ジェントルでスパイシー アバルト124スパイダー試乗インプレッション by 木下隆之

190208_124_spider_01

伝統のスパイダーを彷彿とさせる

「アバルト595」をドライブしたのは、昨年の夏のことだった。異国情緒溢れる港町・横浜を中心に、街中をトコトコやったりハイウエイをかっ飛ばしたりして、山椒がビリビリと下に痺れる感覚を味わった。ともすれば踏み潰してしまいそうに小さいのに、とってもヤンチャで猛毒の針を持つ。少なくとも、大人しくご主人様の帰宅を待つ愛犬ではない。キャンキャンとよく吠えるスピッツのようだから、付き合っているとちょっと疲れたりする。だからこそ,アバルト595のある生活は人生に活力を与えてくれるだろうし、素敵な日々を過ごせそうに思った。

190208_124_spider_02
著者の木下隆之氏。

あれから約半年。やっぱりサソリの毒素は体に回っていたらしい。そろそろアバルトを味わいたいと体が欲するからヤバいのだ。というわけで、編集部に嘆願して「アバルト124スパイダー」試乗となったのである。試乗ステージは今回も横浜にした。なんだか僕の中では横浜の混沌が、どこかアバルトに似合うような気がしたからである。

190208_124_spider_03
ボディサイズは全長4060mm×全幅1740mm×全高1240mm。ロングノーズ&ショートデッキの典型的なスポーツカーフォルムを完成させている。

アバルト124スパイダーは、マツダロードスターがベースにあることは周知の事実だろう。プラットフォームは現行のND型ロードスターそのものであり、ホイールベースは2310mmと共通だ。だがボディサイズは大きく異なっており、特に全長が145mmも長い。伸びやかな印象が強いのはそれが理由だろう。

190208_124_spider_04
アバルト124スパイダーは、1972年に登場したオリジナルを現代に蘇らせた復刻モデルである。ピニンファリーナが手がけた初代モデルにインスピレーションを受け、ボディ随所に初代を思わせるデザイン要素が盛り込まれている。試乗車はオプションの「ヘリテージルック」装着車で、エンジンフードやトランクリッドが往年のラリーマシンを思わせるブラック仕様となっている。

外観を見渡すと、ロードスターの面影がほとんど消えていることに驚かされる。124スパイダーの伝統的なアイコンである目力やテールの造形などによって、紛れもなくアバルト124スパイダーと感じさせることに、往年の124スパイダーを手がけたピニンファリーナへのリスペクトを感じさせる。

190208_124_spider_05

特に驚いたのは、コクピットに腰を下ろしたにもかかわらず、ロードスターの気配が霧消していたことである。インテリアの造形はロードスターそのものなのに、雰囲気はアバルトの世界そのものなのだ。なぜだ?

190208_124_spider_06
内装は、スポーツレザーステアリングやレザー&アルカンターラのコンビネーションシート、アルミスポーツペダルなどにより、モータースポーツに直結したコクピット空間が演出されている。

僕が見つけたその理由は、ステアリング中央に鎮座する「アバルト」のエンブレムの存在である。それだけで雰囲気ごとロードスターがアバルトに様変わりするのだから、攻撃的な前触れである尻尾をまいたサソリの強烈なオーラは只者じゃない。モータースポーツでの数々の栄光を手にしてきたサソリは、いまでも刺激に満ち溢れているというわけだ。

回すほど喜びが増すエンジン

もっとも、走り始めると、意外なほどにジェントルな振る舞いに驚かされる。エンジンはロードスターとは異なり、独自の1.4リッターターボを搭載する。最高出力は170ps/5500rpm、最大トルクは250Nm/2500rpmを絞り出す。数値から想像するに高回転型ではあるものの、ターボチャージャーならではの低回転トルクも充実しており、横浜の街中をユルユルと流すのも容易である。それでいて、せっかくだからとシフトレバーをコキコキやりながら、6速ミッションならではのスポーツドライピングに挑めばサソリの世界が開ける。エンジンサウンドは刺激が盛り込まれている。回せば回すほど喜びが増すように調教されていた。

190208_124_spider_07

コーナリングは紳士的だ。ステアリングに切れ味は鋭く、微小舵角からグイグイとエイペックス(コーナー内側のラインの先端部分)を突き刺そうとするし、そのままハードコーナリングにトライしても、最終的にはテールがムズムズと流れ出しそうな気配に陥るまで、フロントがグリップを見放すことはない。1gのダイエットにこだわったロードスターと比較すればわずかに重い。だがそれでも1130kgだから軽量には違いない。

190208_124_spider_08
コーナリングでは軽量・低重心設計による軽快なターンが楽しめる。

足回りはハード設定ではない。脳天を刺激するような乗り心地の悪さはない。それでいて軽快なハンドリングなのだから嬉しい。サソリなのだから徹頭徹尾痺れるような毒っ気なのかと思っていたら、その毒は限界域に攻めた時まで隠し持っており、平時は穏やかなことに驚いた。

190208_124_spider_09

アバルト124スパイダーのある生活ならば、とても現実的である。舌先がちょっとピリビリするくらいのオープンドライプは、冬の寒さをすっかり忘れさせてくれた。

190208_124_spider_10

木下隆之
大学生時代からモータースポーツに参加。全日本レースで数々の優勝を飾り、シリーズチャンピオンを多数獲得。スーパー耐久では史上最多勝利数記録を更新中。伝統的なニュルブルクリンク24時間レースには日本人最多出場、最速タイム、最高位を保持。レース活動のほか、マスコミ出演も多数。自動車雑誌および一般男性誌に寄稿している。日本カーオブザイヤー選考委員、日本ボートオブザイヤー選考委員。

アバルト124スパイダー製品ページはこちら
2月8日から28日までMY SCORPION HEART テストドライブキャンペーン実施中。アバルトオリジナル麻袋入りカカオセットがもらえるプレゼントも。詳細はこちらから