The SCORPION SPIRIT ケイ オガタさん 出逢った時に感じる空気感を写し出す

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心の奥底に眠る本能が呼び醒まされるストーリーを展開するキャンペーン「The SCORPION SPIRIT」。
ファッション、スポーツ、サウンドをテーマに3部作を撮影したフォトグラファー・ケイ オガタさん。アバルトの世界観を刺激的に表現したケイ オガタさんに「The SCORPION SPIRIT」のこと、そしてチャレンジングなフォトグラファー人生について語ってもらった。

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カメラとの衝撃的な出逢い

ファッション業界や、広告の世界において、第一線で活躍し続けるフォトグラファーのケイ オガタさん。広告、雑誌、写真集、動画など多岐にわたり作品を生み出すオガタさんに、フォトグラファーになった経緯を尋ねた。
「20歳の頃、大学を1年間休学してテレビ局のアルバイトをしていたんです。その中で広島の原爆記念式典を撮影する仕事があったのですが、現場には新聞社や通信社などのカメラマンが大勢来ていたのですが、その中にとてもかっこいいカメラマンが一人いて。 彼を見た時、一瞬でカメラマンという職業に興味を持ちましたね。格好から入りました、笑。
『カメラがあれば、人々にいろいろな事を伝えられる』。なぜか、そんな風に思ったんです。
その日、仕事帰りに友人の家に遊びに行って『写真をはじめようと思っている』と話すと、友人が『ちょうど、カメラを売ろうと思っている』と言うんです。そこで、その日のアルバイト代で、友人からカメラを買ったのが、僕のフォトグラファー人生のはじまりですね。 大学に復学後、写真部に入部したのですが、部員の中には高校時代から写真撮っていた仲間が多くて、彼らの作品を観たり話をしたり、とても面白かったですね。
その後、撮影した写真を街の写真館の店主に見せたところ「才能があるかもしれない」と言われたり、歌手になりたいという女友達を撮影した写真が良い評判を得たりして。
そんな時、当時DCブランドのデザイナーをしていた従兄弟と話をしたのがきっかけで、ファッションの写真にも興味を持つようになりました 。
そんな中、ニューヨークから帰国した日本人カメラマンの撮影風景を見る機会があったのですが、その撮影方法が斬新で、とても衝撃を受けました。それがきっかけで「どうせやるのなら、世界の中心地で写真を撮りたい」と思うようになり、単身ニューヨークへ行くことを決めました」

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ニューヨークでスタートしたフォトグラファー人生

単身渡米したオガタさん。ニューヨークでの生活は、毎日が刺激に満ちたものだったと語る。
「1977年に初めてニューヨークに行った時、ウィリアム・シラノという 60年代のトップフォトグラファーに師事しました。彼は、ハーパーズ バザーの表紙を撮影していたフォトグラファーだったこともあって、とても勉強になりましたね。 その後、縁あってGQや世界中のVOGUEなどで活躍していたアルバート・ワトソンを師事することになりました。僕が入った初日から、ザ・ローリング・ストーンズのミック・ジャガーを撮影していたり。ものすごく刺激的な毎日でしたね。
そして、1980年1月に独立。物撮りができるぐらいの小さな部屋からスタートしました。
デビューは、1月14日。ファッション雑誌のGQでした。カラフルな靴の写真を8ページ分撮影したのですが、その写真がとても評判が良く、その後もいろいろな仕事へと繋がっていきました。それから数年かかりましたが、ハーパーズ バザーやマドモアゼルといった世界的に有名な雑誌の撮影をしたり、ビューティーやファッションの仕事も多くなりました。 アメリカで創刊したばかりのELLEの仕事もしました。当時は、ファッションの仕事が中心でしたね。ファッション写真が1番かっこいいと思っていたし、そういう時代だったのかもしれませんけれど。
アメリカの場合、日本と違って広告と雑誌で、それぞれ専門のカメラマンがいるんです。僕は、もともとエディトリアルフォトグラファーだったため、当時撮影できる広告は化粧品かデパートがほとんど。衣食住でいう『衣』の部分ですね。 なので、日本に帰ってきた当時は、化粧品、食品、飲料、薬など、幅広いジャンルの広告写真を撮れるチャンスがあることに、いい意味でカルチャーショックを受けました」

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重要なのは、感じ取る力

常に精力的に活動を続けるオガタさん。フォトグラファーとして、どのようなこだわりを持って挑んでいるのだろう。
「僕は、技術的な部分でものすごく主張すると思われることがあるのですが、 実際はそうでもないんです。 技術とかスタイルというのは後から付いてくるもので、それを前面に押し出しすぎると、絵柄は綺麗ですが、ずっと見ていたいような作品にならないように思います。
技術は大事ですが、、、それよりも被写体となる人の生き方とか姿勢とか醸し出す空気感とか、そういうところに焦点を当てて撮影するように心掛けています。
シチュエーションやイメージなどまったく異なる写真を並べても、自分の作品には一貫したシンボリックな強さみたいなものがある、とよく言われます。 一番言いたいこと、表現したいこと、伝えたいことなどにストレートに向き合う。あとはそれに合った光を当てて撮る。
そういった感じ取る力というか、インスピレーションみたいなものが、現れているのかもしれませんね。
僕がこだわっているのは、技術よりもチームのコミュニケーション。
撮影は、スタッフやクライアントとの共同作業。何を表現したいか、どう売りたいか、みんなで同じゴールを目指す。それは、絶対に外せないことですね。自分以外のスタッフに良いアイデアがあったらそれをやってみます。
カラーだとかモノクロだとか、柔らかい光だとか硬い光だとか、フィルムだとかデジタルだとか、そういうことへの過度なこだわりは本質的なものではないように思います。僕の場合、大事なのは被写体となる人と出逢った時に感じるもの。 その人がどのように生きてきたか、いま何を思っているかということを感じ取る力が重要なんだと思っています」

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レンズを通して会話する

個性の異なる3人が出演した『The SCORPION SPIRIT』。本作品の撮影時、オガタさんはどのよう点に重視して撮影に臨んだのか。そのポイントを聞いてみた。
「グラフィックもムービーも、見た目がいくら綺麗でも、その瞬間の活き活きとした躍動感が写っていなかったら死んでいるようなものだと思っています。瞬間瞬間で一番いい表情やアングルを見つけ出し、瞬時に反応する。なので、撮影中はものすごく集中しています。
また一番大事に思っているのは、出逢った時に感じる、その人の持っている空気感。
僕は、その雰囲気を感じながらレンズを通して会話をする。聞き役になって、語ってもらう。そうすると、いろいろなことが感じられるんです。
存在と存在がそこにいて、無言のうちに感じ合う。目に見える世界とか、耳に聞こえる世界だけではなくて、存在が発している何かがある。そういった、オーラみたいなものが撮れたらいいなと、いつも思っています。
今回撮影した『The SCORPION SPIRIT』に出演していただいた松島花さんや宮本恒靖さん、そして布袋寅泰さんに逢った時、歓びや苦しみ、辛さや悲しさなど、様々な経験や感情が醸し出す雰囲気に、ものすごく惹かれました。そういった部分を、ダンスやサッカー、ギターなどそれぞれが持つ技を通して、その人らしく、そしてアグレッシブに表現できたと思います。これも、僕の個性とアバルトブランド、そして撮影に関わったスタッフの思いが上手く響き合った結果だと感じています。
今回の撮影は一般的なCMとは違い、 エディトリアルのような自由さがあって、とても楽しかったです。出演者とアバルトのいい表情をたくさん撮影し、最もよい部分をピックアップして編集していく。そういった自由なスタイルも、作品の出来に繋がったと思っています」

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ファッション業界からも注目アバルト

『The SCORPION SPIRIT』3部作で、595 Competizioneの心を突き刺すドライビングフィールを体感したオガタさん。彼にとってアバルトとは、どのような存在なのか。
「アバルトは、もともととても好きなブランドです。1作目で撮影した松島花さんやメイキャップアーティストの稲垣亮弐さんもオーナーですし、その他にもファッションやビューティーの業界にはアバルトオーナーが結構いるんです。
小さくて、パワフルで、そして音もいい。今回の撮影で595 Competizioneに乗ってみて、思った通り面白いクルマでしたね。常にスポーティというか、ハンドリングも気持ちいいし、高速道路でも路面に貼り付くような感覚があって、とても楽しかったです。
イタリアのクルマって、やっぱりいいですよね。マシンに乗っている感じが好きです。ただ移動するための道具じゃなくて、乗りたくなるクルマだと思います。アバルトオーナーの方には、ずっと乗り続けてもらいたいですね」

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若い頃に抱いていた夢への挑戦

これまでに多彩な作品を生み出してきたオガタさん。そのフォトグラファー人生の中で、最もチャレンジングだったことは何か尋ねてみた。
「やっぱり、ニューヨークに行ったことですね。未知の世界でしたから。それと13年して日本に帰ってきたこと。
あの頃、ニューヨークはまだ治安も悪かったですし、直接知っている人はひとりもいない。英語もある程度しか喋れなかったし、わからないことを質問することもできないし、結構大変でした。いま思うと『よく行ったなぁ』と関心しますね(笑)。でも、NYでの生活がなかったら今の自分はないんですよ」
幾多の広告やファッション誌の仕事に携わってきたオガタさんが、今後チャレンジしてみたいことについて聞いてみた。
「いまは広告やファッションの写真を中心に撮影していますが、写真をはじめた頃は新聞社のカメラマンになってドキュメンタリー写真を撮影したいと思っていました。ロバート・キャパのような仕事に憧れていて、ベトナム戦争の従軍カメラマンになりたかったんです。しかし、まもなく戦争が終わって、その夢は叶いませんでしたけれど。
いま携わっている広告の現場でいろいろな人たちとコラボレーションすることも楽しいんですけれど、最近はそういったものを踏まえた上で『ケイ オガタのスピリットとは何か』『本当は何を表現したいのか』ということを考えるようになりました。逆に言えば、それに挑戦できる技術力や経験、コミュニケーション力が整ってきたのかもしれないと思っています。
そんな時に『The SCORPION SPIRIT』のオファーをいただいたのですが、これまで僕はスチール写真を中心に活動してきたので、これは何かのきっかけみたいな感じがしました。
物凄いチャレンジかもしれませんが、今度はドキュメンタリームービーや映画を撮影できたらいいなと思っています。ファッションや広告の仕事などいろいろやってきましたが、若い頃に抱いていた夢に立ち戻るというか。
以前『亡命者』という作品を撮っていたんですが、その時クリストや『上海の長い夜』という作品で知られるチェン・ニエン、キューバや他の国の亡命者にインタビューをしました。
また『天国の日々』という映画でアカデミー賞をとったネストール・アルメンドロスという撮影監督が撮ったキューバ弾圧をテーマにしたドキュメンタリー映画『インプロパーコンダクト』を観たときに、いつか本当の意味で人を助けられるような、何か社会の役に立つような作品を作りたいと思いましたね。いまやっている仕事も好きですし、ドキュメンタリーを撮るのは無理かなと諦めていた時期もあるのですが、やはり自分が一番興味があることに戻ってくるんですね」
 
新たな目標に向けて突き進むケイ オガタさん。彼のスコーピオンスピリットは、これからも熱く走り続ける。