2010 ABARTH PUNTO EVO|アバルトの歴史を刻んだモデル No.057

2010 ABARTH PUNTO EVO
アバルト・プント エヴォ

復活アバルトの幕開けはグランデプントから

1971年にフィアットグループ入りしたアバルトはその後、量産モデルをもとに、競技ベース車両となる124 アバルトや131 アバルト ラリーを手掛けた。市販車では、1980年代にフィアット・リトモをベースにサソリの毒を注入したリトモ・アバルト125 TCならびに130TC、アウトビアンキA112アバルトを送り出し、姿を消すこととなる。以降はグループ内のランチアやアルファ ロメオの競技車の開発を担当し、輝かしい記録に貢献した。

アバルトのブランド名が消えた後、愛好家はアバルトの末裔といえるレーシングモデルに過去の栄光を重ねて偲んだ。ところが2007年に、フィアット社の新たな戦略によりアバルトは独立したメーカーとして復活を遂げ、新たな歴史をスタートした。


復活アバルトの第一弾となったグランデプントの進化版プント エヴォのリアビュー。オーバーフェンダーやサイドスカートはボディ同色となり、リヤスカートにはブラックのガーニッシュとアンダー・ディフューザーが追加された。

新生アバルトが最初に送り出した市販車は、本連載でも紹介したアバルト・グランデプントだ。2007年にデビューするや世界中で大きな反響を呼び、日本でも復活を待ち望んでいたファンはもちろんのこと、本物を知るクルマ好きからも高い評価を得たのである。

プント エヴォへの進化

2009年の秋に開かれたフランクフルト・モーターショーでベース車のフィアット・グランデプントにマイナーチェンジが施され、プント エヴォへと進化する。車名のエヴォ(EVO)は、テクノロジー、ドライバビリティ、環境性能が進化したことを意味していた。ベースモデルがマイナーチェンジされたことに伴い、2010年にそれをベースとしたアバルト・プント エヴォが登場する。外から見ると単なるフェイスリフトのためのマイナーチェンジに見えるが、そこはアバルト。最新のテクノロジーを取り入れてパフォーマンスを高めていたのである。なお日本では2010年10月に販売が開始された。


プント エヴォのインテリア。ブラックで統一され、精悍なイメージでまとめられていた。

最大の変更点は、最新のDOHC直列4気筒1.4リッター・マルチエア・エンジンを搭載したことにある。フィアット・パワートレーン・テクノロジーが開発した新世代エンジンで、2010年の「エンジン・オブ・イヤー」に選ばれた実力派だ。このマルチエア・ユニットは吸気を制御するスロットルバルブが廃されたことがニュース。アクセルの踏み込み量に応じて電子制御された油圧リフターがバルブの開閉タイミングとリフト量を最適にコントロール。これにより燃焼効率を高め、従来のエンジンに比べ出力とトルクを向上させ、消費燃料を低減させた。


最大の変更点といえるのがマルチエア・エンジンの採用。吸気バルブを電子制御した油圧リフターが開閉タイミングとリフト量を最適にコントロールする。排気側は通常のカムシャフトで作動する。

ここにギャレット製ジオメトリーターボにインタークーラーを組み合わせ、最高出力はグランデプントの155psから8ps増となる163psを発生。最大トルクはノーマルモードで前モデルより3.0kgm高い23.5kgm/2250rpmをマークし、シフトレバーの前側に設けられたモードスイッチを「スポーツ」に切り替えるとECUのマッピングが切り替わり、最大トルクは25.5kgmに向上した。


シートは形状こそ変わらないがトラッドなデザインに変更された。

もうひとつ注目したいのはアバルトとして初めて、アイドリングストップ機能「スタート&ストップシステム」が搭載されたこと。燃焼効率を高めたことと相まって燃費は欧州複合モードで16.6km/Lをマークし、CO2排出量は142g/kmに抑えられ、排出ガスはユーロ5規定をクリアする優れた環境性能を確保した。

組み合わせられるトランスミッションは6段マニュアルのみの設定で、大パワーを確実に前輪に伝えるためにTTC(トルク・トランスファー・コントロール)を標準で装備した。


シフトレバーの前側に設けられたモードスイッチを「スポーツ」に切り替えると、最大トルクは25.5kgmに向上する。

足回りはスポーツチューンサスペンションで強化し、ブレーキはフロントにブレンボ製4ポッドキャリバーが備わる。あわせてボディ剛性も高められ、シャープなステアリングフィールと的確に動く脚により、優れた操安性を実現していた。


ホイールはサイズこそ変わらないがY字型スポークの新デザインに変更された。

このように各部のアップグレードにより、0-100km/h加速タイムはグランデプントから0.3秒短縮した7.9秒をマークし、最高速度は213km/hを達成。アバルトの名にふさわしいパフォーマンスを誇った。


アバルト・プント エヴォの日本版カタログ。サイズはA5判(210mm×148mm)と小ぶりだが、24ページの充実した内容だった。

エクステリアはより高性能を主張するデザインに変更され、エアインテークやリヤスカートにはディフューザーが設けられ、精悍さを増した。ホイールも新デザインに変更されている。

インテリアはデザインが一新された。グランデプントはインストルメントパネルの下半分がボディカラーと同色だったが、プント エヴォではGTカーを思わせるブラックで統一されたクールな空間とされた。一方、メーターのデザインは一般的なものとなり、スポーツシートはトラッドなデザインに改められ落ち着いた雰囲気を漂わした。


アバルト・プント エヴォにも最高出力を180psにパワーアップすると共に、各部をアップグレードするエッセエッセKONIキットが用意された。

また2011年になるとグランデプント同様に180psを発生する「エッセエッセKONIキット」が用意された。このキットはエンジンとブレーキ、18インチホイールなどに加え、KONI製FSDショックアブソーバーとコイルスプリングをセットにしたもので、トータルでハイパワーに対応する内容だった。

このようにアバルト・プント エヴォは、見た目だけでは分からない本質的な部分に、アバルトならではといえる長足の進化を遂げていたのである。

2010 ABARTH PUNTO EVO

全長:4080mm
全幅:1720mm
全高:1490mm
ホイールベース:2510mm
車両重量:1260kg
エンジン形式:水冷直4 DOHC+ターボ+インタークーラー
総排気量:1368cc
最高出力:163ps/5500rpm
変速機:6段+後進1段
最高速度:213km/ h
タイヤ:215/45 R17