ABARTH 595に、“サーキット”を意味する限定車「Pista（ピスタ）」が追加。強烈な個性を放つこの限定車に、自動車専門メディア『AUTOCAR JAPAN』取材班が試乗。「595」に対する内外装の変更点、走りの違いをワインディングで検証した。

色変えだけの595にあらず

深みのあるボディカラー、「Blu Podio」に目を奪われてしまった。アバルトの595シリーズに魅力的な1台が登場したのである。その名も「595/595C Pista」。240台限定で日本市場に解き放たれるこのクルマは、青いボディの端々に黄色いアクセントを加えただけのコスメティックなモデルではないのだ。

2020年5月16日に発売される595/595C Pista。通常は設定のない「Blu Podio」（ブルー）のボディカラーの随所に、イエローのアクセントカラーがあしらわれる。その刺激的なカラーリングも限定車の特徴のひとつ。

595/595C Pistaが搭載する1.4Lターボエンジンはギャレット製の大径ターボとレコードモンツァ・エキゾーストシステムを組み合わせ、ベースとなった595より20psアップの165psを発揮している。このパワーアップに合わせ、足回りには専用のダンパーをはじめとするアップデートが仕込まれている。

595/595C Pistaが搭載する1.4リッター・インタークーラー付きターボエンジン。最高出力165ps、最大トルク210Nmを生み出す。

またマットブラックフィニッシュが施された10スポークの595/595C Pista専用ホイールも、1インチアップの17インチとなっている。リアバンパーはディフューザーが一体になったタイプを装着。リアリッドには「Pista」の専用エンブレムが装着され、エクスクルーシブな魅力を倍増させている。

ホイールは、595/595C Pista専用品。マットブラック仕上げの17インチアルミホイールの奥には、イエローにペイントされたブレーキキャリパーが顔を覗かせる。

一方インテリアは黒一色のファブリックで統一されており、シックな印象でまとめられている。ちなみにPistaとはイタリア語でサーキットの意味。サーキット用というよりは、走るステージを全てサーキットに変えてしまう（？）といった意味合いだろうか。

595C Pistaのインテリア。フルオートエアコン（ダストポーレンフィルター付き）やリアプライバシーガラス（後左右）が特別装備されている。

エンジンと足回りに施されたスペック変更がどのような個性を与えているのか？　さっそく595C Pistaの5速MTモデルをワインディングで試してみることにした。

アシの変更が極上の走りを演出する

ソフトトップを開けるとさわやかな風が室内に流れ込み、レコードモンツァ・マフラーが奏でるいかにもアバルトらしい抜けの良い野太い排気音が響いてくる。右足に力を込めると、瞬時にブーストの高まりが感じられ、コンパクトなボディが一気呵成に加速しいく。車格を忘れさせるような圧倒的な加速劇は、595C Pistaの真骨頂といえる。

一方、このクルマのために行われた足回りのスープアップも確実に走りに効いている。革巻きのステアリングを通して感じられるフィードバックは、タイヤが1サイズ太くなっていることもありベースモデルの595よりずっしりとした手応えがある。またステアリングを切り込んでいった時のレスポンスも向上しておりペースも自然と上がる。

足回りは、リアサスペンションにKONI製のFSDダンパーが採用されているのが特徴。

2300mmという短めのホイールベースと、ターボ過給による165psという最高出力を考えれば、ピッチング（前後方向の姿勢変化）が強めに起きてもおかしくない。だがリアに装着されたKONI製のFSDダンパーがそれを見事に抑え込んでいる。積極的にスロットルを開けていくほど乗り手との一体感が増し、一方ゆったりとしたペースで走らせればコンパクトなボディサイズを思わせない懐の深さを味わえる。今回新たに上陸することになった595/595C Pistaは、595の高いポテンシャルを、あらためて日本のアバルトファンに示してくれるに違いない。

そんな595/595C Pista、価格やスペックなど数値面の優位性はあるのだろうか？

Pistaの真価はポジショニングにあり

595 Pistaには細かく分けると4つのモデルが存在する。ボディ形式はクーペの595 Pistaとコンバーチブルの595C Pistaの2種類。それぞれのモデルで5速マニュアルと5速シーケンシャルMTAが選べるので都合4種類が揃うのである。

通常は設定のないカブリオレ+MTの組み合わせを選べるのは限定車ならでは。

ABARTHのエントリーモデルである595にチューニングを施した595/595C Pistaの位置づけは価格にも表れている。今回試乗した595C PistaのMTモデルの価格は361万円だが、最もリーズナブルな595 PistaのMTは税込328万円となっている。ベースとなったABARTH 595（MT）の税込300万円よりも28万円高となるわけだが、一方上級グレードの595 Turismo（ギアボックスはMTAのみ、363万円）より35万円ほど低い設定となっている。価格はベースモデル寄りだが、パフォーマンスは595 Turismoに近いのである。シックな見た目と快活な走りでファンを虜にする595/595C Pistaは、実際にはとてもリーズナブルなモデルという側面を持っているのだ。

シックな見た目と快活な走りが楽しめる595/595C Pista。装備やパフォーマンスを踏まえると、リーズナブルなモデルという側面も光る。

595の特徴は、車格を超越したプレミアム感とダイナミックな走りにある。だがコンパクトカーの市場におけるこのクルマの特徴は、その強烈な個性ゆえライバルがいないことに尽きるだろう。ファンは他のモデルと比べて購入を検討するのではなく、アバルトの各モデルの中で悩むのだ。そんなシチュエーションにおいて、595と595 Turismoの間に設定された595/595C Pistaは絶妙な選択肢となるに違いない。

価格は、2020年4月21日現在の全国メーカー希望小売価格（消費税10%込）です。掲載の全国メーカー希望小売価格は参考価格です。販売価格はアバルト正規ディーラーが独自に設定していますので、各店にお問い合わせください。税金（消費税を除く）、登録諸費用、保険料等、リサイクル料金は含まれておりません。別途必要となります。価格には、オプション費用は含まれておりません。

text：Takuo Yoshida（吉田拓生）
photo：Satoshi Kamimura（神村 聖）

595/595C Pistaの詳細はコチラ