FIAT RITMO ABARTH 130TC|アバルトの歴史を刻んだモデル No.035

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1984 FIAT RITMO ABARTH 130TC
フィアット・リトモ・アバルト130TC

アバルトの名が与えられた20世紀最後のモデル

1971年にフィアット・グループ入りしてからのアバルトは、フィアット・グループのモータースポーツ活動に向けた競技用車両の開発が主な任務となった。そのためアバルトの名を与えられた公道用の市販モデルは、これまで本連載で紹介してきたようにフィアット124アバルト・ラリーとアウトビアンキA112アバルト、フィアット131アバルト・ラリー、そしてフィアット・リトモ・アバルト125TCと意外と少ない。こうした中でアバルトの名と血筋を正当に受け継ぐ20世紀最後の市販モデルとなったのがフィアット・リトモ・アバルト130TCである。

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リトモ・アバルト 130TCのフロントデザインは丸目4灯ランプに横ライン基調のフロントグリルというオーソドックスなデザインが採用された。

ベースとなったフィアット・リトモは、フィアット128の後継モデルで、フォルクスワーゲン・ゴルフに対抗するCセグメントのモデルとして1978年にデビュー。この時代はホットハッチの人気が高く、フィアット・グループは1981年に、ゴルフGTIや各社から投入された競合車に対抗するために「リトモ・アバルト 125TC」を送り込んだのである。当時フィアット・グループの中からすでにアバルト部門は姿を消していたが、アバルトで腕を振るってきた優秀なエンジニアたちは競技車開発部門で活躍していた。フィアットもそうしたリソースを生かし、リトモの高性能版にアバルトの名を与えたのだった。

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リヤは大型テールランプの間にライセンスプレートを配した一般的なスタイルだった。リヤウインドー下の樹脂製スポイラーは125TCから受け継いだもの。

こうして送り出された「リトモ・アバルト 125TC」はイタリアン・デザインらしいスタイリッシュなホットハッチだったが、販売面ではライバルたちと競合するにはよりオーソドックスなデザインが好まれると判断された。そこでリトモは1984年モデルのマイナーチェンジを機に大々的な変更を施した。エンジンのチューニングにより最高出力を130bhpに高め、それに伴い車名も「リトモ・アバルト 130TC」へと変更した。

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ダッシュボードのデザインは一新され、メータークラスター内に速度計と回転計に加え4つのゲージが配された。ステアリングホイールはリトモ・アバルト専用の角穴があけられた3スポークタイプだった。

さらにボディは125TCと同様に3ドアハッチバックのままだったが、エクステリアは大きく変わった。125TCが丸目2灯だったのに対し、130TCでは丸目4灯ヘッドランプへと変更され、フロントグリルを設けたデザインとなった。テールランプも125TCではバンパー内に組み込まれた独創的なデザインだったが、130TCではリヤパネルに付く一般的なレイアウトに改められ、アクの強さは姿を消した。ホイールは125TCのものが流用されていたが、これも1985年モデルのマイナーチェンジの際に新デザインへと変わっている。

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ツインチョークキャブレターを2基組み込むと共に各部のチューニングにより130bhpを発揮した。今の水準で見ると絶対的な出力は低いが、パワーフィールは暴力的といえるほどだった。

エンジンは1995ccの水冷直列4気筒DOHCと基本的には125TCと同じだが、アバルトの流儀により、ツインチョークのウェーバー34DMTRの1基のみだった 125TCに対し、130TCではツインチョークのウェーバー40 DCOE145/146あるいはソレックス C40 ADDHEが2基組み込まれ130HPを発揮した。スペック的にはわずか5HPの差だが、実際に乗るとパワーフィールは大きく異なり、暴力的ともいえる迫力を手にしていた。フル加速するとトルクステアも発生することから本気に走るには相応の腕が必要だった。この頃になるとホットハッチが次第に洗練されて大人しくなっていたこともあり、リトモ・アバルト 130TCの豪快で古典的なキャラクターは、ホットハッチの愛好家から大いに支持された。

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1985年にマイナーチェンジを受けリトモ・アバルト 130TCは後期型へと進化する。フロントバンパーの形状が変わり、ラジエターグリルにはアバルトのエンブレムが誇らしげに付けられている。高性能さをアピールするためポール・リカール・サーキットで撮影されている。

エクステリアと同様にインテリアも大きく変えられていた。ダッシュボードのデザインは一新され、メータークラスター内も速度計と回転計に加え4つのゲージが配され、よりレーシーなデザインとなる。シート表皮もファブリックからブラックのビニールレザーとファブリックというスポーティなものが採用された。

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アルミホイールが前期型の4穴タイプから、後期型では繊細なデザインのホイールに変更された。ユニークなデザインのドアハンドルは125TCから受け継がれた。

日本には1984年から正規に輸入されており、当時は刺激的なモデルが少なったこともありアバルトを知るファンはもちろん、走りを愛するエンスージアストから熱烈な人気を集めた。ちなみにボディカラーはレッド、ブラック、シルバーの3色が用意され、当時の車両本体価格は297万円だった。

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130TC後期型のリヤビュー。ライセンスプレートはバンパー部分に移動し、テールランプの間にはガーニッシュパネルが組み込まれた。写真の撮影場所は地元イタリアのアウトドローモ・モンツァのストレート。

日本でも独自のポジションを獲得したフィアット・リトモ・アバルト130TC は、1985年モデルからマイナーチェンジが行われ後期モデルに変わる。パワートレインに変化はなく、エクステリア・デザインの変更が主となる。識別ポイントは左右テールランプの間に配置されていたライセンスプレートがリヤバンパー部分に移動し、元の位置にはガーニッシュパネルが取り付けられたことと、ホイールが4ホールタイプからマルチホールデザインに変更されたといった具合である。

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左は、1984年モデルのリトモ・アバルト 130TCのカタログ。A4判でオールカラー16ページ構成だった。右は、1985年モデルのリトモ・アバルト 130TC後期型のカタログ。表紙にはエンブレムが大きく配され、正当なアバルトであることを主張していた。

フィアット・リトモ・アバルト130TCは、アウトビアンキA112アバルトで走ることの楽しさを知ったオーナーたちが、次なるステップとして手にするクルマと位置づけられた。そしてそのより強力なサソリの毒はオーナーを打ちのめし、もう普通のクルマでは満足できなくなるほど強い刺激で魅了したのだった。

世界中のアバルトファンに支持されてきたフィアット・リトモ・アバルト130TCだが、1988年にフィアット・リトモの後継となるティーポが登場するより一足先に、惜しまれながらカタログから姿を消した。そしてフィアット・リトモ・アバルト130TC は、カルロ・アバルトのスピリットを直接に受け継ぐ20世紀最後のリアル・アバルトとなったのである。

1984 FIAT RITMO ABARTH 130TC

全長:4001mm
全幅:1660mm
全高:1370mm
ホイールベース:2432mm
車両重量:950kg
エンジン形式:水冷直列4気筒DOHC
総排気量:1995cc
最高出力:130bhp/5900rpm
変速機:5段マニュアル
タイヤ:185/60HR14
最高速度:190km/h