FIAT ABARTH OT1000 COUPE|アバルトの歴史を刻んだモデル No.037
1965 FIAT ABARTH OT1000 COUPE
フィアット・アバルト OT1000 クーペ
スタイリッシュなクーペの高性能版として一躍人気に
創世記よりレースでの勝利と速度記録への挑戦を続けていたアバルト。そうしたモータースポーツ活動で得た技術や評判を受け継いだのは、フィアットを中心とする量産車をベースに開発された高性能ロードカーだった。1955年に登場したフィアット600をベースとしたチューンドモデルを皮切りに、1959年にはヌウォーバ500をベースに、手軽に買える仕様からレース用モデルまでを取り揃え、成功を収めた。またそれに続いてフィアットが1964年に送り出したフィアット850は、それまでの600をモダナイズさせたモデルだったこともあり、アバルトもすぐさまその高性能版となる「OT850」、および「OT1000ベルリーナ」を送り出し、人気を博することとなった。
さらに1965年のジュネーブモーターショーで、フィアットは850ベルリーナをベースにした、2種類のスポーツバージョンを発表した。それはファストバックのスタイリッシュなクーペと、ベルトーネがデザインした低く構える軽快なスタイルのスパイダーである。
当然、アバルトもその2台のポテンシャルに目をつけ、すぐに高性能版の開発に取り掛かった。パワートレインはすでにOT1000ベルリーナ用に開発したユニットを持っていたため開発期間の短縮が可能となり、同年9月に開かれたフランクフルトモーターショーで、早くも「OT1000クーペ」と「OT1000スパイダー」を発表した。982ccの排気量から62HPを発揮したエンジンを搭載したOT1000クーペの最高速は、155km/hを達成しており、ベースとなったフィアット850クーペの135km/hに対して、大幅な性能アップを実現していた。
エクステリアとインテリアの基本デザインはベース車と大きく変わらなかったが、アバルトらしいツボを押さえたモディファイにより魅力を増していた。なおOT1000スパイダーについては機会を改めてご紹介したい。
外観でフィアット850クーペと異なっていたのはフロントデザインで、左にアバルトのエンブレムを組み込んだ小さなグリルと「FIAT ABARTH 1000」と記されたアクリルプレートが取り付けられた。またリヤエンドには「OT」をデザインしたバッジと「FIAT ABARTH 1000」の文字が斜めにレイアウトされた。ホイールもベースとなったフィアット850クーペのものを流用していたが、センターキャップの中央には「サソリ」が配されていた。
またお決まりのチューニングとしてエンジンのオイルパンはフィンが切られたアロイ製に変えられていたほか、マフラーにはお約束といえるマルミッタ・アバルトが組み込まれ、高性能版であることが控えめにアピールされていた。
ちなみに当時の価格は、OT1000クーペは116万リラ(約67万円)。今日の目で見るととても安く思えるが、現在の物価に置き換えると約275万円と決して安くはなかった。
こうして発売されたOT1000クーペは、イタリアを始めとする各国のクルマ好きたちから絶大な支持を得て、アバルトの市販モデルの販売をけん引するモデルとなった。さらにその後、フィアット・アバルト OT1000 クーペにはふたつバリエーションが追加されている。それは、よりチューニングを高めてレースのホモロゲート用に作られたOTS1000クーぺと、新設計の「テスタ・ラディアーレ」と呼ばれる半球形シリンダーヘッドを備えるエンジンを搭載したOTR1000である。このOTR1000クーペとOTS1000クーペについては次回でご紹介したい。
1965 FIAT ABARTH OT1000 COUPE
全長:3608mm
全幅:1500mm
全高:1300mm
ホイールベース:202700mm
車両重量:730kg
エンジン形式:水冷直列4気筒OHV
総排気量:982cc
最高出力:62HP/6150rpm
変速機:4段マニュアル
タイヤ:145R13
最高速度:155km/h