アバルトオーナーが追求する本物のトラットリア ~24年目の四谷「LA VITA」~
目指したのは「フィレンツェの裏通りにある小さなトラットリア」
イタリア人が「なつかしい」と思うような、正真正銘のトラットリアが四谷にある。1993年オープン、今年24年目を迎える「LA VITAラ・ヴィータ」だ。今どきなかなか見かけないような、素朴でいて凝った造りの内装は、長い年月をかけて使い込まれた空間だけが持つこなれた雰囲気をまとい、抑えた照明がじつに落ち着ける。
「暗いと言われたこともありますが、ここは譲れません」と笑うオーナーシェフの須田祐司さん。店のコンセプトは“フィレンツェの裏通りにある小さなトラットリア(食堂)”。「向こうのトラットリアで、蛍光灯が煌々と照っている店なんてありませんから。イタリアの雰囲気にはこの暗さが大事なんです」
シェフの須田祐司さん。四谷三丁目から徒歩1〜2分と便利な立地ながら、「フィレンツェの裏通りにある・・・」というコンセプトそのままの静かな細い路地に建つLA VITAには、須田さんがイタリアで体験した温かい思い出や文化が反映されている。
通い詰めた地元の食堂で「働いてみない?」と言われて
本場のトラットリアの魅力に触れたのは20代の頃。「最初はアバルトを専門にチューニングする日本の会社で働いていました。もともとイタリア好きでしたがますます好きになり、3年ほどでその仕事を辞め、フィレンツェに行ったんです。1ヵ月の予定があまりにも気に入ってしまいそのまま3ヵ月。そのとき毎日ランチしていたトラットリアがありました。そこが僕の原点ですね」と振り返る。
そのトラットリアは、毎日同じような顔ぶれの常連客が集まる地元の食堂。「父、母、娘の3人でやっている小さなお店でしたが、あるとき父ちゃんが倒れてしまって。働いてみない? と声をかけてもらい、そこのマンマの料理を教わったのがスタートでした」
店の真ん中に無造作に置かれたカトラリー。グラスワインを頼めば気負いない風情で出てくる。まさに本物のトラットリア。「本当はクロスも敷きたくないんですが、接待にも使いたいからという常連さんの要望もあって。25周年に向けて、原点回帰でクロスとかやめちゃおうかなぁ」と楽しげに計画中。
肩肘はらないトラットリアの魅力と味をそのまま再現
「当時、日本のイタリアンはトラットリアと名乗っていてもみんなリストランテのイメージで、テーブルマナーとか気にしながら気取って食べるものだろう、と思っていました。でもイタリアのトラットリアは、こじんまりと温かくて、店主が客と大笑いしながら料理を作っていたり、カウンターで常連が口げんかしていたり。浅草生まれの自分にとっては、そのガチャガチャした雰囲気がとても居心地よくて、こういう店を日本でやりたいな、と」
ラッツィオ風鶏もも肉の煮込み(1,600円)。ワインビネガー&白ワインに大量のハーブ、トマトと玉ねぎと良質なオリーブオイル、塩で丸鶏をじっくり煮込んだ、ラッツィオ地域のトラットリア定番メニュー。素材の持ち味が生きている。
暗めの照明、コップで出すワイン、盛り付けもあえてキレイにし過ぎない。自分が知るトラットリアの気取らない雰囲気やあり方をそのまま再現したい・・・その想いは料理にも十分に生かされている。
年に数回はイタリアのトラットリアをまわり、ここ数年は知人の紹介で一般家庭にも訪れマンマの手料理を教わったりもする。「向こうで食べた料理は無数にあり、どれも日本のお客さんが好みそうな味にすることはできますが、それをやろうとは思いません。アレンジするのではなく、日本人が好きそうなものをチョイスして、できるだけ忠実に再現したいのです」と丁寧に、想いを込めてLA VITAの味を作り出す。
繊細なオリーブオイルの魅力にハマっているというシェフ、店では4種を使い分ける。プジャーティトラパネーゼ(1,500円)は、Titoneというオリーブオイルありきでの考案。手打ちのプジャーティ(パスタ)にTitoneの故郷トラーパニの定番ペストトラパーゼをからめて。モチモチとした食感がたまらない。
料理上手なイタリアの友人に教わった郷土料理「ブランダクイユン」
アレンジしない理由は、向こうで知り合った人たちやイタリア文化へのリスペクトから。「たとえば・・・」と、ブランダクイユンを挙げる。この料理との出会いは、昨秋、アバルト仲間でもある知人の紹介で、料理上手と評判のマリアルイージャに会うためにリグーリア州の小さな田舎町を訪れたときのこと。
リグーリア州ルチナスコに住むマリアルイージャさん。彼女の手料理を4食もご馳走になり、ご主人には野菜畑やキノコ狩りにも連れて行ってもらったそう。そうした大切な思い出も、須田さんの作る郷土料理に生かされている(写真提供/須田さん)。
初対面なのに、夜昼夜昼と4食も手料理をご馳走になるほど、気負いのない自然体のホスピタリティで受け入れてもらったという須田さん。「料理好きの彼女が作る数々の伝統的な家庭料理はどれもおいしくて。旅立ちの日の昼、本当はもう出発の時間だったのに、それを遅らせてまで僕にどうしても食べさせたい、と作ってくれたのがブランダクイユンでした」
ブランダクイユン(1,000円)。タラとじゃがいもというイタリア各地で見かける組み合わせに、松の実、オリーブオイル、レモンを合わせた素朴きわまりない料理。素朴ゆえの素材の力強さと、ワインに合いそうな塩加減で、食が進む。
「マリアルイージャがこの料理を作るというと、近くに住む家族や親戚も容器を持って駆けつけるんです。一見なんてことないけど、家族への愛情をたっぷり注いだ手料理。だから僕はイタリアの郷土料理が大好きだし、自分が見てきた風景や思い出を大切にしながら作っています。初対面の僕のためにおいしい料理をふるまってくれた彼女への恩返しという意味でも、きちんとその時の味を守りたいんです」
「とにかく人が好き。お客さんと関わるのがトラットリアだし、イタリアの食材も作り手と会ってから仕入れています。野菜もそう。16年間、無農薬の契約農家から仕入れていますが、年に何回かは畑を見せてもらいに行きます。何をするにも人が大事」
サーキットも走行する須田さんの愛車はアバルト!
ところで、須田さんはイタリアの食だけでなくクルマに関しても自他共に認める愛好家。「FIAT X1/9(エックス ワン ナイン)」に始まり、「アバルト 131」や「プントアバルトHGT」などを乗りついで、現在は「アバルト 500」を愛車に迎えたばかり。そのクルマで、週末はアバルトユーザーが集まる走行イベントに参加することもあるという。
須田さんの新たな相棒「アバルト 500」(写真提供/須田さん)。
「趣味でレースにも出ています。ハマりやすい性格なので、ついきわめたくなるんです。いろいろ乗りましたが、アバルトは格別。スーパーカーを持っていても普段はアバルト 500にばかり乗っているっていう友達も多いです。いろんなクルマを乗り継いできたおじさんたちがアバルトに惹かれるっていう事実が、このクルマの魅力を裏付けている気がしますよね」。最近は若い世代でもアバルトに関心を持つ人が増えているが、須田さんたちのようなクルマ好きの先達から話を聞くことで、クルマ選びや楽しみ方を存分に学べるのではないだろうか。
プントアバルトHGTでは、レースにも多数出場した。「大衆車であるFIATの小さなボディは生かしたまま、サーキットでも走れるようにしたのがそもそものアバルト。輸入車の中では手が届きやすく、それでいて楽しく乗れるのが魅力ですよね」(写真提供/須田さん)。
イタリアの車は子どもの頃から好きだった。「実家がガソリンスタンドで、おやじはアルファ ロメオが大好きでした。僕自身もイタリア車を見て育ったし、根っからのイタリア好きなんです」
根っからのイタリア好き、そしてエンスージャスト。その片鱗は店内に飾られた小物にも表れている。
来年25周年を迎えるトラットリアLA VITA。本物の雰囲気と味、須田さんとのクルマ談義を楽しみにぜひどうぞ。
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トラットリア LA VITA
東京都新宿区四谷3-4-9
03-3359-0456
ランチ(火・水・木のみ)11:30-14:00(LO)
ディナー 18:00-23:00 (LO)
日曜・祝日定休
Photo: SHIge Kidoue
Text: Kaoli Yamane