赤の特性をも持つラマート(銅色)の白、革新派の旗手「ラディコン」が醸すワイン
この白ワイン、飲まないと後悔する
赤なのか、白なのか? ──イタリアでヴィーノ・ラマート(銅色)と呼ばれることもあるこのワイン、たしかに見た目はオレンジのような琥珀色のような独特の色調だ。
培養酵母を使わずに醸すラディコンの香りは、爽やかな果実感こそ少ないが、ブランデーのように濃厚で豊かな芳香が広がる。その繊細な香りを存分に楽しむために考え出されたのがラディコングラス。ワインが触れる表面積を増やすことで香りを開かせる。
端的にいえば、果皮が赤くない“白ワイン用”のぶどうを赤ワインの製法と同様に一定期間皮ごと醸す、マセレーションと呼ばれる手法を用いたワイン。なのだが、赤か白かという固定観念すら覆す味わい。日本ではオレンジワインと呼ぶのも流行りだが、色だけに着目してしまうと多くを見紛う。「今流行りのオレンジワインか」などとスルーしてしまっては後悔するかもしれない。今回紹介するのは、それくらい革新的な造り手によるワインだ。
熟成=赤のイメージだがフリウリの白は力強く長期熟成にも向く。こちらは土着品種リボッラ・ジャッラの2005年(1000ml 7,000円)。スタンコさんが’95年に初めて皮ごとの発酵を行った際も土地との縁が深いリボッラ・ジャッラを用いた。ラディコンといえばまずはこれ。
ヴィナイオータ・太田久人とスタンコ・ラディコンの友情
フリウリの偉大な造り手、スタニスラオ・‘スタンコ’・ラディコン氏が先日亡くなった。そのスタンコさんが自身のワイナリー「RADIKON ラディコン」で醸したワインが今回の主役。彼が亡くなった日、その想いが凝縮したワインを世界で最も多く口にしたのは日本人だったろう。SNSのタイムラインにはラディコンの写真が並び、大勢が彼の死を悼んだ。
白ぶどうに長期のマセレーション、酸化防止剤無添加、ビンやコルクのサイズまで変えてしまった伝説の造り手、スタンコさん。マセレーションの期間は3〜4ヵ月、樽での熟成が3〜4年、ビンでさらに3〜4年、つまりリリースまでに7〜8年かかるという、まさに「儲け度外視」のワインだ。
日本でラディコンをここまで有名にしたのはヴィナイオータ・太田久人さんの功績が大きい。太田さんは良質なワインの造り手と家族ぐるみの付き合いをし、スタンコさんの葬儀では彼に向けて送ったメッセージが弔事として読み上げられたほどの関係性。ヴィナイオータにラインナップされることは、ナチュラルワインを志向するイタリアの若い造り手にとってはステータスとなるほど名の知れたインポーターである。
株式会社ヴィナイオータ代表・太田久人さん。大学時代にワインに目覚め、卒業後に渡伊、会社創業時には弱冠26歳だったという桁外れのワイン通。赤が格上といった“常識”に屈することなく、自分の感覚に忠実に、ぶどうを主役として丁寧に造られたワインをそろえる。
「自然派にこだわっているわけではなく、自分がおいしいと思うワインを集めたら結果的にそうなったんです。会社としては12万本以上、個人でも3万本のワインを所有していますが、家で赤はそれほど飲みません。ラディコンのような白を知ってしまったら、それ1本でどんな場面も満足できてしまうので」と語る。
イタリアが好き、ワインが好き、革新的なクルマが好き、そんなアバルトオーナーにはぜひともこの店を訪れてほしい。ドライバーはその場では飲めないのが無念だが、何本ものワインを買って帰りたくなるに違いない。都心からのアクセスもいいので、思い立ったときに。
太田さんが、今回アバルトで訪れた「da Dada」をオープンしたのは3年前。「飲み手である消費者のみなさんと話をしたかったので。ワインだけでなく、イタリアのすばらしい食をもっと伝えたい」との願いを込めた。
おいしいワインと本格的なイタリアンが楽しめ、ヴィナイオータが輸入する食材やワインも購入できる。地元のワイン好きはもちろん、東京からクルマで訪れる人も多い。取材当日も、都内から食事とワインを楽しみにきたカップル、切り立ての生ハムを買いに寄った地元の方などが続々と訪れていた。
伝統は革新
ラディコンの産地であるフリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州は歴史的に高品質な白ワインが生まれるゾーン。だからこそ長らくこのあたりでは、「皮ごと醸す」という、本来は伝統的に行われてきた技法が完全に途絶えていた。
「フレッシュ&フルーティという言葉に代表される、現在主流となっているスタイルの白ワインが造られるようになったのは戦後の技術革新の結果です。スタンコ自身、かつてはその時代その時代で“最高とされるワイン”を造り、早い段階から高評価を得ていました。でもあるとき、はたと気づくんです。オレは本当に自分が美味いと思うワインを造っているのか? じいさんが造っていたワインは雑かもしれないが美味かったじゃないか、と。スタンコがマセレーションをするようになったのは、彼の知人のお医者さんにグルジアのワインをふるまわれたことがきっかけのひとつだと思います。素焼きのツボを地面に埋めて皮ごと造っていた時代のワイン。それを飲んだスタンコたちフリウリの造り手は“なんだこれは・・・めちゃくちゃうまいじゃないか!”と衝撃を受けたようです」
JAKOT(ヤーコット)、逆から読むとTOKAJ(トカイ)。ミネラル豊富なフリウリの品種「トカイ・フリウラーノ」だが、トカイの名はハンガリーの甘口ワインしか名乗れないと決められたため、遊び心と反骨心を込めてこの名に。「スタンコらしいネーミングです」と太田さん。
革新派として知られるが、奇をてらっているわけではない。「たとえば、白ワインなのに皮ごと発酵させるのは皮に含まれるタンニンを抽出するため。タンニンはワインの味わいに渋みの要素を付与するだけでなく、天然の酸化防止剤的な役割も持つのです。新しい手法と思われがちですが、スタンコのおじいさんの時代には普通にやっていたこと。伝統主義とか流行りの自然派だからではなく、理に適っている上に味わいもよくなると考えているからそうしてるんです」。1000mlと500mlのボトルに、小さめのコルク。常識をくつがえすサイズや形状も、明確な理由があるのだ(詳しくは太田さんのブログを)。
3種のぶどうをブレンドしたオスラーヴィエ2003(1000ml 8,000円、500ml4,000円)。「深刻な雨不足に見舞われた2003年、ラディコンが最も過激な造りをした年でもあります。6年後にリリースされた当時はお酢っぽい酸味が強くてやんちゃなワインでしたが、今最高においしいです」と太鼓判。
長期熟成が常識のラディコン、その中でも特別なリゼルヴァ、フオーリダルテンポ。初めてこれを飲んだスタンコの友人が“Fuoridal Tempo!(時間の概念を超越している!)”と口走り、それを名にした。吟味しつくしたぶどうを遅摘みし、樽で3年、ビンで11年も熟成させた個性豊かな1本。
1本でどんな料理にも合うワイン。飲み飽きないから食後酒にも
「皮ごと醸していますから、白らしい持ち味は当然ありながら、赤の要素も。これ1本で、ハムや野菜、肉から魚まで、どんな料理でもいける。組み合わせを問わないワイン、それがラディコンのワインです」と太田さん。
「ラディコン家に行くとまずは山盛りのサラミがでてくるので」と最初に合わせた一皿。吟味したハム類を、リストアした100年モノのスライサーで提供するda Dada、その味わいは特筆に値する。塩揉みして出てきた水分だけで自然発酵させたキャベツのクラウトとピクルスも添えて。
モデナあたりでよく見かけるという、伝統的で良質なバルサミコを使った玉子焼き、フリッタータアル アチェートバルサミコ。バルサミコの自然な甘みとなんともいえない香りがしみじみおいしい。この優しい味わいをまったく邪魔しないどころかよりおいしくするのがラディコンなのだ。
太田さんイチオシのパスタ「カーザディタヤリン」。古代品種の無農薬小麦、健全な飼料で育ったニワトリの卵など吟味された原材料で丁寧に作られている。素朴な味わいを活かすため、バターと松の実とパセリだけのシンプルな味付けで。滋味にあふれた小麦のおいしさが広がる。
合わせる料理を選ばず、最後までこれ1本でいける・・・それは決して「サラッとしていてクセがない」ということではなく、酸味やコクのバランスが絶妙で、それでいて非常に個性的でもあるのだ。言うまでもなく、重要なのは色ではなく造り。赤か白か、はたまたオレンジか、と世間ではいうが、太田さんは「ワインを色で類別するのは無意味。むしろほとんど透明な白ワインのほうが不自然なのかも。あくまでも色ではなく味わいで判断されるべきではないでしょうか」と話してくれた。
革新的な造り手を愛する太田さんは、自身も静かなる革新派。ワインはもちろんだが、チョコレートもパスタもチーズも生ハムも、彼の目利きで選ばれたものなら間違いない。つまり、da Dadaに行けば間違いないワインと食材がそろうのだ。ぜひ、愛車とともに訪れてみてほしい。イタリアの本物に囲まれて幸福な気持ちになれるはず。
da Dada
茨城県つくば市西平塚334-1
029-858-0888
13:00〜23:00(22:00 L.O)
月・火曜日定休(祝日の場合は翌営業日)
駐車場は6台分
Photo: SHIge Kidoue
Text: Kaoli Yamane