2007 ABARTH GRANDE PUNTO|アバルトの歴史を刻んだモデル No.050

2007 ABARTH GRANDE PUNTO
アバルト・グランデプント

復活したアバルトの最初の一歩

上り調子だった1950年代、そして60年代に黄金期を迎えたアバルト。1971年10月にフィアットブランドの傘下に入ることになり、モータースポーツでの数々の栄冠と高性能スポーツモデルを生み出してきたノウハウは新体制のもと、スポーツモデルの開発やラリー車両の製作に生かされることとなった。その後、「フィアット・アバルト124ラリー」や、1977年、1978年、1980年にWRCコンストラクターズタイトルを獲得した「フィアット131アバルト・ラリー」が彼らの手により生み出され、フィアットグループの栄光に貢献した。

ところが1981年9月30日をもって、アバルトはフィアット・アウト社(Fiat Auto SpA)に統合され、アバルトのブランド名は姿を消すこととなる。アバルトの開発チームは、グループ内でモータースポーツ活動を行う精鋭チームという位置づけで車両開発に関与し、世界スポーツカー選手権に向けた「ランチアLC1/LC2」の開発や、世界ラリー選手権(WRC)向けの「ランチア ラリー」および「ランチア デルタS4」「ランチア デルタ インテグラ―レ」を生み出した。その後ドイツ・ツーリングカー選手権(DTM)向けの「アルファ ロメオ155 V6 TI」をリリースし、過日のアバルトと同様に数多くの勝利やワールドチャンピオンを勝ち取る活躍を見せた。

アバルト グランデプントのエンブレム。デザインは往年のデザインを受け継ぐが、モダナイズされたものが使われ、新時代のアバルトの幕開けを印象付けた。

アバルトの血を色濃く残したモータースポーツ部門は、1997年にフィアット・アウト・コルセに統合され、その活動にピリオドが打たれる。2001年にラリー用のプント・アバルト・ラリーが登場するが、そのモデルはアバルトの名が付けられていたものの、製作したのはグループ内の別部隊であるNテクノロジーだった。

アバルトの復活

こうしてアバルトの名は完全に絶えてしまったかと思われたが、2007年2月にアバルト復活が公式にアナウンスされる。3月にはジュネーブ・モーターショーにアバルトとして出展し、ブースにはラリーで活躍していた「グランデプント S2000アバルト」を展示。サソリの復活が予告された。

復活したアバルトの最初のモデルとなったアバルト グランデプント。アバルトらしいスポーティで精悍な雰囲気を漂わせた。

こうしてクルマ好きの間でアバルトが蘇ることへの期待が高まるなか、2007年10月に新生アバルト初の市販モデルとして「アバルト グランデプント」が姿を現す。往年のアバルト同様にフィアットの量産モデルであるグランデプントをベースに、アバルトが独自のチューニングを施したもので、ベース車に対して、高性能化とデザイン変更が施されていた。またサソリを配したエンブレムはリデザインされつつも、基本的なモチーフは受け継がれた。


余談だが、ベースとなったグランデプントの歴史を遡るとプント、ウーノ、127を経てフィアット 850に辿り着く。当時のアバルトはフィアット850をベースにしたOT850やOT1000、OT1300を送り出して成功を収めたことを鑑みると、アバルト グランデプントはその命名法ではOT1400という車名が与えられてもおかしくない存在である。

アバルト グランデプントのエンジン。1368ccの排気量はそのままに、DOHC16バルブヘッドとIHI製ターボチャージャーを組み合わせ、ベース車に比べて倍以上となる155psを発生した。

それではアバルト グランデプントの各部を見ていこう。日本に導入されたフィアット グランデプントのベースグレードに搭載されたエンジンは、自然吸気SOHC8バルブを持ち、1368ccの排気量から77psを発揮していた。一方、アバルト版では排気量は変わらないものの、DOHC16バルブヘッドとIHI固定ジオメトリー・ターボチャージャーが与えられ、アバルトによるさらなるチューンを得たそのエンジンは、ノーマルに比べて倍以上となる最高出力155psを発揮。そこに6段マニュアルギアボックスが組み合わされ、0-100km/h 加速が8.2秒、最高速度は208km /hとアバルトの名にふさわしいパフォーマンスが与えられた。またダッシュボード中央にある「SPORT BOOST」ボタンを押せば、「パワーブースト」モードに切り替り、最大トルクが23.5kgm/3000rpと10%以上も増大させるとともに、電動パワーステアリングのアシスト量を減らすという隠し球も用意されていた。

ベース車は175/65R15だったタイヤはパワーアップにあわせ、215/45R17へとアップグレードされた。

エクステリアもアバルトらしいマニアックな仕立てとされた。フロントスポイラーは冷却効率を高めるため、左右のインテークを拡大した専用タイプが組み込まれた。ボディサイドにはアバルト595/695でおなじみだったストライプが出自を主張。レッドにペイントされたドアミラーはアバルトらしいアクセントとなり、ルーフスポイラーも追加された。さらにディフューザーが組み込まれたリアスカートからのぞくエキゾーストパイプは、往年のアバルトと同様にデュアルタイプとされた。もちろんボディの随所にサソリのエンブレムが取り付けられるのは従来通りの手法だ。

リアスカートからのぞく伝統のデュアルタイプのエキゾーストパイプ。パフォーマンスアップをさりげなく主張した。

インテリアにも、熱い走りを支える装備が用意されていた。サイドサポート性が高められたスポーツタイプシートを始め、レッドステッチが施されたブラックレザーのステアリングホイールとシフトレバーが雰囲気を盛り上げた。さらに確実なペダルワークを助けるアルミ製のスポーツペダルが組み込まれるなど、こだわりは細部にまで及ぶ。

インテリアもアバルトらしい刺激的な仕立てとされた。ダッシュ中央の「SPORT BOOST」ボタンを押せば最大トルクを10%以上増大させることができる。

こうして送り出されたアバルト グランデプントは、サソリのエンブレムにふさわしい刺激的で痛快な走りにより世界中で好評をもって迎えられ、現在にいたるアバルトのサクセスストーリーの起点となった。日本では2009年2月に導入され、復活を待ち望んでいたファンはもちろんのこと、本物を知るクルマ好きから絶大な支持を得て、アバルトはパフォーマンスを象徴するブランドとして定着していった。


2008 ABARTH GRANDE PUNTO

全長:4060mm
全幅:1725mm
全高:1480mm
ホイールベース:2510mm
車両重量:1240kg
エンジン形式:水冷直列4気筒DOHC+インタークーラ一付ターボチャージャー
総排気量:1368cc
最高出力:155ps/5500rpm
変速機:6段マニュアル
タイヤ:215/45R17
最高速度:208km/h