山野哲也選手、ABARTH 124 spiderで5年連続シリーズチャンピオンを獲得

百発百中のサソリ遣い

124 spiderで全日本ジムカーナ選手権に参戦中の山野哲也選手が、シーズン途中にして2021年度のJG7クラス・シリーズチャンピオンを手中に収めた。2017年に124 spiderで初参戦してから5年連続の快挙。参加全シーズンでタイトル獲得という輝かしい記録をアバルトと共に刻んだ。そんな偉業を成し遂げた山野選手にお話をうかがいに、9月10日(金)-12日(日)に第7戦が行われた福岡県・スピードパーク恋の浦へと向かった。


福岡県の北西に位置するスピードパーク恋の浦。

スピードパーク恋の浦といえば、2019年にScorpionna Drive for Woman(スコーピオンナ ドライブ フォー ウーマン)の舞台ともなった場所。目の前に玄界灘が広がる、美しい自然に囲まれたスポットだ。今回のコースは、全国を転戦する全日本ジムカーナ選手権のコースの中でも稀に見るロングコースで、難易度は高め。そこを疾走する山野選手のアタックの模様は、記事内の車載映像をご覧いただきたい。


2017年より124 spiderで全日本ジムカーナ選手権に参戦し、5年連続シリーズチャンピオンに輝いた山野哲也選手。

山野選手の2021シーズンのこれまでの戦績は、第1戦が2位、第2戦が1位、第3戦が1位、第4戦が1位、第5戦が1位と順調に白星を積み上げているが、シリーズランキング2位の小俣洋平選手(124 spider)との接戦が続いている状況。昨年、チャンピオンシップがかかった最終戦では100分の3秒差で山野選手が勝利(関連記事)し、2020シーズンを締めくくったが、2021シーズンも予断を許さない状況が続いた。山野選手ならびにメカニックによれば、「毎回ギリギリの戦い」「勝つか負けるか、どちらに転んでもおかしくない状況」だったという。第7戦スピードパーク恋の浦のレースでも接戦が繰り広げられた。


チームメンバーとミーティングする山野選手。

第1ヒートでは、山野選手の前を走る小俣選手が1分47秒689のタイムを刻み、ベストタイムを更新した。ちなみに小俣選手のマシンは山野選手と同じ124 spiderだが、タイヤはダンロップを履き、ブリヂストンタイヤで戦う山野選手と激戦を繰り広げている。

続いて、山野選手が出走。追い詰められた山野選手だが、そこは全日本ジムカーナで21回もチャンピオンに輝いたジムカーナマイスター。焦る様子はなく、冷静なマシンコントロールでコーナーをひとつずつクリアしていく。最後までミスなく走り切ったが、小俣選手のタイムにはコンマ7秒及ばず、第1ヒートを2位で終えた。

■2021全日本ジムカーナ Rd.7 スピードパーク恋の浦 山野哲也選手 第1ヒート車載映像

走り終わって山野選手に第1ヒートの様子をうかがったところ、左右に連続してGが掛かるセクションを抜けていく際にエンジン出力が絞られる症状が出ているとのこと。これはトラブルではなくエンジン制御のひとつで、高いGが左右に続いて検知された際に、いわゆる“おつり”(挙動の揺り戻し)でマシンコントロールを失うリスクを回避するため、クルマが自動的にエンジン出力を絞り、車両を安定方向に導く働きをする。これは一般的に安全性確保に有効な機能ではあるのだが、限界すれすれの領域でタイヤのグリップを使い切って走行するレーシングドライバーにとっては、安定化制御の介入によりエンジン出力が絞られることがタイムロスにつながってしまうこともある。山野選手によれば、ここはセッティング範囲外のことなので走り方を変えて対処するほかないとのこと。


高速コーナーと低速コーナーが組み合わされたスピードパーク恋の浦のジムカーナコース。道幅は狭め。脱輪やペナルティが続出し、難易度の高いコースとなった。

さて、こうした問題を迎えた状態で挑むことになった第2ヒート。山野選手にとってはかなり不利な状況だ。というのも、第1ヒートと第2ヒートは同じタイヤで走行するため、フレッシュタイヤで走行する第1ヒートの方がいいタイムが出やすい傾向があるからだ。実際、多くの選手が第2ヒートではタイムダウンとなった。ところが、小俣選手がなんと第1ヒートを上回る1分47秒362をマークした。これは山野選手の1本目のタイムを1秒強上回るタイム。追い込まれた山野選手が、小俣選手の次にコースに躍り出た。

■2021全日本ジムカーナ Rd.7 スピードパーク恋の浦 山野哲也選手 第2ヒート車載映像

道幅の狭いコースを目一杯使いながら正確なマシンコントロールで駆け抜けていく山野選手。車載映像からも限界まで攻めながらも、抑えるところは抑えて走るメリハリのあるドライビングが確認できる。中間タイムでは小俣選手に100分3秒差に迫るタイムをマークし、後半のパイロンセクションへ。タイトターンの続く後半セクションも非の打ちどころのないステアリングさばきを披露し、チェッカーフラッグをくぐり抜けた。が、タイムは1分47秒718。小俣選手の100分の3秒遅れで、惜しくも2位でのフィニッシュとなった。


パイロンギリギリでターンする山野選手の124 spider。

山野選手にレースを振り返ってもらった。

今回のレースで鍵を握ったのはどういったところでしたか?

「ポイントとしては、九州戦のなかでも稀に見るロングコースだったので、長時間に渡り、いい状態を維持しなければいけないというのがありましたね。ゴールするまでタイヤの高いグリップを温存すること。セッティングも最後までタイヤがグリップを発揮するものが求められますし、もちろんドライバーとしても集中力を絶やさないように落ち着いて走らなければいけません。毎年走っているコースとはいえ路面コンディションはその都度変わりますので、そこにセッティングを合わせ込むことができるかがポイントでした。今回はこのコースでは初めてのセッティングでアタックしたのですが、金曜日と土曜日はいい傾向ではあったけれども、フレッシュタイヤが組み合わされる決勝レースでは、クルマ側に高い負荷が掛かるというか、高いグリップが発揮されることになります。高いグリップを出せるぶん、クルマがその高いGに反応してしまうところがありました。現代のクルマはいい意味で制御がたくさん入っているので、結果、本番では加速制御が介入してしまう領域に入ってしまったというのがありましたね。制御が働く領域まで踏み込んだということではあるのですが、タイムは若干ロスしてしまいました」

今大会は残念ながら2位でしたが、シリーズを通してみればチャンピオン獲得ですし、しかも5年連続です。アバルトとの5年間の戦いを振り返っていただけますか。

「アバルトで参戦したすべての年でチャンピオンを獲得できたのはとてもよかったと思います。この5年間、ライバルのマシンが異なる車種の時もあれば、後半の2年は同じ車種同士の戦いとなりました。ただ同じ車種による戦いではあっても、それぞれ車両に搭載するタイヤやパーツが異なります。そういう意味ではドライバー同士も戦っているし、クルマ同士も戦っている。タイヤメーカーの戦いでもある。そうした中で5年間変わらずシリーズチャンピオンを得ることができたのは、チームドライビングマジックというチームがすこぶるピークの高い状態を維持できたこと、かつ変化に強い体制を持っていたことが大きいと思っています。そして一番感謝したいのは、124 spiderというある意味、負けないクルマですよね。そんなクルマに巡り会えたことです。まだ、誰も乗っていなかった時にこのクルマに着目し、そのポテンシャルを想像して、全日本選手権に投入する決断をしました。初戦こそ9位だったけれど、その後はかなり高い確率で優勝を重ねることができました。そういう意味では、124 spiderの持つポテンシャルが相当高いことを立証できた5年間でもあったと思いますし、このクルマに出会えたことに幸せを感じますね」


チームドラインビングマジックのメンバー。左から山野哲也選手、山崎登さん、高橋寿枝さん、笹島保史さん。一番右の方はブリヂストンタイヤの鈴木栄一さん。

最後に山野さんの今後の挑戦について教えてください。

「僕の挑戦は、常に新しいことや、まだ誰も足を踏み入れたことのない領域に足を踏み入れ、開拓していくことに人生の楽しみを感じています。全日本ジムカーナ界で初となるABARTH 124 spiderで参戦したこと、そして今こうしてその参戦台数が増えていること。そこに喜びを感じますし、レーシングドライバーとしてはパイクスピークだったり、スーパーGT、スーパー耐久だったりと、色々なカテゴリーに参戦し、それぞれのカテゴリーでクルマと一緒に自分も成長していく、そういうチャレンジが大好きです。また、クルマを運転する楽しさをみんなに知ってほしいというのもあります。ドライビングスクールをやったりとか、クルマが大好きな皆さんとコミュニケーションとり、なにかアドバイスができたりすることは、すごく自分の生きがいにもなっています」

ありがとうございました。山野選手の今後の挑戦にも期待しています。


表彰式では、本大会の表彰に続き、山野選手のシリーズチャンピオンが祝福された。

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