1963 FIAT ABARTH 1000 BIALBERO|アバルトの歴史を刻んだモデル No.049

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1963 FIAT ABARTH 1000 BIALBERO
フィアット・アバルト 1000ビアルベーロ

究極の1000ccレーシングGT

アバルトの歴史を語るうえで欠かせないキーワードのひとつが「ビアルベーロ」だ。日本では聞きなれない用語だが、DOHCエンジンを示すもので、英語圏で使われているツインカムをイタリア語で表現するとビアルベーロとなる。補足すると「ビ」は2を表わし、「ABARTH 695 BIPOSTO(ビポスト)」の場合ではビ(2)+ポスト(席)で2シーターの意となる。「アルベーロ」はシャフトのことで、ビアルベーロは“2本のカムシャフト”を持つことを示している。

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ビアルベーロの所以といえるのが、ジョアッキーノ・コロンボが開発したDOHCエンジン。982ccの排気量から102HPを発生し、最高速度は218km/hに達した。

アバルトは1950年代後半、フィアット 600のOHVエンジンをベースに高度なチューニングを行っていた。しかし、さらなる高出力を得るためには量産車用のOHVシリンダーヘッドでは限界に達していた。そこで開発されたのが吸気用と排気用のカムシャフトを別々に備えるビアルベーロ エンジンである。吸気と排気のバルブタイミングを最も効率よくセッティングできることに加え、OHVシリンダーヘッドでは効率の悪いターンフロー式燃焼室を理想的な燃焼室形状に改めることで、高出力を実現できたのである。

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フロントセクションは燃料タンクがほとんどを占める。前端にラジエーターが配置され、冷却風はフロア下へと導かれる。

アバルトで最初にビアルベーロ エンジンを採用したのは1957年に製作された速度記録挑戦用のフィアット・アバルト 750レコードで、開発はアルファ ロメオやフェラーリで名機といえる数多くのエンジンを手掛けてきたジョアッキーノ・コロンボが担当した。カムシャフトはダブルチェーン駆動で、バルブ挟角40°の燃焼室を採用していた。

それまでのOHVエンジンでは43HPが精いっぱいだったのが、ビアルベーロ エンジンでは最高出力を57HPまで高めることができ、新たな世界記録を樹立することに貢献した。

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アバルトのエッセンスが凝縮されたメーターナセル。回転計を中心に各種ゲージを左右に配したデザインはいま見ても十分魅力的。

レコードカーで使われたビアルベーロ エンジンは、その後レーシングGTにデチューンして搭載された。そのモデルは、モンツァサーキットで記録を樹立したことにちなみ、「レコード モンツァ」と名付けられた。そして当時のレースのクラス分けに応じて、その後850ccと1000ccのビアルベーロ エンジンが製作され、参加するレースに合わせて使い分けられることになる。

進化を続けるアバルトのレーシングGTは、1961年に送り出された「フィアット・アバルト 1000ビアルベーロ」で高みに達する。最初に発表された1000ビアルベーロは旧来の流れを引き継ぐ丸いリアエンドが採用されていたことから、愛好家の間では「ラウンドテール タイプ」と呼ばれている。

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フィアット・アバルト 1000ビアルベーロの外観における最大の特徴は、エンジンフードの後端が反り返ったデザイン。これはダックテール タイプと呼ばれる。流麗なスタイリングを備えながら全長は3500mmに満たず、現在の軽自動車とほぼ変わらない大きさであることに驚かされる。

1000ビアルベーロは、その後も進化を遂げていった。1962年モデルではラウンドテールのままエンジンフードの後端が反り返ったダックテール形状により、リアスポイラーの効果が追求された。これは同時期のフェラーリ250GTOにも採用されていた空力を意識した最先端の造型だった。

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1963年にフィアット・アバルト 1000ビアルベーロは完成形に達する。コンパクトで引き締まったスタイリングはアバルトのデザイン力が昇華したもの。

1963年になると1000ビアルベーロはいよいよ完成の域に到達する。スタイリングはより洗練され、シリーズの中でもっとも高い評価を得るに至った。ちなみに引き締まったそのモダンなスタイリングはアバルト社内でデザインされ、トリノのベッカリスで製作されたもの。なお、同モデルは翌年に登場する1000ビアルベーロ・ロングノーズと区別するため、後に「ショートノーズ」という愛称で呼ばれた。

1963年モデルのリアに搭載されるビアルベーロ エンジンは、982ccの排気量から当時としては驚異的といえる102HPを発生。欧米のレースでは1000ccクラスのライバルを圧倒する活躍を見せた。

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この時代のアバルトに欠かせぬアイテムといえるカンパニョーロ製エレクトロン(マグネシウム合金)ホイール。デザインは、いわゆるアバルトパターンを採用している。

ここで紹介する1000ビアルベーロは、当時日本でアバルトの輸入総代理店だった山田輪盛館によって新車で日本に輸入された2台の内の1台である。1965年7月に船橋サーキットのオープンを記念して開かれた全日本自動車クラブ対抗選手権レース(CCC)のGT-1レースに立原義次のドライブで出走したものだ。

全日本自動車クラブ対抗選手権レースが始まると、ポールポジョンからスタートした生沢 徹のホンダS600を抜き去りトップを走行する快挙を見せながら、惜しくもエンジントラブルでリタイアしたが、日本でレーシングヒストリーを持つ貴重な個体だ。

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ザガートタイプを発展させたバケットシートは、コンパクトだがサポート性は良い。

レース引退後は熱烈なアバルト愛好家の元でベストコンディションに保たれ、2019年11月に富士スピードウェイで行われたABARTH DAYS 2019にも姿を見せた。流麗なスタイリングと豪快なエキゾーストサウンドを披露したので、目にされた方も多いことだろう。

1963 FIAT ABARTH 1000 BIALBERO

全長:3480mm
全幅:1410mm
全高:1165mm
ホイールベース:2000mm
車両重量:570kg
エンジン形式:水冷直列4気筒DOHC
総排気量:982cc
最高出力:102HP/7000rpm
変速機:4段マニュアル
タイヤ:135R13
最高速度:218km/h