、最高出力はベースとなったフィアット500Dの倍以上となる38HPをマークした。

1965年9月にはレース用の695 SSアセット・コルサ(イタリア語でレース用セットの意)を追加。このアセット・コルサはトレッドを拡大し、10インチ径で幅広のワイドホイールを採用。オーバーフェンダーを備えコーナリング性能を高めていた。


トレッドが拡大され10インチ径のワイドなホイールが採用されたことから、前後のフェンダーは大きく張り出されたのが695 SS アセットコルサの外観の特徴。

こうして695 SSアセット・コルサは、イタリアを始めとするヨーロッパ各国のツーリングカーレースの700cc以下クラスで大活躍し、数多くの栄光をトリノに持ち帰った。一足先にデビューしたフィアット・アバルト595も600cc以下クラスで王者の座を確立していた。

フィアット・アバルト695は“最速の小型車”としての評価を確立する。誕生から50余年が経過した今でもアバルト・ファンにとって極みの1台として支持され続けている。展示された695 SS アセットコルサはフルレストアが施され、新車と見紛う完璧なコンディションが保たれていた。

ABARTH DAYS 2020を彩ったクラシケモデル PART.1

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