100分の3秒差で勝利 ABARTH 124 spider×山野哲也選手、チャンピオン4連覇を達成!

チャンピオン対チャンピオンの戦い

2020年11月7-8日、富山県南砺市のイオックス・アローザ スポーツランドを舞台に全日本ジムカーナ選手権 第8戦が行われた。第8戦といっても今シーズンは新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、開催されたのは全4戦のみ。今回の富山はその最終戦にあたり、山野哲也選手と124 spiderが戦うPN2クラスは、チャンピオンが掛かった戦いとなった。今シーズンのリザルトは、1戦目の北海道戦は小俣洋平選手(124 spider)が優勝、2戦目の福岡戦と3戦目の奈良戦は山野哲也選手が1位を獲得し、ポイントランキング1位の山野選手と2位の小俣選手が最終の富山戦でチャンピオン獲得に向け、火花を散らすこととなった。


11月の富山。気温が低い中での戦いとなるため、タイヤの性能をいかに引き出せるかが重要な要素となった。

山野選手の124 spiderでの参戦は今年で4年目。その中で今年がもっともタフな戦いとなったのは間違いない。理由のひとつはタイヤだ。山野選手の装着するブリヂストンタイヤは高いポテンシャルを誇りつつも設計年次は参戦メーカーの中ではすでに古株となっており、昨年ニュータイヤを登場させたヨコハマタイヤや今年投入したダンロップに対して、ライフサイクルでは不利な時期を迎えている。その上で、昨年PN1クラスを圧倒的な強さで制した小俣洋平選手が、124 spider&ダンロップタイヤという組み合わせで、“打倒山野”を掲げて挑んできたのである。いわば今年はチャンピオン対チャンピオンの戦いであり、ブリヂストン対ダンロップの戦いともなった。その初戦は小俣選手に軍配が上がった。


小俣洋平選手の駆る124 spider。小俣選手は2016-2018年にN2クラスおよびSA3クラスを制覇。2019年はPN1クラスのチャンピオンに輝き、4連覇を達成した凄腕ドライバーである。

毎回、すべての走行はもちろん、走行前のコースの下見から入念に行う山野選手だが、富山戦ではこれまで以上に慎重に準備を行っているように見えた。40分間の完熟歩行をフルに使い、終了後もコース前でイメージトレーニングを念入りに行っていた。その姿は、全身全霊を込めて戦いに挑もうとする気迫を感じさせた。


慣熟歩行後にイメトレを行う山野選手。激戦が予想されるゆえ、いつも以上に慎重な姿勢で勝負に挑んだ。

今大会は不安定な天気が選手たちをナーバスにした。標高900mを超え、スキー場も併設されるイオックス・アローザ。曇り空の合間から時折陽が差したかと思えば、ポツリと雨が降り出す場面も。山の気候だけに読みづらい。雨が降りウェット路面になるとFF車がポジションを上げてくる可能性もあり、そうなるとチャンピオン争いの行方にも影響する。


ひとたび雨が降ればレースの状況は大きく変わる。天候を読むのが難しい状況が続いた。

そうして迎えた第1ヒートがAM8:30にスタート。気温は低く、路面はほぼドライながら、所々湿っていた。小俣選手が山野選手に先行して10番目にスタートする。グリップの低い路面でも挙動を乱すことなく、次々にパイロンを抜けていく。タイムは1分11秒061だった。その後、12番目に山野選手がコースイン。中間タイムで小俣選手に0.5秒の差をつけ、1分10秒636でゴールした。この時点で山野選手は暫定1位となったが、第2ヒートで小俣選手が逆転する可能性が残っている。天気は相変わらず読めない状況だ。


ハードなサスペンションセッティングで挑んだ山野選手。イオックス・アローザは所どころ路面がバンピーでサスペンションが硬いと車体が跳ね気味になるが、そこは技量でカバーし、フラットな路面でタイムを詰められるセッティングを選んだという。

逆転につぐ逆転

午前11時半頃に第2ヒートがスタート。第1ヒートよりも陽が差し、気温も上がってきた。小俣選手がスタートを切る。中間タイムで山野選手の第1ヒートのタイムを0.1秒上回ってきた。MCが「ほぼ完璧に決めた!」と興奮気味にレースの状況を伝えている。小俣選手のタイムは1分10秒193。山野選手をコンマ4秒上回り、会場に拍手が沸き起こった。仮に山野選手がこのタイムを上回ることができなかったら、今シーズンのポイント争いは二勝二敗となり、2人ともチャンピオンということになる。だが山野選手が小俣選手のタイムを上回ると、山野選手が単独チャンピオンだ。


第2ヒートで小俣選手が山野選手の第1ヒートのタイムを超えてきた。お互い一歩も引かないせめぎ合いで会場を盛り上げた。

スタートラインに並ぶ山野選手は、スタート直前に小俣選手の記録更新を知ることになる。勝利へのハードルは上がった。山野選手は車中で小俣選手に拍手を送り、その数秒後にスタートを切った。全開で加速し、細かな修正舵を繰り返しながら、パイロンを駆け抜けていく。ひとつのミスも許されないなか、中間タイムは小俣選手に対してコンマ3秒のアドバンテージ。その後もミスすることなく、後半にテクニカルな360度ターンを決め、ゴールラインをくぐり抜けた。

【山野哲也選手チャンピオン獲得の瞬間 車載映像】

アナウンスの声が高鳴る。タイムは1分10秒159。小俣選手に対し、わずか100分の3秒差で大逆転を決め、勝利を収めた。ギリギリの攻防だった。会場から大きな拍手が沸き起こった。

隠れた名車

見事勝利し、チャンピオンシップを制した山野選手。自身にとって全日本ジムカーナでは通算117勝。チャンピオン獲得は20回目となる。ゴールの直後、山野選手は両手を大きく振り上げ、安堵の胸をなでおろした。

ギリギリの攻防を制しましたが、シーズンを振り返っていかがでしたか?

「そうですね。第一戦の北海道が転機になりました。敗北したことで、半端な気持ちではタイトルは取れないと思いました。自分自身にまだ詰めきれていないところがあるのではないか。今までやっていなかったことを含めてひと通り見直そうと思い、路面のチェックからラインの確認、マシンのセッティング、イメージトレーニング、体重管理など考えられることをすべてやり、新たなマシンのセッティングにも取り組みました」


第2ヒートの山野選手の走り。わずか100分の3秒差でレースを制した。

スタート前に小俣選手がタイムを更新した時、スタートラインで拍手をしていましたが、プレッシャーは感じませんでしたか?

「小俣選手は最大のライバルではありますが、記録を更新し、タイムを更新したのですから、そこには素直にリスペクトの気持ちを表しました。でも自分はベストを尽くす。それ以上のタイムを出すぞという気持ちに瞬時に切り替えました。過去にも最終戦でチャンピオン争いをしたことは何度かありますが、そういう場面で自分を追い込むことはなんの意味もありませんので。気持ちと運転を切り離すというか、ステアリングを握った瞬間からライバルは自分自身。スタートからゴールまで最大のポテンシャルを引き出すことに集中します。自分との戦いですね」


レース終了後に山野選手が小俣選手のもとへ。山野選手に勝つことを目的にPN2クラスに挑んだ小俣選手。山野選手のことは「越えるべき存在。超えなければいけない壁だと思っている」と話してくれた。この二人の戦いが今季のチャンピオンシップを盛り上げてくれたのは間違いない。

4年一緒にチャンピオンシップを戦った124 spiderに対してはどんな気持ちですか?

「124 spiderは最高のパートナーですね。優勝率で行ったら、おそらくこれまででNo.1でしょう。去年も年間9勝できたし、負けても1度か2度。それぐらいいいシーズンを過ごせているので、“スーパーウイニングマシン”だと思っています」


124 spiderと共に、全日本ジムカーナ選手権PN2クラスで4連覇を成し遂げた。4年間で31レースを戦い、25勝を達成。勝率は8割に及ぶ。

残念ながら124 spiderの生産終了が発表されましたが、これからも大切に乗っていきたい方は多いと思います。彼ら彼女らにひと言メッセージをお願いします。

「124 spiderは、タマ数は少ないですけど隠れた名車です。パッケージが最高にいいですね。ロングノーズで、FRだけどフロントミッドシップに近い。1.4リッターの小排気量ターボも扱いやすいです。足回りもよく、車体も低い。これらはジムカーナで有利なポイントですが、一般道で走らせても本当に気持ちのいいクルマです。ぜひオーナーの皆さんにはずっと大事にしてほしいですね」

ありがとうございます。そして優勝おめでとうございます!


チームドライビングマジックのメンバー。左から山崎登さん、山野哲也選手、笹島保史さん。

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