1969 FIAT ABARTH 1600GT ITALDESIGN|アバルトの歴史を刻んだモデル No.046
1969 FIAT ABARTH 1600GT ITALDESIGN
フィアット・アバルト1600GT イタルデザイン
ジウジアーロのデザインによるGTカー
イタリアのデザインスタジオが本格的に活動を始めたのは、1960年代後半だった。それまではピニンファリーナに代表されるように、デザインからボディの製作までを一括して行うカロッツェリアが台頭していたが、世界的に安全基準の強化を始めとするレギュレーションが厳しくなったことから、それまでのようにオーナーの好みに合わせた特別なデザインのワンオフカーを作るのが困難になってしまったのだ。
そこでカロッツェリアはデザインスタジオとして、メーカーに様々なデザインを提案するかたちでビジネスを展開し始めた。前回ご紹介したフィアット・アバルト2000 クーペ・ピニンファリーナも、ピニンファリーナにとっては自社のデザイン力を世間にアピールする狙いもあっただろう。
1969 年の 10 月 29 日から開催されたトリノ・モーターショーでは、新興デザインスタジオ、イタルデザインが手掛けたモダンなクーペがアバルトブースに展示された。その名は「フィアット・アバルト 1600GT」。イタルデザインは1968 年に、かつてギアやベルトーネで天賦の才を発揮したジョルジェット・ジウジアーロによりデザインスタジオとしてスタートした。フィアット・アバルト 1600GTは、OT1600のシャシーをベースに、’70 年代のトレンドとなるウェッジシェイプを取り入れ、かつ現実的な 2+2クーペに仕立てたモデルだった。
注目したいのはリアエンジン・レイアウトをベースに磨き上げたそのスタイリング。リアエンジンなのはOT1600 をベースとしたためだが、そのスタイリングは後部にエンジンを搭載するクルマとは思えないスマートなもの。低いノーズから連なるラインはそのままリアまで伸び、ルーフ後端に位置するC ピラー部分のマスを大きくすることによりノーズをシャープに見せる手法を取り入れている。このあとにスーパーカーに見られるプロポーションをいち早く採用した前衛的なデザインといえるだろう。
リアエンドのデザインにもジウジアーロらしいエスプリに富んだ処理が施されていた。リアにエンジンを搭載する車はクーリングの関係からリアパネルに通風のためのグリルを設けることが多いが、この1600GT ではグリルをボディには設けず、リアウインドウ下端とバンパー下にさり気なく組み込んだ処理としていた。
一方でリアエンジン・レイアウトだけにエンジンの吸気ダクトが必要になるが、ジウジアーロはこの問題を巧妙にクリアしてみせた。それはリアクウォーターウインドウ後端に設けられたスリットをインテークにしたのである。この時期のデザイントレンドとして室内の空気を排出するためのアウトレットをリアクウォーターウインドウ後端に設けることが多かったため、視覚的にも違和感なくボディに溶け込んでいる。
トリノショーに展示された1600GTプロトタイプはOT1600で使われていたレーシングユニットがそのまま搭載されていたこともあり、1591ccの直列4気筒 DOHCエンジンは最高出力 145hp を発生し、5 速MTを介し最高速度は 240km/h を達成。当時の1600cc クラスのレベルを大きく上回るパフォーマンスを発揮した。
アバルトにとって新たな可能性を予感させるGT カーだったが、当時のイタリアは1960年代後半から始まった労働争議が年を追うごとに悪化し、企業を圧迫していた。それはアバルトでも同様だった。イタリアの経済が悪化していたこともあり、結局フィアット・アバルト1600GT はプロトタイプで終わり、生産に至ることはなかった。
1969 FIAT ABARTH 1600GT ITALDESIGN
全長:3800mm
全幅:1565mm
全高:1100mm
ホイールベース:2045mm
車両重量:674kg
エンジン形式:水冷直列4 気筒DOHC
総排気量:1592cc
最高出力:145hp/7200rpm
変速機:5 段マニュアル
最高速度:240km/h