旅行や出張ついでに立ち寄りたいスポット紹介【北海道編:二風谷でアイヌの世界観を堪能】

知的好奇心を満たす巡礼トリップ

旅行や出張で遠方を訪れた際、目的地で用件が終わって少し時間ができた、というのはよくあること。そんな時、周辺に面白いスポットがあるならぜひ行きたい!という人に読んでいただきたいのが当コーナー。今回は、北海道千歳空港からクルマで1時間ほどの二風谷(にぶたに)をご紹介。北海道には魅力的なスポットは数多くあるものの、土地が広大なため、新千歳空港から1時間圏内となると選択肢はグッと狭まってしまう。その点、二風谷(にぶたに)は新千歳空港から約65kmでしかも大半は高速道路での移動のため、運転好きの人ならクルマでサッと行けるうえ、そこで得られる経験はとても新鮮なもの。主要な目的地にもなり得る魅力を感じられるはず。というわけで、さっそく紹介していこう。


二風谷コタンに復元されたチセ(家)群。アイヌ文化振興の拠点として、観光客にも親しまれている。

北海道・平取町の二風谷は、人口は400人ほどの集落で、アイヌの人々が約7割を占める。周辺にアイヌ文化を伝承する施設が豊富にあり、開かれた環境のなかで異文化の生活様式や伝統、世界観に触れることができ、観光で訪れても肩身の狭い思いをしないで済む。旅に視野を広げることを期待したい人にはぴったりのスポットだろう。


日高自動車道・日高富川ICから20分ほど。ほぼ一本道なのでカーナビや看板を頼りに向かえばたどり着けるはず。

アクセスは、日高自動車道・日高富川ICから20分ほど。高速道路を降りて、国道237号線を二風谷方面に進むと「二風谷コタン」の看板が見えてくる。その周辺が集落になっており、アイヌの人々が生活を営んでいる。“コタン”とは、アイヌ語で集落や村の意。二風谷コタンには、“チセ”と呼ばれるアイヌ伝統の家が立ち並び、ひとたび足を踏み入れると昔にタイムスリップした気分になる。なお二風谷コタンは、入場無料で見学が可能だ。


二風谷コタンの入り口の様子。散策のつもりで気軽に立ち入ることができる。無料駐車場も完備。

思わず引き込まれる異文化の趣

コタンに立ち並ぶ“チセ”は、歴史伝承と観光振興のため再生されたものだが、かつて人々が生活していたもの同様に自然素材で忠実に再現されているため趣がある。近くを流れる沙流川の流域で採取された、ヨシを用いた段葺きの三角屋根がその特徴。チセには、いずれも3つの窓が設けられている。カムイ(神)のみが出入りを許された窓、光を受ける窓、汚れ水を捨てる窓という具合に、それぞれに意味が込められているそうだ。


アイヌの伝統的な住居“チセ”。

また、チセの近くには、“プ”と呼ばれる高床式の倉が設けられている。これはヒエやアワなどの食物を保管したり、山菜を乾燥させたりするために使われたそう。このほかにもチセの周りには祭壇や仔グマのオリ、便所などが設置され、当時のアイヌの人々の生活の営みを想像させる空間となっている。所々に設置された解説ボードを読んでいるとますます興味が湧いてきて、新たな出会いに引き込まれていく感覚を覚える。


高床式倉庫“プ”。収穫した食材の保存用に使用された。

なお、二風谷コタンには、二風谷アイヌ文化博物館が隣接され、ここにはアイヌの生活用具が展示されている。館内は、アイヌの人々の暮らしに関わる衣食住に関する展示コーナーや、カムイ(神)との関わり方に触れられるコーナーなど、テーマに沿って展示物が置かれている。展示物は相当な数だが、アイヌ文化研究者の故萱野茂氏が収集されたものも収蔵されているとのことで納得。アイヌの文化や生活様式をより詳しく知りたくなったら立ち寄りたい。入場料:大人400円。


アイヌの伝統を発信している二風谷アイヌ文化博物館。冬季も開館しているが、開館日など詳細はホームページをチェックされたい。

二風谷は、アイヌの人々の生活に密接な関わりがある沙流川(さるがわ)の沿岸に位置する。沙流川はアイヌ語で“シシㇼムカ”と呼ばれ、アイヌの昔話にもたびたび登場する。アイヌの人々は沙流川の川州でアワやヒエを栽培していたそう。それらを秋に収穫すると、プ(倉庫)で保存し、冬季に消費したそうだ。沙流川では他にも様々な食材やものづくりの素材(樹皮)がとれ、アイヌ民族にとって大事な場所だったことがうかがえる。


沙流川の流域。アイヌ民族にとって食材やものづくりの原料を得る場所であると同時に、信仰の面でも重要な場所だった。

二風谷コタンやその周辺を散策すると、かつてアイヌの人々が様々な神を崇拝し、儀式や儀礼を大切なものとして生活に取り入れていたことを知ることができる。チセの内部には守護神を祭る場所を設け、窓の方角も定められていたことからも、そうした生活様式を垣間見ることができる。


二風谷コタンに隣接する平取町アイヌ文化情報センターでは、アイヌ伝統工芸品を展示・直売を行っている。

近くには、沙流川と額平川が分岐し、合流する場所があるのだが、川と川がぶつかる場所はアイヌではペテウコピ(川が・そこで・互い・に・捨て去る・場所)と呼ばれ、礼拝の対象となっているそう。こうした興味をくすぐるスポットが点在していて、予備知識がなく訪れても十分に楽しめるだろう。せっかく立ち寄ったなら、五感をフルに動員して情緒あふれる景観や新たな知識、そしてパワーを吸収して帰りたいところ。

というわけで、新千歳空港から1時間ほどの魅力あるスポット、二風谷。旅行や出張の空いた時間を有効に利用したい人や、刺激や知的好奇心を満たしたい人におすすめしたい場所だ。

参考文献
平取町文化的景観解説シート
アイヌと神々の物語 炉端で聞いたウウェペケレ 著者:萱野茂 発行:山と溪谷社